Reuters logo
コラム:米QE波乱相場の先に見えるユーロブーム再来=嶋津洋樹氏
2013年9月13日 / 03:52 / 4年後

コラム:米QE波乱相場の先に見えるユーロブーム再来=嶋津洋樹氏

予想より弱めの8月雇用統計やシリア問題を受けて、米量的緩和(QE)縮小観測は冷や水を浴びせられた。しかし、米連邦準備理事会(FRB)が17―18日の連邦公開市場委員会(FOMC)でQE縮小に踏み切る可能性は引き続き高いと考えている。

金融政策の変更はあくまで当該国の問題で、海外が注文をつけることではないが、米国はドルが事実上の基軸通貨であることから様々な恩恵を受けている。その分、ドルの価値を左右する金融政策が予期せぬ影響を内外に与えることも事実だ。実際、一部の新興国では、市場がQEの規模縮小を織り込む過程で資金流出が深刻化。過去の経験から、FRBの金融引き締めで通貨危機を誘発するリスクも指摘されている。

確かに、1990年代を振り返ると、米国の金融政策が引き締められる局面で新興国の通貨危機が発生している。メキシコ通貨危機(95年1月)、アジア通貨危機(97年7月)、ロシア通貨危機(98年8月)はその典型だろう。ただ、当時のフェデラルファンド(FF)金利は軒並み5%超で、利上げの最終局面だった。今回のようにFF金利どころか、緩和の度合いを縮小する議論だけで新興国が危機に陥るというのは、非伝統的金融政策の効果が未知数とはいえ、行き過ぎた懸念に思える。

<痛みに耐えた欧州への評価は一変>

こうしたなか、過剰な懸念にさらされる新興国を尻目に、急速に評価を上げているのが債務危機に苦しんでいた欧州の国々だ。特にユーロ圏については危機が去ったかのような錯覚すら覚える。

実際、欧州各国は債務危機を前にただその通過を待っていたわけではない。ドイツを筆頭とする支援国は、欧州金融安定メカニズム(EFSM)および欧州金融安定ファシリティ(EFSF)、欧州安定メカニズム(ESM)の設立、欧州中央銀行(ECB)による国債買い入れプログラム(OMT)の創設など、事実上の財政移転や欧州連合(EU)加盟国の救済を容認。それまで頑なに否定していた財政統合に向けた最初の一歩を大きく踏み出した。

また、ギリシャやアイルランド、ポルトガルなどの被支援国も、「痛み」を伴う財政再建や構造改革を実施。欧州内外からはドイツ流の押しつけで「やり過ぎ」との批判や、被支援国にユーロ圏からの離脱を勧める声さえあったが、改革路線が大きく変わることはなかった。EUは、リーマンショック後に債務危機に陥ったハンガリーやルーマニアに対しても同様の支援を実施。その際も構造改革の受け入れを迫っていた。

欧州各国が課題を抱えながらも、QE縮小観測で新たな危機に見舞われず、新興国からの資金の逃避先になっているのは、「痛み」に耐えた成果と言えるだろう。経常収支の赤字を抱えるトルコやインド、ブラジル、インドネシアでの混乱は、欧州の危機時の対応が正しかったことを裏付ける。これらの国々はインフレ圧力が残るなかで、緩和的な金融政策、拡張的な財政政策を続け、自国通貨高も受け入れてこなかった。

EUは今年7月、ラトビアによる14年1月のユーロ導入を正式に承認。そのEUには同じ7月にクロアチアが加盟した。欧州の外から見ると、債務危機を抱えるEUやユーロ圏への参加は奇異に映るだろう。しかし、ラトビアやクロアチアのような独立間もない国にとって、危機時に大国の支援が得られる仕組みは魅力的に違いない。上述した通り、支援を獲得するには「痛み」を受け入れる必要があるが、交渉の余地が全くないわけではない。国の大小にかかわらず一定の発言権を与えられるのが、EUやECBの基本的な構造だ。

むろん、欧州債務危機の解決には、いっそうの時間と努力が必要だ。ギリシャへの三度目の支援の是非や、イタリアでの政治的な混乱と財政再建路線の後退、キプロスでの資本規制の継続など、依然として課題は山積している。債務危機の再発防止で中心的な役割が期待される銀行同盟は、突破口とされる監督業務の一元化ですら合意が得られていない。

また、新規加盟国の増加が欧州通貨危機を誘発する恐れはゼロとは言えない。というのも、域内最強のドイツと新規加盟国の経済力の差を、安定成長協定の順守や為替の統合比率で完全に調整することは難しいからだ。そして、その差はFRBが金融緩和を強化する際に問題を引き起こす。

事実、92年9月の欧州通貨危機と08年10月の東欧通貨危機、そして現在の債務危機はすべてFRBの金融緩和のなかで発生した。筆者はその原因を世界経済が減速するなかでの自国通貨高を容認する欧州、特にドイツの姿勢にあると考えている。つまり、「物価の安定」を半ば絶対視する旧独ブンデスバンクや、その伝統を受け継いだECBと、「物価の安定」とともに「雇用の最大化」を掲げるFRBとの金融緩和策のペースの差だ。

具体的には、FRBが金融緩和に踏み切ると、ドルに下落圧力がかかる。その際、自国通貨をドルに連動させている国は通常、ドル買い・自国通貨売りに踏み切る。ただ、「物価の安定」を優先する旧独ブンデスバンクやECBの場合、金融緩和策はFRBに比べて慎重になりやすい。タイミングも遅れがちだ。その結果、当時のドイツマルクや現在のユーロは世界経済が減速するなかで上昇圧力にさらされる。

ドイツのように輸出競争力が高い国では、こうした自国通貨高を容認しても影響は限られる。しかし、92年はすでに欧州通貨制度(EMS)の下で、共通為替政策を模索していた時期だ。ドイツ以外の国がドイツマルク(当時)高に追随せざるを得ない通貨政策はEMS内での軋轢を高めただろう。輸出競争力の劣る英国(ポンド)、イタリア(当時リラ)が投機にさらされたのは当然に思える。通貨安の波はその後、スペインなどにも波及。EMSからの離脱やEMS内での通貨切り下げに追い込まれる国が相次いだ。東欧通貨危機も、その後の欧州債務危機も危機が拡大する構図は全く同じ。ドイツが最終的に危機拡大の阻止に乗り出さざるを得なくなる点も変わらない。

それでも、ドイツが通貨統合をあきらめたり、ユーロから離脱したりすることはなかった。ドイツはむしろ、ある程度の負担を前提に通貨統合を前進させ、ユーロの存続に腐心しているようにすら見える。筆者はドイツが自国よりも競争力の劣る新規加盟国を迎えることで、意図的かつ国際的なルールに抵触することなく通貨高を抑制していると分析している。ドイツが通貨危機時に救済資金などを負担するのは、そのコストに過ぎない。つまり、EUやユーロの存続はそこに所属する全ての国にとってメリットがあると言える。欧州のこうした構図を理解すると、EUやユーロの崩壊はあまり現実的なシナリオではないことが分かる。

<債務危機を経たユーロの基盤は強固に>

筆者は欧州が通貨ユーロの誕生に取り組んだ原動力として、米国とドルへの不信があったと考えている。欧州各国は米国の都合で大きく変動するドルの影響から逃れるために、最強と言われたドイツマルクを軸に通貨ユーロを作った。

ちなみに、そう考えれば、米国と特別な関係を持つ英国がユーロに懐疑的なのも理解できる。英国のユーロ懐疑論の背景には、かつての基軸通貨である英ポンドへの愛着やこだわり以上のものがあると見ている。それはすなわち米国とドルに対する大陸欧州との立ち位置の違いである。英国が欧州債務危機をきっかけにEUやユーロを負担と感じたとしても、それもまた当然の流れだ。英国の姿勢だけを見て、ユーロの前途を悲観する必要はない。

むしろ、ユーロの基盤は欧州債務危機が発生する前よりも強さを増したと言えよう。債務危機はユーロが抱えていた問題を顕在化させると同時に、ユーロ圏各国に改めて通貨統合に対する覚悟を迫った。そして前述したように、ユーロ圏各国は痛みに耐え、この難局を乗り越えつつある。リーマンショックと欧州債務危機でいったん終了したユーロをめぐるブームは近い将来、再び到来する可能性が高いと筆者は見ている。

*嶋津洋樹氏は、1998年に三和銀行へ入行後、シンクタンク、証券会社へ出向。その後、みずほ証券、BNPパリバアセットマネジメントを経て2010年より現職。エコノミスト、ストラテジスト、ポートフォリオマネージャーとして、日米欧の経済、金融市場の分析に携わる。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」
0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below