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コラム

コラム:インフルエンザ最大の危険は「勘違い」

今年もインフルエンザの季節がやってくる。本格的な到来を前に保健当局が予防注射を呼びかけているが、世界では毎年、最大500万人がインフルエンザで重篤な状態になり、25万─50万人が命を落としている。

10月25日、世界では毎年25万─50万人が命を落としているインフルエンザだが、抗菌薬が治療に効果的という誤解が、副作用や医療費の増大などの「危険」を増やしている。写真はワクチンを注射する医療当関係者。2009年11月撮影(2013年 ロイター/Michael Buholzer)

米国では毎冬インフルエンザによって1億1100万日の労働日数が失われているが、これは病欠や生産性低下による年間約70億ドル(6800億円)の経済的損失を意味する。

極めて感染力が強いインフルエンザは、ウイルスによって引き起こされる。感染者の咳やくしゃみを通じた飛沫感染で急速に広がり、死に至るケースもある。万能薬とまではいかないが、ワクチンはインフルエンザの予防に効果を持つ。

しかし、米国や欧州での啓発活動にもかかわらず、インフルエンザについては今も多くの人が誤った知識を信じている。つまり、インフルエンザの治療で最も効果的なのは抗生物質という誤解だ。そして多くの医師も、子どもを心配する親たちが抗生物質を望む場合には、インフルエンザには効かないという科学的・医学的な真実を無視して処方してしまう。

最近欧州で行われた調査では、回答者の半数が通常の風邪とインフルエンザの両方に抗生物質が効果的だと認識していた。──抗生物質という言葉はそもそも誤解を招く名前だ。厳密に言えば、抗生物質とは微生物が作った化学物質を指すが、実際には大半の薬は人工的に作られたものであり、まとめて「抗菌薬」とすべきだろう──。

米国やオーストラリアなどでも調査の結果は同様だった。抗菌薬は細菌に効果があるのであって、ウイルスには効かない。インフルエンザはウイルス感染する病気である。

抗菌薬はインフルエンザに効果が無いどころか、以下に挙げる3つの理由から有害とも言える。まず、いかなる薬にも副作用が起き得るという点だ。まれに深刻な症状になることもある。抗菌薬が下痢を引き起こすことはよく知られているが、1万分の1の確率でアナフィラキシーと呼ばれるアレルギー反応を起こし、早急に治療しなければ命を落とすこともある。

2つ目は、薬にはお金がかかり、効果の無い薬を買うのは無駄遣いということだ。ある研究によると、米国では、上気道感染症(かぜ症候群)にかかった成人に対し、不必要な抗菌薬の処方箋が年間4100万件出されており、これに10億ドル以上が費やされている。

3点目は最も重要だ。抗菌薬を服用すると、菌を殺すことはできるが、抗菌薬に耐性を持つ「耐性菌」が成長し、増殖するということだ。薬を誤って使用してきたことで、耐性菌は世界的な脅威となり、だからこそ抗菌薬は高い治療効果が期待できる時だけ服用することが重要だ。言い換えれば、何に感染しているのか、感染の元を断ち切るのに最も効果的な薬は何なのかを知る必要があるということだ。

インフルエンザに抗菌薬が効かないということは、これまで長きにわたって科学者や医師、医療専門家らの知るところであった。しかしこれまで見てきたように、患者や臨床医の行動を変えるところまで情報が行き届いているとは言えない。米シンクタンクのランド研究所が行った研究によれば、医師は子どもの親が抗菌薬を期待していると感じた場合に、より高い確率で抗菌薬を不適切に処方するという。

一般の人々や専門家らの注意を喚起しようと、数々のキャンペーンも行われている。フランスでは2002年から啓発活動が実施されているほか、米国では疾病対策センター(CDC)が1995年から毎年、「賢くなろう、抗生物質が効く場合を理解する」と銘打ち、健康な成人や子どもの親が抗菌薬を欲しがるのを抑える目的で活動を行っている。両国では、処方された抗菌薬の数が4分の1減り、子どもへの処方が最も少なくなった。

啓発活動が不適切な処方の減少につながっていることは称賛されるべきだが、今なお医療専門家はインフルエンザに抗菌薬を処方しているし、われわれも病気になった時に抗菌薬を求めてしまう。これからインフルエンザの本格的なシーズンを迎えるにあたって、われわれ全員には責任がある。効かない薬は求めない──危険かつ反社会的な行為だからだ。

(25日 ロイター)

*著者Jonathan Grant氏はランド研究所の主席研究員で、著作には抗菌薬耐性について書いた共著「The drugs don’t work: A global threat(原題)」などがある。Jirka Taylor氏もランド研究所のアナリスト。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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