December 27, 2013 / 4:48 AM / 6 years ago

コラム:2014年も続く円安への歴史的大転換=斉藤洋二氏

2013年を振り返れば、金融市場では様々な出来事が起き、時として「予測」を超える動きがあった。結果的に見ると、先進国では株高が進んだが、新興国経済が停滞に陥ったこと、また量的緩和(QE)の出口戦略をめぐるバーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長の発言で5月に市場が混乱をきたしたことなどは予測外の動きとして挙げられるだろう。

「予測」は論理性と合理性の上で立てられるが、実際の経済そして金融市場は欲望、恐怖といった人々の心理を反映する。論理だけでは説明できないことが起こる世界である。特に短期的な市場の動きは、様々な「ノイズ」により乱高下しやすいことを改めて認識させた。

<長期予測は当たる>

ノイズの影響を受けることから短期予測が難しい一方で、長期的な予測は案外当たるものである。この根拠として「地中海」の著者である20世紀のフランスの歴史学者、フェルナン・ブローデルの歴史観が挙げられる。

ブローデルは16世紀のフェリペ2世時代のスペインに焦点をあてて研究し、歴史を3つの周期でとらえた。つまり歴史というのは、表面的かつ短期には個人や出来事史により成り立ち(短期持続)、中期的には社会の歴史、すなわち人口動態や戦争などにより決定され(中期持続)、そして深層においては自然や環境などにより決定される長期周期運動があるとした。そして、このうち長期持続を最も重視した。

ブローデルの歴史観を現在の日本に当てはめると、短期については様々な出来事の発生によりその傾向はとらえにくいが、中期では少子高齢化の進行、そして長期的に見ればCO2の増加や原発を含めたエネルギー問題など自然・環境の悪化があり、国家の衰退が続いていくことが予測される。

1990年代半ばを境に生産年齢人口が減少に転じ、さらに08年12月に総人口が約1億2809万9000人でピークアウトしてほぼ5年を経過した。かかる人口ボーナス期からオーナス期への劇的変化に加え、巨額の政府債務残高やエネルギー不足など中長期的な経済条件の悪化を見れば、日本経済が低落傾向に入っていることは否定しがたい。73年の変動相場制移行以来続いてきた円高の40年は終了し、今まさに円安への歴史的な大転換期にあると考えてよいのではなかろうか。

<市場へのやさしさ度合いで競い合う中銀>

それでは14年という「短期予測」はどのように考えるべきか。最大の材料は引き続き金融政策だ。「パーティーが盛り上がり始めたところでパンチボウル(酒などの入ったボウル)を取り上げる」とはウィリアム・マーチン元FRB議長(在任期間は51年から70年まで歴代最長の18年10カ月)の有名な言葉だが、かつて中央銀行の主な仕事はインフレを阻止すべく予防的措置をとることだった。

ところが、この中央銀行のイメージをグリーンスパン前FRB議長(在任期間は87年から06年まで歴代2位の18年5カ月)が変えた。同議長は、民間の自由に任せ市場に寄りそう政策をとり、いざという時にはFRBがレスキューに回る存在であるとの印象を植え付けた。この政策は、米国経済に「グレート・モデレーション(大きな安定)」の時代をもたらしたが、これが、いわゆる「グリーンスパン・プット(グリーンスパンの庇護)」と言われた。

このような金融政策の変遷については、池尾和人・慶應義塾大学教授の「連続講義・デフレと経済政策」に詳しいが、ここで言う「プット」とはオプション理論における「売る権利」である。つまり価格が下落した場合には、市場が行使する権利に対し中央銀行が高値で買い支えてくれるという意味になる。

「グリーンスパン・プット」は積極的なリスクテイクを促し、結果としてリーマンショックに至ったことは記憶に新しい。グリーンスパン前議長の功罪は議論が分かれるが、中央銀行も経済が高度成長から低成長下へと変化するにしたがい、市場に「水」をさす役割に徹し続けるわけにいかなくなったのはやむを得なかったのだろう。

一方、現在の日本は、アベノミクスから1年、そして黒田日銀の異次元緩和から8カ月を経過し、世界同時株高をけん引している。政府・日銀は水をさすどころか、期待をあおり市場を支えるとのプット(庇護)を与えている。このプットを背景に市場は14年4月の消費税増税を前にした追加緩和策をすでに織り込み、株高・円安傾向は一段と強まっている。

ただ、いずれ議論される出口戦略をめぐり市場では疑心暗鬼が渦巻く可能性は高い。そもそも一方向へと巨大に積み上がったポジションが反転した場合、政府・日銀による市場下支え機能は発揮されるのか疑問であり、過剰な期待は禁物である。

先進各国の中央銀行は金利がゼロ水準となった今、QEさらにはフォワードガイダンスとあらゆる手段を使い、現在のみならず将来的にも金融緩和の継続を市場に約束している。14年は引き続き先進各国中央銀行のプットの行方が注目される。米国では当面、14年1月のQE縮小開始後の資産購入減額ペースが市場の関心を集めるが、FRBのみならずその他中央銀行の市場へのやさしさ度合いの変化が大きなかく乱要因となるだろう。目先リスクオンの相場が続くとの期待は大きいものの、「短期的予測」が難しいとの前提に立てば、大方の予測を超えた市場の動きにはくれぐれも注意が必要だろう。

ちなみに、経済予測は古代ギリシャの「デルフォイの神託」以来現代まで様々に行われてきたが、最も重要な神託所だったアポロン神殿の入口には「汝自身を知れ」と刻まれていたと言われる。「自分が無知であることを自覚し、その自覚に立って真の知を得、正しく行為せよ」(「大辞林第三版」)がその解釈のひとつである。つまり現代的に言えば、個人投資家である我々は市場に氾濫する情報を取捨選択し、自らの責任において自身で最終的に決断しなければならないことを示唆している。

14年も様々な情報が飛び交う中で真実に迫り、市場参加者の移ろいやすい心理を反映する「市場の心」を読む慧眼(けいがん)を磨くことこそ肝要だ。

*斉藤洋二氏は、ネクスト経済研究所代表。1974年、一橋大学経済学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。為替業務に従事。88年、日本生命保険に入社し、為替・債券・株式など国内・国際投資を担当、フランス現地法人社長に。対外的には、公益財団法人国際金融情報センターで経済調査・ODA業務に従事し、財務省関税・外国為替等審議会委員を歴任。2011年10月より現職。近著に「日本経済の非合理な予測 学者の予想はなぜ外れるのか」(ATパブリケーション刊)。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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