January 30, 2014 / 2:17 AM / 4 years ago

コラム:中国の「米国買い」を警戒すべき理由

[27日 ロイター] - By Shihoko Goto

バーボンの「ジム・ビーム」は、一部の人にとっては、米国を象徴する存在かもしれない。にもかかわらず、醸造元のビーム社をサントリーが136億ドルで買収するとのニュースに対し、米国民の受け止め方は冷静だ。

これは、昨年に米豚肉生産大手スミスフィールド・フーズを中国の食肉大手が買収するとのニュースが出た時の反応とは極めて対照的だ。この買収案件は、米国内で激しい抵抗を受けた。買収を持ちかけた双匯国際は昨夏、米政界から猛烈な反発に遭った。労働組合員や消費者団体も、食品の安全性や食の安全保障に関する懸念を声高に訴えた。

ただ昨年末までには、双匯国際は総額47億ドルでの買収で合意を取り付け、中国企業による過去最大の米企業買収を成立させた。

しかし、米議員や消費者団体の間では、中国勢による米主要企業買収に対する懸念は深まる一方だ。そして、こうした買収を米国民が心配する正当な理由がある。

スミスフィールド買収をめぐる懸念を、文化的誤解や理不尽な不安だと一蹴するのは賢明ではない。中国企業による米企業買収が引き起こす不安感は、1980年代や90年代に日本企業が米国資産を買いあさっていた時に米国民が抱いていた感情とは違う。米国民は、こうした買収の裏にある中国側の意図を理解し、それが米国の消費者にどう影響するのか知っておく必要がある。さらに、中国政府の海外資産買収戦略という大きな構図の中で、この買収がどう位置づけられるかも吟味すべきだ。

米国資産に向けられた中国の貪欲な姿勢への懸念を過剰反応と決めつける向きもいる。しかしながら、中国からの買収攻勢は、日本企業がニューヨークのロックフェラー・センターなどを買収していたのとは性質が全く異なる。スミスフィールドの買収は、中国の食肉大手にとって米国での足掛かりとなるだけではなく、中国のコングロマリットによる米国での大型買収のひな型になるともみられている。

米上院農業委員会のデビー・スタベノー委員長(民主党、ミシガン州選出)は「食品・農業分野の大手企業の買収はスミスフィールドが初めてだろうが、これで最後になるとは思っていない」と述べた。

中国企業による買収が他の多くの海外企業によるものと違うのは、彼らが基本的に国有企業であり、経済的利益のみならず、国家的利益も動機にあるという点だ。米コンサルティング会社のロディアム・グループによると、中国の対米直接投資額は2013年に倍増した。

もし2013年を中国企業による米国資産買収が本格的に始まった年とするなら、中国当局の戦略的米国進出が始まった年としても記録されることになるだろう。スミスフィールドの買収後、中国企業は将来の買収案件で想定されるさまざまなハードルへの備えを整えている。

中国政府の意図は戦略的に見える。彼らはエネルギーや不動産、食料に焦点を当てているが、こうしたセクターは国内経済の成長を確実なものにするための鍵だ。スミスフィールドやチェサピーク・エナジーの買収は、日本企業がバブル時代に見せたようなエゴに突き動かされた虚栄的な買収ではなく、むしろ、中国政府の国家安全保障に対する長期的ビジョンを映し出す鏡と言える。

双匯国際が多くの難題を前にしてもスミスフィールド買収に揺るぎない決意を見せたのは、買収を一企業の利益だけに終わらせず、中国経済全体の利益につなげようと真剣に考えていたことの証拠だろう。

その一方で、多くの中国企業が食品の安全基準を順守できていないことを考えれば、米国の消費者は、スミスフィールド買収が自分たちの食に与える影響を憂慮すべきだ。同買収で米国の農産品輸出の機会は増えるかもしれないが、食品の安全基準は下がるかもしれない。

食の安全をめぐる問題は、中国ではますます深刻化している。殺虫剤の誤用は珍しいことではなく、有毒物質はミルクを含む多くの日常品から検出されている。乳児用粉ミルクにメラミンが混入していた事件では、国内外の消費者から激しい怒りが噴出した。

こうした懸念は、サントリーによるビーム買収からは持ち上がらない。ウイスキーの「メーカーズマーク」やブランデー「クルボアジェ」は米国消費者にとって必需品ではなく(これには一部で反論もあるだろうが)、さらに言うなら、2011年の福島第一原発事故で日本製品に対する不安は増したにせよ、日本の食品安全基準の高さは変わらないからだ。

そして最も重要なのは、日米間は経済だけでなく、軍事的にも政治的にも強固な関係で結ばれていることだ。サントリーによる「ジム・ビーム」買収に対して米国民が平然としていられるのは、2国間の緊密な関係を映し出したものだ。

米国の議員が「日本株式会社」による米企業買収に歯ぎしりしていたのは、遠い昔のことだ。加えて言うなら、日本の多くの投資家たちはバブルが崩壊すると、手に入れた資産を売りに出した。一方、中国経済の回復力がどの程度かは現時点ではまだ分からない。中国の投資家が、買収した米国資産をそこまで急いで手放すとも考えにくい。

*筆者はウッドロー・ウィルソン国際学術センターでアジアプログラムの北東アジアアソシエイトを務める。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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