January 31, 2014 / 6:34 AM / 4 years ago

コラム:中銀総裁に与えられた「欺きのライセンス」=カレツキー氏

アナトール・カレツキー

[30日 ロイター] - 今週退任する世界最大の権力者、ベン・バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長は信用の置ける中央銀行総裁ではない。後任のジャネット・イエレン次期議長も同じだ。イングランド銀行のマーク・カーニー総裁、欧州中央銀行(ECB)のマリオ・ドラギ総裁、トルコ、アルゼンチン、ウクライナの中銀総裁もまた然りである。

バーナンキ氏への送別の辞を述べるに当たり、彼自身や仲間の総裁を侮辱する意図はない。逆に中銀総裁がこの世で最も要求のハードルが高くて重要な職務を遂行する上で、必要とされる能力とその判断について注意を喚起したいのだ。イアン・フレミングの小説でジェームズ・ボンドが「殺しのライセンス」を与えられたように、セントラルバンカーたちは「欺きのライセンス」を有している。

角が立たぬよう上品に言うなら、彼らは将来に対し守れない約束をして、結果的にその約束が偽りに終わる事態が頻繁に起きても一向に構わないという、白紙委任状を手にしている。

アルゼンチンで先週起きたように、セントラルバンカーが為替を支える約束をした直後に相場が急落しても、誰も責めることはできない。同じ事態はまもなくトルコやウクライナ、ロシアなど他の新興国で起きるかもしれない。

投資家をミスリードすることは、実際に中銀総裁の職務として求められる重要なスキルである。通貨切り下げやそれに匹敵する金融危機が迫っている最中に国家の財政状況について真実を暴露することは、中銀の準備預金を全額損失保証すると言っているのと同じだ。

先進国が管理相場制を維持していた時代に、セントラルバンカーが毎度のようにテレビに登場して通貨切り下げを断固として否定した時は、いつでもそれが撤回されると思われたものだ。

新興国市場で通貨管理体制が崩壊すると、大衆の怒りと欺きに対する非難の矛先はいつでも、アルゼンチンのフェルナンデス大統領のような政治指導者に向けられる。

先進国でセントラルバンカーがインフレ目標の達成を公約したり、金融危機の回避や経済成長の回復を国民に確約し、その約束が反故になっても、中銀総裁を非難する人はいない。銀行システム崩壊後も生き延びたキプロス中央銀行のデメトリアデス総裁がその一例だ。

ただ、こうした約束違反と公約不履行の歴史の記録にもかかわらず、中銀総裁たちは他のどの政府高官よりも尊敬と信頼を享受している。彼らに特に信頼を置いているは、一番だまされることが多い金融市場の投資家だ。

このことは我々に今日の世界の経済状況を教えてくれる。今週紙面を飾った金融関連のニュースの見出しはトルコとアルゼンチンの為替市場の大混乱だった。しかし、もっと根深い問題は世界経済の不透明感であり、とりわけFRBや他の中銀が景気刺激策をいつまで続けると約束するかだったはずだ。

この件に関して、最も不穏なニュースはアルゼンチンやトルコではなく、英国発だった。カーニー総裁は先週、2016年まで政策金利をゼロ近辺に維持するとの昨年7月の約束について、昨年の英国の失業率の急速な低下を踏まえて「進化させる」必要があると白状したのだ。

180度の方針転換の持つ意味は重要だ。カーニー氏自身がカナダ中銀総裁時代、この種の「フォワードガイダンス」という概念を金融政策の手段として考案した。カーニー氏は2008年の経済危機以降、政策金利を低水準に維持すると約束してカナダ経済のかじ取りに成功し、言葉が金融政策変更に代わる有効性を持つと世界のセントラルバンカーたちは信じるようになった。

イングランド銀行は昨年、FRBよりもさらに踏み込んだフォワードガイダンスを導入し、政策金利引き上げを検討する際の物価上昇率の基準を設定した。カーニー氏は失業率7%を主要な条件に定め、英国は2016年に達成するとの見通しを示した。だが、実際に失業率は早ければ来月にも7%に達する勢いだ。この結果、カーニー氏とバーナンキ氏が先駆けて導入したフォワードガイダンスと政策の透明性に関する手法そのものの信頼性に揺らぎが生じている。

カーニー氏が事態の推移次第でフォワードガイダンスの約束から手を引くような事態に追い込まれる場合、FRBを含む他の中銀のフォワードガイダンスは、ウォーターゲート事件の際にニクソン米大統領が語った言葉を借りれば「機能不全」に陥ったと判断すべきなのだろうか。そうであれば金融市場でパニックが起きても理解できる。

結局のところフォワードガイダンスというのは、昨年夏に起きたテーパリング発言後の市場の動揺を鎮めるためにバーナンキとイエレン氏が用いた政策手段だった。FRBが金融緩和策を段階的に縮小すると表明した時、金融市場はパニックに陥ったが、バーナンキ議長は少なくとも2015年までは利上げはしないことを確約している。

その後、市場の動揺は収まり、実際のテーパリングも昨年12月に静かに始まった。

結果的にフォワードガイダンスはFRBや他の中銀に残された最強の武器であると考えられている。しかし、FRBがテーパリングの次の段階を発表した29日を前に、金融市場を再び動揺が襲った。

現在の問題は、米国景気が持続的成長と完全雇用を取り戻すまでの間、FRBが緩和的な金融政策を継続すると再び市場に信用してもらえるかどうかだ。

歴史が示すところによると、こうした中央銀行の約束は十分に信用された試しがない。最近の英国で起きたことはこの事実を裏付けている。

こうした歴史的事実にもかかわらず、イエレン氏は景気刺激策と金融緩和を継続するというFRBの政策姿勢への信頼回復に成功するだろう。それは彼女に対する個人的な信頼感によるものではない。彼女への信頼性は強いが、バーナンキ議長ほどではない。イエレン氏の成功を確信する理由は、景気刺激策と金融緩和の継続が現在から2016年の間に組織としてのFRBの利益に最もかなう経済政策であり、米国の国益にも資するからだ。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*アナトール・カレツキー氏は受賞歴のあるジャーナリスト兼金融エコノミスト。1976年から英エコノミスト誌、英フィナンシャル・タイムズ紙、英タイムズ紙などで執筆した後、ロイターに所属した。2008年の世界金融危機を経たグローバルな資本主義の変革に関する近著「資本主義4.0」は、BBCの「サミュエル・ジョンソン賞」候補となり、中国語、韓国語、ドイツ語、ポルトガル語に翻訳された。世界の投資機関800社に投資分析を提供する香港のグループ、GaveKal Dragonomicsのチーフエコノミストも務める。

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