February 6, 2014 / 2:07 AM / 4 years ago

コラム:ドル高・株高のピークは年央に前倒しか=嶋津洋樹氏

楽観論が続くかと思われていた金融市場では、低調な12月米雇用統計や新興国経済の混乱を受け、早くも慎重な見方が強まりつつある。残り11カ月弱を有効に利用するためにも、今このタイミングで2014年の見通しを再点検する価値はあるだろう。

まず、今年の世界景気を考えるうえで大切なのは米国景気の回復が続く可能性が高いということだ。その背景には、住宅バブル崩壊で傷んでいた家計部門のバランスシート調整が一服し、緊縮財政が大幅に緩和されることがある。特に前者は、住宅価格の大幅な下落で顕在化した家計部門の含み損の処理が終わったとも考えられ、消費者が借金返済を優先する生活から解放されることも意味する。

つまり、米連邦準備理事会(FRB)が極端ともいえる緩和的な金融政策に踏み切っても、従来は消費者の返済負担が軽減されるだけで、必ずしも消費や投資を刺激するわけではなかったが、今後はこうした状況も徐々に変化することが期待される。

もちろん、住宅バブル崩壊の記憶が残るなか、含み損が解消したからといって、すぐに借金を増やす生活へ戻るとは考えづらい。しかし、期待インフレが安定する米国で「Cash is king」の思想が根付くこともまた現実的とはいえないだろう。実際、米国の銀行貸し出しはすでにリーマンショック前の水準を上回っている。

このように考えると、FRBが資産購入(いわゆるQE3)の規模縮小(テーパリング)を決断し、それを続けるのも当然だろう。FRBからすれば、包丁の切れ味が鋭くなった分、切るときの力をコントロールしていることになる。筆者はテーパリングについて、FRBが家計部門のバランスシート調整が一服したと判断する限り、そのペースを加速させることはあっても、減速させることはないとみている。14年も米国の長期金利は上昇し、ドルは買われるだろう。

こうしたシナリオで最も恩恵を受けるのは、対米輸出が多い国々だろう。そうした国々はドル高・自国通貨安に伴う輸出競争力の改善というメリットも享受できる。ただし、自国通貨安が輸出競争力の改善を通じた輸出金額の増加よりも輸入金額の増加につながる国、インフレの不安定化につながる国などはその限りではない。

FRBのテーパリングをきっかけに経常赤字国の多くで混乱が生じたのは、国内の貯蓄不足を穴埋めするため、恒常的に海外の資金に依存しているからということもあるが、平時から輸出競争力の改善やインフレの安定に対する取り組みを先送りしてきたからともいえる。

一口に新興国、経常赤字国といっても様々だが、米国が金融緩和策の修正に着手した今、そうした国々の景気は相対的に苦戦を強いられる可能性が高い。ただし、それが90年代にメキシコやアジア、ロシアでみられた通貨危機へ発展するまでには相当時間があるだろう。実際、上記3つの通貨危機はいずれも、フェデラルファンド(FF)金利が5―6%に達する引き締めの最終局面で発生している。資産購入など、非伝統的な金融政策の効果や副作用に未知な点が多いのは確かだが、緩和の程度を縮小させるだけのテーパリングが本格的な危機の引き金になるというのは大袈裟な話に思える。

<適度な新興国減速は日欧景気を後押し>

一方、危機に陥らない程度の新興国景気の苦戦とドル高の組み合わせは、商品市況の安定をもたらし、米国のみならず、日本や欧州のような加工貿易を営む国の景気を支援すると筆者は考えている。

リーマンショック後の景気回復を振り返ると、FRBが緩和的な金融政策を積極化するなかでドルが下落。それが商品価格の上昇をもたらし、資源輸出国の景気を押し上げた。また、FRBの緩和的な金融政策が自国通貨をドルに連動させている新興国や途上国に波及。一般的に人口が多く、エネルギー効率の悪い国々の景気回復は、ドル安とあいまって商品価格をさらに押し上げた。

この場合、加工貿易を営む国では、景気回復とともに交易条件の悪化に見舞われる。リーマンショック後の先進国景気が力強さを欠いたのは、米国のバランスシート調整、欧州の債務危機、日本の金融政策など、それぞれに問題を抱えていたからというだけではなく、交易条件の悪化が回復の持続性を阻害していたからだと筆者は認識している。それらの問題が解消に向かっていることを踏まえると、日米欧を中心とする先進国の景気が今年、リーマンショック後で最も力強く回復するというシナリオには説得力がある。

ただし、今年の最も重要なポイントはタイミングだ。米国景気は今年、第2次世界大戦後の平均的な回復期間である5年目に突入。期間だけでみれば回復もすでに終盤に差し掛かっていると考えることができる。しかも、回復期間が5年以上となったのは第2次大戦やベトナム戦争などの戦時を含む時代か、ITバブルや住宅バブルなど経済に不均衡が生じている時だった。そのどちらにも当てはまらない今回の景気回復については、15年にかけていったん終了へ向かうリスクは無視できない。金融市場は通常、実体経済に先行するので、株価や長期金利、ドルのピークは年末ではなく、年央ぐらいへ前倒しされるシナリオが考えられる。

しかも、14年は夏場以降にリスクにつながるイベントが目白押しだ。8月にはギリシャが追加支援の必要性に直面。秋口には欧州中央銀行(ECB)の銀行に対する健全性審査が佳境を迎える。また、米国景気が順調な回復を続けることを前提にすると、テーパリングの加速やその後の利上げが意識されやすくなる。11月には米中間選挙もあり、その前後で政治的な不透明感が強まることも想定されるだろう。

翻って日本ではその頃、消費増税に伴う駆け込み需要の反動減が緩和。回復ペースを確認しながら、次の消費増税をめぐる議論が盛り上がると予想される。こうしたなかで「リスクオン」が続くとは考えにくい。今年のパフォーマンスは年央までにどう動いたかで決まる可能性が高い。

*嶋津洋樹氏は、1998年に三和銀行へ入行後、シンクタンク、証券会社へ出向。その後、みずほ証券、BNPパリバアセットマネジメントを経て2010年より現職。エコノミスト、ストラテジスト、ポートフォリオマネージャーとして、日米欧の経済、金融市場の分析に携わる。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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