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コラム

コラム:海外勢の関心低下するアベノミクス、日米株価にギャップも

田巻 一彦

2月14日、今年に入って海外勢の日本株に対する買い姿勢が消極化している。写真は1月、都内の外国為替取引会社で撮影(2014年 ロイター/Yuya Shino)

[東京 14日] -今年に入って海外勢の日本株に対する買い姿勢が消極化している。昨年は日本株を15兆円買い越したが、今年は前週まで1兆1000億円の売り越しに転じた。海外勢の一部にはアベノミクスへの関心が低下していると明確に指摘する声もある。

世界経済の中で米経済の明るさを意識する市場関係者が増えており、ヘッジファンドは米株買いに向かいつつあるとの見方も出ており、日銀の追加緩和などの大きな環境変化がなければ、日米の株価トレンドにギャップが生じる可能性が高まるだろう。

<海外勢が今年に入って日本株を1兆1293億円売り越し>

財務省が14日に発表した2月2日─8日の対外対内証券投資によると、対内株式投資は764億円の処分超だった。海外勢は3週連続で売り越しており、1月5日から2月8日までネットで1兆1293億円の売り越しとなっている。

昨年の買い越し額が15兆円に膨れ上がったのと比べると、海外勢の日本株売買の落差に驚かされる。

ただ、ヘッジファンドと取引している内外金融機関関係者の話を総合すると、彼らが日本株処分のポジションに切り替わったわけではないようだ。大規模な処分売りの決断はしていない一方、昨年のように日本株を買い上げる方針もないとみられている。

その本音を探ると、日本株やアベノミクスに対する「関心度合いの大幅な低下」や「飽き」にたどり着く。

<大胆な規制緩和出ず、第3の矢に失望する海外勢>

アベノミクスの第1の矢で日銀が「異次元緩和」を実行し、これに外為市場が反応して大幅に円安が進行。円安を好感して日経平均が暴騰に近い値上がり現象を起こし、個人や企業のマインドが好転した。

第2の矢で大規模な財政出動も展開し、海外勢の目にもはっきりと映る国内総生産(GDP)のかさ上げを実現し、「日本は変わった」とのメッセージを内外に発信した。

ここまでは大成功だったわけだが、第3の矢の成長戦略作成の段階になって、海外勢の期待は大幅に低下したようだ。「いつまでたっても、大胆な規制緩和が出てこない」(外資系証券の関係者)というのが大方の海外勢の印象だろう。

それでも期待して待っていた向きも存在していた。だが、そうしたアベノミクス・シンパの姿も昨年末には消え、いつの間にか「日本経済とアベノミクスに対する関心は、海外勢の中でほとんどなくなっている」(別の外資系証券関係者)という状況になってしまったようだ。

<米株に関心示すファンド勢>

ある市場関係者は、米欧のヘッジファンドの関心が米経済の好調さに注がれ、底を打ち始めた欧州経済という要素も加わって、米欧株式への投資に比重がかかりつつあると指摘する。

寒波の影響を受け、足元の経済データが弱めに推移している米経済だが、債務上限問題が解決し、財政面からの懸念が大幅に後退している中で、シェール革命の恩恵でエネルギーコストが低下し、ビッグデータ活用の面などでイノベーティブな投資が活発化。個人消費と設備投資の両輪が回り出し、理想的な成長パターンを実現する可能性が出てきている。

ヘッジファンド勢の中には、そうした経済情勢を材料に、米株ウエートを上げようとしているところがあるようだ。

<13年度に経常赤字転落のリスク>

一方、日本経済には不安な要素も目に付き始めた。海外勢も注目する経常収支は、2013年が3兆3061億円と過去最少となった。また、4月─12月の累計では、黒字額が1兆7217億円にとどまっている。

今年1─3月の経常収支は、赤字が連続するとみるエコノミストが多く、13年度の経常収支が赤字に転落する可能性を指摘する声も出始めた。

今年1月上中旬の貿易収支は2兆0150億円の赤字となっている。前年同期の赤字は1兆1763億円。1月全体では1兆4798億円の赤字だった。同じ時期の所得収支が1兆2310億円の黒字だったが、経常収支は3484億円の赤字に転落した。前年の流れから類推すると、今年1月の経常収支はかなりの規模の赤字を記録しそうだ。

2月と3月も赤字が連続するとのエコノミストの予想が的中するなら、年度ベースで初の経常赤字転落は、決してありえない「悪夢」とは言えないだろう。

<低下する日本経済への期待感>

海外勢がこの経常赤字転落を見た時に、何を考えるのか──。教科書的には、日本国債売りを仕掛けるということになるのだろうが、欧米のヘッジファンドは過去に何度も売り仕掛けし、そのたびに手痛い敗北を喫してきた。その記憶が鮮烈なだけに、直ちに日本国債を売り浴びせることはしないだろう。

ただ、経常赤字の背景にあるのは、輸出産業の稼ぐ力の減退と、成熟した債権国への転換を円滑にリードできない日本政府のぜい弱さだろう。その点を海外勢が認識すれば、少なくとも昨年のように日本株は買ってこないと予想する。

とすれば、上昇が見込まれる米株と海外勢が買ってこない日本株との間に、大きなギャップが生じるリスクが存在するのではないか。

政府は6月をめどに新しい成長戦略を取りまとめる方針だが、それまでの間に日米の株価ギャップが拡大していると、日本に対する冷めた視線がさらに強まり、打ち出される政策への反応が鈍ることも予想される。

今のところ、日銀も現行の異次元緩和を維持するメッセージを繰り返しており、その点も海外勢には相当、織り込まれてきた。日本経済やマクロ政策に対する海外勢の期待感を取り戻すハードルは、相当、高くなっている。

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