February 14, 2014 / 4:54 AM / 4 years ago

コラム:米国経済が握る新興国通貨「浮沈」のカギ=村田雅志氏

新興国通貨の先行きについて見方が分かれている。今年1月下旬に加速した売りの流れは2月に入り一服。トルコ・リラやアルゼンチン・ペソなど下げが目立っていた通貨では持ち直しの動きが強まっている。

こうした変化を受けてか、市場関係者の一部からは「新興国通貨の先行き不安は後退した」との見方も聞かれるようになってきた。中には、高金利通貨を中心にキャリートレードの復活を検討すべきとの意見もある。

一方で、慎重な姿勢をとり続けるべきとの考えも根強い。「フラジャイル・ファイブ(脆弱な5カ国)」もしくは「BIITS(ビーツ)」と呼ばれるブラジル、インド、インドネシア、トルコ、南アフリカでは、景気低迷、高インフレ、経常赤字といった通貨下押し要因が解消されておらず、市場のリスク回避姿勢が再び強まれば、ファンダメンタルズに不安が残るBIITSを中心に新興国通貨が再び売られるとの見方もある。

2つの見方は表面的には相反するが、筆者からすれば、違いは米国経済の見通しの差異によるものであり、考え方の枠組み(フレームワーク)は共有されている。双方とも新興国からの資本流出の可能性を意識しており、資本流出が緩やかであれば、新興国通貨は持ち直し、継続するならば、再び下落することになる。

<イエレン議長証言の真意>

米連邦準備理事会(FRB)のイエレン議長は11日の下院金融委員会での議会証言で、労働市場の状況改善と、インフレがより長期の目標に再び近づくことが概ね裏付けられれば、米連邦公開市場委員会(FOMC)は今後の会合で、一段と慎重なステップを踏んで資産買い入れペースを落とす公算が大きいと指摘。しかし利上げについては、失業率といった経済指標のひとつが基準を突破しても、フェデラルファンド金利の自動的な引き上げにはつながらないと明言した。

失業率が6.5%に低下するまでゼロ金利政策を維持するというフォワードガイダンスを事実上棚上げした同議長の真意は、資産買い入れ枠の縮小は進めたいが、長期債を中心とした米債利回りの上昇は可能な限り抑制したいのだろうと推測される。

仮に同議長の狙い通り米債利回りの上昇が抑制されるのであれば、金利上昇に起因した米国株の下落も回避される期待が高まる。これは市場のリスク回避姿勢を和らげる効果も期待され、新興国の資本流出懸念も強まることはなくなる。

インフレ抑制のために利上げを続けたブラジルや、1月29日に予想を上回る利上げに踏み切ったトルコの国債利回りは10%を超えている。市場に促される形で昨年後半だけで計175ベーシスポイント(bp)もの利上げに踏み切ったインドネシアやインド、南アフリカの長期債利回りも9%近くの水準にある。仮に米債利回りが上昇したとしても、10年債で3%程度であれば、上記3国との金利差は6%以上が確保されるわけで、先進国投資家にとっては魅力的なものとなる。

BIITS5カ国を中心にインフレの高止まりを懸念する声はあるものの、利上げによる内需抑制効果や通貨安の一服によってインフレ上昇が鎮静化することも期待される。たとえば、インドではラジャン中銀総裁がインフレ抑制姿勢を強調する形で利上げを実施。インド・ルピーの下落に歯止めがかかったことから1月の消費者物価(CPI)は前年比プラス8.79%と約2年ぶりの8%台まで伸びが鈍化した。

他のBIITS4国もインドと同様に利上げによる内需の抑制と通貨安一服を背景にインフレ昂進に歯止めがかかることが期待される。インフレの抑制は、さらなる通貨安を防ぐことになるため、新興国通貨は持ち直すというシナリオの説得力が増す。

<今年前半の上昇シナリオは期待薄か>

ただ、繰り返しになるが、こうしたシナリオの前提は、米債利回りの上昇が抑制され、米国株の下落が避けられることだ。他の市場関係者の多くが指摘するように、昨年12月と今年1月の米雇用統計が弱い結果に終わったことで新興国通貨の持ち直し機運が高まったのは、米雇用環境の改善が緩やかなものにとどまったことで米債利回りの急激な上昇期待が後退し、米国株が買い戻されたためだ。新興国のファンダメンタルズが改善したためではない。

今後、米国景気の拡大基調が確認され、市場の先行き期待が再び強まるようになれば、米債利回りが(短期的にせよ)大きく上昇することは避けがたく、新興国からの資本流出懸念が強まる展開も考えられる。この場合、ファンダメンタルズの脆弱性が指摘されるBIITS5カ国を中心とした新興国通貨は再び売り優勢となり、当局は追加利上げによる通貨防衛を強いられることになる。ただ過度な利上げは国内景気を悪化させ、株式市場からの資本流出を促すことになりかねない。新興国当局の自助努力だけで事態を改善させることが難しくなり、日米欧の各中銀が通貨スワップ協定の強化などを通じ、通貨下落が著しい新興国に流動性を供給することも検討されるだろう。

当然のことであるが、景気低迷、高インフレ、高水準の経常赤字といったファンダメンタルズの脆弱性は、短期間で改善するものではない。仮にファンダメンタルズの改善を背景とした新興国通貨上昇のシナリオを望むのであれば、早くとも今年後半まで時間がかかることを念頭に入れておくべきだ。今年前半の新興国通貨の値動きは、米金融市場といった外部環境に左右される状態が続くとみるのが妥当であり、米国経済の動向を精査することが重要といえる。

*村田雅志氏は、ブラウン・ブラザーズ・ハリマンの通貨ストラテジスト。三和総合研究所、GCIキャピタルを経て2010年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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