February 18, 2014 / 9:03 AM / 5 years ago

コラム:海外投資家に広がる「アベノミクス疲れ」=佐々木融氏

日銀は18日、予想通り金融政策を据え置いたが、「貸出増加を支援するための資金供給」と「成長基盤強化を支援するための資金供給」について、規模を2倍にしたうえで、1年間延長すると発表した。

期間の延長は予想されていたことだが、規模を2倍にしたのは予想外だった。市場はこれに円安・株高で反応した。しばらくこれといって目新しい話が日本から出てこない中で、久しぶりに動きがあったことに海外勢がポジティブに受け止め、反応したものと考えられる。

しかし、これが昨年のような急激な円安・株高につながることはないだろう。今の日本経済が必要としているのは低利で調達できる資金ではなく、民間が手元にある資金でリスクを取って投資をしたいと考えるような経済構造の見通しである。

実際、2012年12月に白川方明前総裁の下で詳細を決定した「貸出増加を支援するための資金供給」は、当初日銀は実施期間終了の今年3月までに15兆円程度の需要があると試算していたが、現在の残高は5兆円程度にとどまっている。

また、海外勢を中心に日銀の追加緩和を期待して、すでに円ショートポジションや日本株のロングポジションを積み上げてしまっている投資家も多いと考えられる。今回の措置が12年末から昨年にかけてのように、日本の期待インフレ率をさらに一段と引き上げ、実質金利を急速に低下させるということも考えづらいことから、円安・株高の動きは限定的だろう。

<利食いの円買い・日本株売りのリスクは>

一方で、筆者は基本的に日本経済に対する海外勢の期待が萎むだけではさほど急激な円高にもならないと予想している。円相場にとっては世界の投資家のリスクテイク志向が強いかどうかということが最も重要であり、リスクテイク志向が強い状態であれば、仮に海外勢が日本経済に失望したとしても、円は結局、資本調達通貨として売られることになるからだ。

しかし、日本経済の将来を考えると、「海外の投資家が日本に失望しても大丈夫」などと言ってはいられない。海外勢がなぜ日銀の追加緩和に期待しているかというと、それはアベノミクスの第三の矢(成長戦略)に対する期待が後退しているからである。

世界にはいろいろな投資家がいるので一概には言えないが、第三の矢に対する期待からポジションを作ったが、その矢がなかなか放たれないので、何とか日銀に追加緩和をしてもらい、そこで円が下落し、日経平均が上昇したところで利食いの円買い・日本株売りをしたいと考えている投資家は多いかもしれない。

そもそも、第一の矢(日銀の量的・質的金融緩和)は人々の期待に働きかけることにより目的を達成するという部分が大きい。名目金利をゼロ以下には下げられない中、日銀のバランスシートを拡大し、マネタリーベースを増やすことによって、期待インフレ率を押し上げ、実質金利を下げることで円安・株高を示現してきた。

実際、日銀と米連邦準備理事会(FRB)のバランスシートの間ではそれほど大きな相対的な変化は起きていない。日銀のバランスシートは、アベノミクスが始まった12年11月から今年1月までの15カ月間で51%増加しているが、FRBのバランスシートも45%増加している。FRBが量的緩和を始める前の08年1月を基準とすると、日銀のバランスシートは2.1倍程度にしかなっていないが、FRBのバランスシートは4.6倍にもなっている。

相対的なマネタリーベースの変化もほぼ同様である。過去15カ月で日本のマネタリーベースは56%増加しているが、米国のマネタリーベースも43%増加している。そもそも、筆者はゼロ金利下においては、二国間のマネタリーベースの相対的な変化が為替相場に影響を与えるとは考えていないが、仮に(金利がそれなりにあった時も含めた)過去の緩やかな相関をもとに試算すると、この15カ月の日米マネタリーベースの相対的な変化から推計されるドル円相場は90円ちょうど近辺である。

つまり、実体的にはさほど変化がなくても、期待の変化で為替相場と株価を動かしてきたのがここまでの流れだったと考えられる。そして、ここからは明るいセンチメントを糧にして、早く第三の矢を放たなければならないのだが、期待が現実に変わりそうな気配があまり見られない。

政府も日銀も「インフレ率は予想通り上昇してきた」としているが、まさかインフレ率を上昇させることが最終目的だと思っていることはないだろうか。以前から本連載や著書などを通じて指摘してきたことだが、インフレ率が上昇するだけなら、国民にとってこれほど迷惑なことはない。インフレ率を上げることに賛同した人たちも、インフレ率が上昇すると賃金が上昇するから、という理由で賛同したはずである。

消費者物価指数はすでに前年比プラス1.6%程度まで上昇し、これから消費増税分が上乗せされ、今後しばらくプラス3%台で推移することになる。一方、賃金上昇率は恐らく1%をやや上回る程度だろう。この結果、実質所得は前年比2%前後減少することになる。

政府は民間企業に賃上げを要求しているが、経営者が賃上げをしたくなる、もしくは賃上げしなければならないと感じる変化は何かあっただろうか。どんなに政策が良くても、景気やマーケットは上下動する。したがって、根本的な構造変化がなければ、市場の雰囲気が良くなったからという理由だけで、先行き長期間にわたって固定費を引き上げることになるベースアップを民間企業が積極的に行うとは思えない。

年金基金にリスクテイクを促すのも良いが、本来リスクを取ってリターンを上げることを期待されている資金は企業のバランスシートに眠っている。企業が積極的に投資を行うことを考える状況にならなければ、株価が長期にわたって上昇トレンドを描くことはないだろう。確か、アベノミクスの第三の矢は「民間投資を喚起する成長戦略」だったはずだ。

今年に入ってから円は最も強い通貨となっているほか、日経平均株価は10%も下落し、他主要国の株価指数に対して圧倒的にアンダーパフォームしている。実体的な変化がない中、市場は期待し続けるのに疲れ始めてしまっているようだ。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の債券為替調査部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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