March 6, 2014 / 1:47 AM / 4 years ago

コラム:マンション価格上昇続くか、割高・割安の見抜き方=竹中正治氏

2013年のマンション市場は新築・中古ともに販売件数が増加、価格も顕著に上昇した。不動産経済研究所によれば、全国の新築マンション販売数は前年比12.2%増加、価格も9.2%の上昇となった。地域別販売数では首都圏が23.8%増と突出している。

首都圏に絞って中古マンション市況を見ると、今年1月の時点で成約件数は17カ月連続で前年同月を上回り、価格は平米単価で前年同月比4.5%上昇した。都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)について平米単価を見ると、13年11月―14年1月は8.9%もの上昇となっている(いずれも公益財団法人東日本不動産流通機構のデータ)。

筆者は昨年4月の本コラム「REIT高騰に続くか、マンション投資の鉄則」(13年4月19日掲載)でREIT価格と現物不動産価格の変化に数カ月のタイムラグがあることを指摘して次のように述べた。

「今の局面で合理的な投資選択は、すでに著しく割高になったREITから、まだ相対的に割安に放置されている個別不動産物件にシフトすることだろう」「実体経済の景気回復が持続する限り、今後数カ月のうちに現物不動産価格の上昇がデータでも明瞭に確認できるものになるだろう」。 その後の変化は、筆者の指摘通りとなった。

こうしたマンションを中心とする不動産価格の上昇は今後も持続するだろうか。結論を先に言うと、価格の割安局面はすでに終わった。今後の価格動向は住宅賃料の上昇、さらにそれを可能にする賃金の増加が実現するかどうかにかかっている。

<バブルにはまだ程遠い>

上記の販売増と価格上昇の要因は、1)4月の消費税率引き上げ前の駆け込み、2)2020年東京オリンピックに向けた不動産価格の上昇期待、3)アベノミクス相場による株価回復などでキャピタルゲインを得た個人投資家層のマンション投資、4)円安などを背景にした海外とりわけアジア地域の投資マネーの流入など複合的だ。

ここまでのマンション市場の活況が、消費税率引き上げ前の駆け込み需要だけによるものであるならば、4月以降に販売高も価格も下落に転じようが、今回は他の3要因も働いている点で、基調の強さが中長期に持続する可能性がある。1997年4月の消費税率引き上げ(3%から5%)の前も新築マンションの着工、販売の駆け込み増があったが、当時は中古マンションまで含めた価格の上昇は見られなかった。これは注目すべき違いだ。

このように言うと気の早い方は「すでにバブルか」と警戒するかもしれないが、銀行貸出動向を見る限り、まだバブルとはほど遠い。東京を中心に不動産ファンドのラッシュでミニバブルとなった06年―07年には、銀行の不動産業界向け総貸出は前年同期比9.9%(06年3月―07年6月の平均)も伸びたが、13年の同平均伸び率は1.5%にとどまっており、バブルの気配はまだない。

ただし、マンション価格の上昇が持続的なものになるためには、住宅賃料の上昇が欠かせない。下の図はIPD・リクルート住宅価格指数のデータを基に筆者が継続的に作成している東京都区部の中古マンションと賃料指数の推移である。

住宅賃料を価格で割った比率をPRR(Price Rent Ratio)と呼んでマンション価格の割高・割安を判定する基準にしている。PRRとは株価収益率(PER)と同じ考え方で、住宅価格をそれがもたらす純賃料で割り、住宅価格の割高・割安の度合いを測るものだ。図に点線で示した水平線はデータの利用可能な92年以来のPRRの平均値であり、これをひとつの目安水準としている。

株価収益率は分子になる企業の純利益の変動が大きく、かつ純利益の将来の変化も不確実性が極めて高いので、これだけで割高・割安を判定するのはとうてい無理がある。ところが、住宅賃料は図が示す通り、価格に比べると変動性はずっと穏やかで、長期にわたって安定している。この点が肝心だ。住宅賃料の変化が安定しているマンション価格は、賃料との比較でその割高・割安度をほぼ的確に判断できる。

<実は簡単な割高・割安の見抜き方>

合理的に考える限り、資産の適正価格(ファンダメンタルな価値)とは、その資産が将来にわたってもたらす純キャッシュフロー(経費差引後の受け取りキャッシュフロー)を、リスクプレミアムを加えた利回りで割り引いて算出される現在価値に他ならない。

したがって、賃料の変化が安定している限り、住宅価格の変化も安定して然るべきだ。ところが、現実の市場参加者の合理性は不完全なので、好況時に価格は適正価格を上回って割高になり(PRRの上昇)、不況時には逆に割安になる(PRRの低下)。ありがたいことだ。ここに合理的な判断能力のある長期投資家に超過リターンを得るチャンスがある。

筆者がマンション投資を始めたのは銀行不良債権危機の不況時(98年)であるが、2000年代に米国の住宅市場とそのバブルの調査をする過程でこのPRRの概念が有効であることに気がついた。そこで日本のデータを対象に07年からこのPRR図表の作成を始め、以来著書で解説し、筆者のホームページでも公開している。ここでは東京都区部の図表のみを掲示したが、他地域のデータも公開しているので、ご関心のある方はデータ元をご参照いただきたい。

実際にPRRが上昇した07年の割高局面では、98年と99年に購入したマンション物件を筆者は売り、PRRが低下した09年と12年に中古マンション(並びに新築売れ残りマンションを大幅ディスカウントで)を購入している。不動産価格は物件によるばらつきが大きいことは言うまでもない。それでもPRRの低下した不況期には割安な物件に遭遇できる機会はずっと多く、逆にPRRが上昇した好況期にはそうした機会はずっと乏しくなる。

この図を概観して次のことが読み取れる。98年から2000年代前半の銀行危機が終り、05年から始まったマンション価格の回復は、賃料の上昇を伴いながら07年の不動産ファンド・ミニバブル期にピークとなった。その後、08年のリーマンショック後の不況で価格も賃料も09年にかけて低下、11年にかけて価格はいったん回復するが、この局面では賃料の上昇が伴わなかった。その最大の原因はデフレの継続だろう。

12年のミニ景気後退局面で価格も再び下落した後、13年にアベノミクス相場を背景にREIT価格の高騰に数カ月遅れて価格が上昇し、現在に至っている。PRRが示す通り、割安局面は13年前半で終り、現在はすでに割高局面に移行している。

13年以降の直近の変化で気になる点は、価格が上昇したにもかかわらず賃料が目立って上昇していないことだ。14年1月のデータでは都区部の価格は前年同月比8.4%上昇しているが、賃料は同0.5%の上昇にとどまっている。

賃料と価格の変化は正の相関関係があるが、05年以降のデータに基づく限り、賃料の変化は価格の変化に6カ月から1年遅行している(ゼロからプラスマイナス1の値をとる相関係数は約0.7)。これは賃貸契約が一般に2年間契約で更新されることから生じるタイムラグだと考えれば納得できる。

したがって今年、遅行していた住宅賃料の上昇が起こらないと、価格の持続的な上昇は再び11年のように頓挫する可能性が高くなる。なぜ賃料が上がらないのだろうか。賃料は短期的には住宅をめぐる様々な需給要因に左右されるが、長期的には賃金所得の上昇を伴わない賃料上昇はあり得ない。

<今年はアベノミクスの分岐点>

筆者は昨年12月の本コラム「株高続く米国、サマーズ氏の懸念は杞憂か」(13年12月17日掲載)で日本について次のように強調した。

「デフレ脱却、マイルドインフレ達成のためには賃金上昇が欠かせない。各種賃金動向を見る限り、その兆しは見られるが、それが明確な変化になるかどうかの見極めには、最低あと数カ月はかかるだろう。不幸にして、賃金上昇、国内物価上昇、賃金上昇の連鎖が始動しなかった場合には、インフレ期待の後退によって円売り持高の巻き戻し、円高への急激な揺り戻しが起こり得る」。

これは住宅不動産価格についても全く同様に言えることだ。もしも「賃金上昇、国内物価上昇、賃金上昇」の連鎖が始動しなかった場合には、住宅賃料も目立って上昇せず、その結果マンション価格も頭打ちとなり、やがて景気の後退とともに再度下落に転じる公算が高くなるだろう。

マイルドなインフレを伴う持続的な景気回復となるか、あるいは景気の腰折れとともにデフレに回帰し、株や住宅などの資産価格も下落に転じ、アベノミクスは水泡に帰すか、14年はその分岐点となる。筆者は基本的に前者の楽観シナリオを想定しているが、後者のリスクシナリオも無視できない程度の可能性があろう。

*竹中正治氏は龍谷大学経済学部教授。1979年東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行、為替資金部次長、調査部次長、ワシントンDC駐在員事務所長、国際通貨研究所チーフエコノミストを経て、2009年4月より現職、経済学博士(京都大学)。最新著作「稼ぐ経済学 黄金の波に乗る知の技法」(光文社)。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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