March 11, 2014 / 11:03 AM / 4 years ago

コラム:デフレーターが示す日本経済の「体温」

田巻 一彦

[東京 11日 ロイター] -日銀の異次元緩和が効果を発揮し、消費者物価指数(除く生鮮、コアCPI)は前年比プラス1.3%まで上昇してきたが、2013年10─12月期のGDPデフレーターはマイナス0.3%にとどまっている。輸入原材料の上昇を最終製品に価格転嫁し切れていない現実を浮き彫りにし、経済が活性化することで物価を押し上げて「デフレを脱却する」という日銀の目標達成には距離があることを示している。

仮にGDPデフレーターのマイナスがこの先も継続するなら、日銀が追加緩和を決断する要因にもなりうるだろう。ただ、追加緩和策が単独で出ただけでは、輸入コストの増大を製品価格に完全に上乗せできる日本経済の「体温上昇」を呼び込むことが難しいかもしれない。政府がなかなか成果を示せない「成長戦略」で進展がなければ、追加緩和─円安進展─貿易赤字拡大という想定外のコースに足を踏み入れないとも限らない。この先のマクロ政策は、金融緩和と成長戦略がバランスよく進展することが何よりも求められる。

<輸入品価格上昇を完全に転嫁し切れない現実>

3月の金融政策決定会合が終了した11日、記者会見した黒田東彦総裁は、異次元緩和の効果が各所に出ていることを強調。生産─所得─支出の好循環が働き始めている状況に変化はなく、2%の物価目標達成に向け、着実な足取りを続けているとの自信を示した。

ただ、GDPデフレーターがマイナスにとどまっている現象をどう理解するべきか、という質問に対しては、輸入品の価格が上がるとデフレーターはマイナスに効くが、消費財に完全に転嫁されてはいない面があるとの見解を示した。

わかりやすく説明すれば、例えば、原材料価格が10%値上がりしても、最終消費財の価格を10%値上げできていないため、デフレーターがマイナスにとどまっているということだ。

黒田総裁は「いずれプラスになると思う」との見通しを示し、現状は転嫁が進むプロセスであるという立場を鮮明にした。

しかし、完全に転嫁が出来ないのは、一部の市場で価格転嫁を思いとどまらせるような需給関係があるためと見るのが自然ではないだろうか。

日銀はコアCPIとGDPデフレーターの関係を展望リポートのシナリオに関連付けて発表していないので、日銀の当初の想定でGDPデフレーターがどの水準にあるとみていたのかはわからない。

だが、この先もコアCPIが徐々に上がってきている中で、GDPデフレーターがマイナスから脱することが出来なければ、それは日銀にとって「想定外」の事態である可能性があると考える。

<成長力低下継続なら、円安/貿易赤字拡大のサイクルに>

そのようなシナリオの現実味が高まれば、GDP成長率の伸び悩みなどの現象も発生している可能性があり、黒田総裁が何回も強調している「上下のリスク」の顕在化の1つとして、政策対応の検討に入るのではないか。

しかし、私には1つの懸念がある。成長力のかさ上げを図る「成長戦略」の取りまとめがおざなりで、少子高齢化で高まる潜在成長力の低下という圧力を真正面から受けると、思いがけない事態に直面するリスクが出てくることである。

日銀がもし、追加緩和を実行に移せば、日銀による資産購入額の拡大を市場が意識し、円が主要通貨に対して下落し、円安が進展する。しかし、すでに年間で輸出額69兆円に対し、輸入額81兆円と大幅に輸入が上回っている現状では、円安の進展は貿易赤字の増大につながりやすく、経常赤字転落のリスク拡大と市場関係者には映るだろう。

そのことは中長期的に長期金利を低位安定させるという日銀の異次元緩和の目的の1つを動揺させることになりかねない。

こうした事態を回避するには、大胆な規制緩和をコアにした成長戦略で、国内に新しい産業を作り出すような動きを引き出すという「政策的な意思」の存在が不可欠だと考える。

また、その中には、成長のボトルネック要因として急浮上しようとしている「労働力不足」に対応した思い切った政策対応も必要になるだろう。

アベノミクスの3本の矢が、いつの間にか金融緩和だけの「1本の矢」となった場合、政策効果が十全に出ないだけでなく、副作用が深刻化するリスクがある。

金融緩和と成長戦略は、ともに進展していく姿を見せないと、政策当局の想定を超えた市場のアクションを呼び出す可能性がある。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにロイターのコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below