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コラム:米法人税改革めぐる議論の着地点=サマーズ氏
2013年7月8日 / 04:33 / 4年後

コラム:米法人税改革めぐる議論の着地点=サマーズ氏

ローレンス・H・サマーズ

7月7日、ハーバード大学教授で元米財務長官のローレンス・H・サマーズ氏は、今の米国の法人税体系にはだれも満足していないと指摘する。ニューヨークで2099年10月撮影(2013年 ロイター/Nicholas Roberts)

[7日 ロイター] - 今の米国の法人税体系にはだれも満足していない。

ある面からすると一番の問題は、企業利益が対国内総生産(GDP)比で異例な高水準となっている局面で、税収の対GDP比が極めて低い点にある。財政赤字が大きな懸念材料に挙げられ、防衛企業の何十万人という労働者が一時解雇され、予算の制約のために就学前教育プログラムの適用から抽選でもれる子供が出ているという状況で、業績が非常に好調な企業の多くは納税額がごくわずかかゼロだ。

別の面からみれば一番の問題は、米国の法人税率がどの主要国よりも高く、他国と違って海外で稼いだ利益に重税を課している仕組みだ。多くの人々は、これが国際競争を展開する企業に不公平な負担を強いて、海外の利益を国内に還流させようとする意欲をくじき、その結果として生じる投資パターンのせいで、国内の労働者が犠牲になる形で海外の労働者を潤していると主張する。

米法人税に関するこの2つの側面は、税制改革において正反対の方向を示しているように見受けられる。前者は税制の抜け穴をふさいで歳入増加を望む動きにつながる一方で、後者は法人税の負担軽減を図ろうとするように思われる。だから法人税改革をめぐる議論が対立するのも不思議ではない。「課税ベースを広げて税率を下げる」という考えは多くが支持できるのだが、課税ベース拡大の具体的手段となると合意形成がとん挫する傾向がある。実際のところは、企業寄りの改革論者の多数にとって主な目的は、「テリトリアル課税」を導入して海外の利益への課税を減らし、課税ベースを縮小しようということのようだ。

では今後の議論はどこに向かうべきなのか。法人税改革をめぐる2つの重要な側面に緊張関係があるとはいえ、現在行われている議論は非常に奇妙な地点にたどり着いているため、かえって双方にとって得になる改革を達成するのが容易になっている。

問題の核心は、グローバル企業への課税といえる。現行法では米企業は、海外の利益を国内に還流させる場合のみ、外国政府への納税分を控除した上で課税される。米企業が海外で保有する現金は現在2兆ドル近い。そしてこれらの企業は、今の制度では海外利益を国内に戻す際の負担が大きいと主張するが、還流されない海外利益には課税できないので連邦政府の歳入も大きくは増えない。企業側は、少なくとも株主のプラスになるように、そしてできれば投資促進のために、国内に利益を還流させる際の一定の救済措置が講じられることを望み、要求をしている。

企業のこのような言い分に対して、税率の低い地域に拠点を構える節税対策(婉曲な言い回しだと「アグレッシブな会計処理慣行」となる)を使ってきた企業にこれ以上の救済措置を提供することに異議を唱える声もあり、議論が続いている。

一方で企業の財務担当者はどうするだろうか。何らかの救済措置が実施される可能性があるとすれば、海外で稼いだ利益の適切な使い道がなかったとしても、米国に戻すのは先送りしようと考えるのが道理といえる。ところが今の議論は、まさにだれもが避けるべきだとみている事態を積極的に招きよせている。つまり企業にとっては現金が海外で留め置かれてマイナスとなり、米財務省にも何のメリットももたらさないという事態だ。

素朴な例を挙げれば問題点は明白になる。多くの書籍が貸し出され、延滞されたままの図書館を思い浮かべてみよう。書籍を返却すれば延滞は不問に付すという措置を打ち出すのも、ルールはルールなので罰金を徴収しようとするのも、それぞれに正当性がある。最悪の策は、近く延滞の罰則を免除しますよと示唆し続けて、決して導入しないことだが、われわれの法人税をめぐる議論はこれに非常に似通っている。

向こう10年間は法人税率は引き下げない、あるいは利益還流への救済措置を行わない、と明確にコミットすれば、現在の状況からみて一定の進歩になる。企業は海外の利益について株主のために還流させたいならば税金を必ず支払わなければならないと認識し、決定を先送りするインセンティブはなくなるからだ。

しかしこれは最良の結果ではないだろう。非常に一般的な形としては、納税者にとって負担感が大きく感じられながらも歳入が大幅に増加しないような税制が実施されている場合はいつでも、改善は可能だ。各納税者の負担を減らしながら全体としてはより多くの税金を支払ってもらえば、彼らが楽になる上に米国財政も助かる。それが法人税改革においてなすべきことだ。

米政府は、企業の海外利益に関して国内還流分と非還流分の区別を廃止するとともに、外国政府への納税額を差し引いた後で一律に課税し、その際の税率は現在よりずっと低めの、恐らくは15%前後にする必要がある。海外にある過去に蓄積された利益にも同じような課税が行われるべきだろう。

現行の課税ベースよりも歳入を増やし、米国への利益還流を促し、米国の多国籍企業が直面している競争面の不利を軽減するためには、こうした提案を打ち出そうと思えば簡単にできる。それこそ、税制改革論者が得ることができるフリーランチに近い姿といえる。

(ローレンス・H・サマーズ氏はハーバード大学教授。元米財務長官)

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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