July 17, 2013 / 4:13 AM / 7 years ago

コラム:米国「リハビリ終了」が告げる株高ドル高=上野泰也氏

米国の経済・金融動向を見ていく上で、米連邦準備理事会(FRB)が6月6日に発表した統計が非常に重要なメッセージを送っていたことに留意する必要がある。機関投資家向けセミナーなどで、筆者が常々強調していることだ。

問題の統計は、今年1―3月期の米国の財務勘定である。従来は資金循環という名称だったが、今回から改称された。家計(含む非営利団体)の純資産は前期比3兆ドル増加し70.3兆ドルとなり、住宅バブル崩壊前の2007年7―9月期に記録したピーク(68.1兆ドル)を、ついに上回った。

従来のピークからその後に記録したボトム(09年1―3月期の52兆ドル)まで、米国の名目国内総生産(GDP)を上回る約16兆ドルという「大きな穴」が、住宅バブル崩壊とその悪影響の拡大によって、家計のバランスシートに開いた形になっていた。それから4年。FRBによる大量の流動性供給を足場にした株価の大幅上昇に、昨年からは住宅価格の上昇も加わり、マクロ的にはその「穴埋め」がついに終了したのだ。

わかりやすく言うと、病院で長い間、治療・リハビリを続けていた米国経済が、ついに「退院」したということである。

構造的な重石が軽くなったため、米国の景気回復は今後いっそう鮮明になる可能性が高い。給与税減税が昨年末で打ち切られ、3月からは歳出の強制削減が発動されているにもかかわらず、米国経済が底堅く推移している理由はここにある。

昨年までと異なり、今年は春から夏にかけて景気指標の「中だるみ」がほとんど見られず、量的緩和の縮小・停止に向けて、FRBが「地ならし」を行うまでの状況になっている。

<最初の利上げは最速で15年半ばか>

5日に発表された6月の雇用統計は、量的緩和縮小の9月開始を目指していると見られるFRBにとって、「文句なし」の良好な内容となった。

非農業部門雇用者数を見ると、全体の増加ペース(6カ月後方移動平均をとると5カ月連続でプラス20万人超)、業種別内訳(バブル崩壊でダメージを受けた代表的な業種である「小売」「建設」「金融」は足元で増加)のいずれも、米国経済の回復基盤が一段強まったことを明確に示している。

むろん、景気に加えて物価の動向もにらみながら、米連邦公開市場委員会(FOMC)で最終判断が下されるわけであり、9月の量的緩和縮小開始が100%確実というわけではない。ただ、米国の家計によるバランスシート調整が全体としては終了し、景気回復の力強さが一段増しつつあることを考えると、スケジュールの大きな後ずれは考えにくい。

14年1月末で退任すると見られるバーナンキFRB議長としては、金融政策の正常化に向けた第一歩である量的緩和の縮小は、自らの任期中に決めておきたいところだろう。また、月850億ドルというハイペースの資産買い入れによるFRBのバランスシート拡大圧力について、米中央銀行当局者はおそらく、本能的とも言えるような恐怖感やリスク認識を抱いているだろう。

このままバランスシートが膨らみ続けると将来何が起こるか分からないという恐怖感があるからこそ、ハト派に属するはずの複数の地区連銀総裁からさえも量的緩和の縮小・停止に前向きな発言がいくつも出てきていると推測される。

ただし、FOMCの議事録などから確認できるように、量的緩和の縮小・停止はあくまでも追加緩和のペースダウン・停止ということであり、金融引き締めそのものである利上げとは明確に区別して考える必要がある。

量的緩和の停止は最速で14年半ばになるだろうと筆者は予想しているが、それから最初の利上げまで最低でも1年ほどは待つのではないか。米国の超低金利の「時間軸」は、12年10月のFOMC声明文までは、カレンダー型で提示されていた。具体的には「少なくとも15年半ばまで」というものである。

FOMCはその後、失業率6.5%などの数値基準を「時間軸」に採用して現在に至っているが、それにより「時間軸」が短縮した、すなわちFOMCの大勢が見込む利上げの時期が前倒しになったとは考えにくい。

これは、FRB理事・地区連銀総裁による6月時点での最新金利見通し(適切な利上げ開始時期についての集計結果)からも明らかである。適切な利上げ開始時期についての回答で最も多かったのは「15年」で、14人。3月の前回集計時から1人増えていた。

それでも、最速で15年半ばと見込まれる最初の利上げまでのインターバルが2年を切ってきたため、この先は時間の経過とともに、米2年債利回りは満期到来前の利上げの織り込みを増す形で、テクニカルに水準を切り上げる可能性が高い。

一方、日本の場合は、黒田東彦日銀総裁の任期中の5年間は利上げがないと予想されるため、2年債利回りの上昇余地はきわめて限られる。したがって、局面によってはドル円相場に影響を及ぼすことがある日米2年債利回り格差は、時間の経過とともに拡大していくと考えられる。

<ドル円は数年内に110円前後へ上昇も>

また、日米の長期・超長期ゾーンの国債利回り格差についても、米国の金利上昇が主導する形で徐々に拡大していくことが十分予想される。これについてもドル円相場へのインプリケーションは、円安ドル高である。

米国の10年債や30年債の利回り水準は、一頃よりは上昇したものの、米国のファンダメンタルズに沿って考えた場合、まだかなり低い水準にとどまっている。「リスクオフ」による超過需要・金利低下圧力がないという前提で言えば、米10年債は3%台、30年債は4%台が「居心地がよい」水準だというのが、以前から筆者が抱いている金利観である。

長期金利の水準形成で構成要素になると考えられるのは、今後予想(期待)される実質経済成長率(潜在成長率)、予想(期待)インフレ率、そしてリスクプレミアムの3つである。

米国の場合、潜在成長率は2%台前半というのが多数説である。実際、FRB理事・地区連銀総裁の最新の経済見通しにおいて、実質GDPの「長期(longer run)」は、2.3―2.5%になっている。

一方、予想(期待)インフレ率は、米国の場合、本来は2%のインフレ目標ということになる。FRB理事・地区連銀総裁の最新の経済見通しでも、個人消費支出(PCE)デフレーター(総合)の「長期」は2.0%となっている。

ただし、PCEデフレーターの実勢がこのところ目標からかなり下振れていること(5月分は総合が前年同月比プラス1.0%、コアが同プラス1.1%にとどまった)を考え合わせると、市場における長期金利の当面の水準形成においては、インフレ目標2%よりも低い水準が織り込まれやすいと言うことができる。

したがって、潜在成長率を2%台前半、予想インフレ率を1%前後から2%と見て両者を加えると、3%台前半から4%台前半という金利水準になる。

この間、米国の財政収支が順調に好転していること、格付けが最上級でかつ流動性が高い米国債の購入需要がしっかり存在していること、欧州や中国のリスクが意識される中での「質への逃避」的な米国債需要の存在といった諸要因に鑑みると、少なくとも当面は、長期金利の水準形成・変動において、リスクプレミアムは大きな役割を果たさない、すなわちプラス方向の上乗せはほとんどないと見ることに無理はあるまい。

以上を踏まえた筆者の米国市場についての大枠の予想は、米国株のさらなる上昇(ダウ工業株30種平均は1万6000ドルに到達)、米国債利回りの一段の上昇(米10年債利回りは3%台、米30年債利回りは4%台に上昇)、為替市場でのドル高円安(1―2年内に110円前後)というものである。

*上野泰也氏は、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below