July 29, 2013 / 5:42 AM / 7 years ago

コラム:夏枯れ相場を揺るがす「チャイナリスク」=斉藤洋二氏

1990年代後半のアジア通貨危機、そしてロシア財政危機を乗り越え、新興国は成長を加速させ世界経済をけん引してきた。しかし、中国とインドが2ケタ台の成長を示した2010年をピークに、減速感が強まっている。

国際通貨基金(IMF)は9日、中国、インド、そして新興国・途上国の2013年成長見通しを、それぞれ7.8%、5.6%、5.0%へと下方修正した。米連邦準備理事会(FRB)による量的緩和(QE)縮小を見越した資金引き揚げ懸念などを背景に株安や通貨安が進み、新興国情勢は世界経済のポジティブ要因からネガティブ要因へと一変しつつある。

特に、世界第2位の国内総生産(GDP)を誇る中国では、09年の「4兆元投資」がインフラ・不動産投資を喚起し景気を浮揚させた一方で、急速な信用拡大や地方政府の巨額不良債権が新たな潜在リスクとして浮かび上がってきた。

6月後半には、上海の金融市場で銀行間取引金利(翌日物)が一時13%台まで急上昇。上海総合株価指数は2000ポイントの大台を割り込むなど4年ぶりの安値水準へと下落した。中国人民銀行(中央銀行)の資金供給により四半期末の危機はひとまず回避されたが、同国の抱える根本的問題は何ら解決されておらず、今後も潜航した「チャイナリスク」が突如再浮上し、世界の金融市場を揺さぶるかもしれない。

<中国版サブプライムローン問題>

中国経済は土地・労働・資本という三大生産要素のうち、特に労働と資本において喫緊の課題を抱えている。そのひとつは労働生産性が低い点だ。13億人の人口を抱えつつも農村部から供給されてきた労働者(農民工)は底をつき、労働力不足も深刻化している。

もうひとつの問題は資本効率の悪さだ。実体経済とかけ離れたマネーが膨張し国内に溢れているにもかかわらず、中小金融機関を中心に流動性不足が生じている。マネーサプライM2伸び率(前年比)は、5月は15.8%、6月は人民銀行による抑制効果により圧縮されたものの、依然14.0%と通年目標の13%を上回っている。

この背景には、「通常の銀行システム外の事業体および活動に関連する信用仲介」と定義されるシャドーバンキング(影の銀行)の存在がある。

これは預貸金利や銀行融資総量に関する規制の存在など硬直化した金融システムに起因しており、同時に個人や企業の資金が地方の不動産開発に流れ込み信用バブルを生じさせる温床ともなっている。金融当局によるこの問題への対処が6月の金融市場の混乱を招いた要因となっており、それはまた金融システム改革の必要性が問われている背景でもある。

「影の銀行」といえば、サブプライムローン問題に端を発する未曽有の金融危機を招いた米国のモーゲージブローカーやノンバンク、ヘッジファンドや投資銀行などがその代表例だ。

その仕組みについては、住宅貸付債券が分割され、債務担保証券(CDO)などへと再証券化が図られ、レバレッジを高めるなど金融工学が駆使された。結果として、住宅市場の崩壊によりリスクが表面化し、その複雑さゆえに金融当局の把握を超えた実体が未曽有の金融収縮をもたらしたことは記憶に新しい。

一方、中国における「影の銀行」は、仕組み的には、理財商品(高利回りの金融商品)で集められた資金や企業間の余剰資金の投融資である。

「中国版サブプライムローン問題」との捉え方があるが、米国版と比較すれば案外単純なスキームであること(デリバティブを駆使した金融イノベーションというよりも、従来の融資業務に修正を加えた程度にすぎない)、そして投資家が主に個人であり、リスク総量が個人のバランスシートの範囲内に止まり限定的だと見込まれることが大きな相違点といえよう。一方で、金融当局の管理を超えたところで行われており、その実態が把握されていない点や、中国においても不動産市場の下落に連鎖する形で問題が拡大すると予想される点では類似しているといえる。

理財商品の規模については最近、8.2兆元(約130兆円)と中国当局により公表され、さらに17日にはIMFが銀行融資以外の貸出しをGDPの55%にあたる約460兆円との推定値を発表した。

言い換えれば、「影の銀行」の正確な規模や実体は政府もいまだ十分に把握しきれていない。また、商品性においても、債権・債務関係や投資家保護があいまいであり、デフォルト発生時には、深刻な信用収縮と財政負担、さらには市場の混乱がもたらされるのではないかと危惧される。

<円買い要因としてのチャイナリスク>

こうした中、中国政府はどう対処していくのだろうか。李克強首相が「2020年までにGDPと国民1人当たりの所得を2010年の倍にする」との目標を掲げ、新体制が船出してから、早くも4か月が経過した。構造改革による成長を目指す経済政策は、「リーコノミクス」ともいわれている。

早速、先の政権が放置してきた「影の銀行」に対して、国務院の指導下にある人民銀行による流動性供給抑制政策を行うなど、改革の動きを示した。既得権益層の反発をある程度覚悟して構造改革を進め、成長目標の達成を目指していく過程で、アクセルとブレーキ、アメとムチをいかに使い分けていくのか、その手腕が注目される。

足元の経済状況をみると、4―6月期の実質GDP伸び率は前年同期比7.5%と2四半期連続で鈍化した。なかでも6月の輸出額が前年同月比3.1%減と1年5カ月ぶりにマイナスになるなど、外需の不振が目立つ。

さらに内需についても住宅、自動車を除き、習近平指導部による「倹約令」により消費が伸び悩んでいる。住宅バブルの懸念や「影の銀行」問題に対処するために過剰投資の抑制が優先課題であり、金融緩和による景気刺激策を安易に打ち出すことはできない。今後も景気の停滞感が続くことになるだろう。

このような環境下、規制が多く市場メカニズムが機能しない金融システムの改革が、リーコノミクスの主要な政策目標となるはずだ。具体的には、1)高度成長を支えるために低く抑えられてきた預貸金利の自由化を進めること、2)新規参入を可能にすること、3)資本市場の整備を進めること、4)「影の銀行」の解決を図ることだろう。

これらの改革がうまく行けば、中国の金融システムは、時価総額で世界最大の銀行である中国工商銀行を筆頭とする4大商業銀行による寡占状態から脱却し、自由競争に基づく金融システムへの移行を果たすことができるはずだ。しかし、その改革は「影の銀行」を直撃し、バブル崩壊というハードランディングの可能性を伴う「両刃の剣」であることを認識しておく必要があるだろう。

中国の金融システムリスクは依然、収束したわけではない。バブル崩壊による金融収縮発生の可能性、そしてその結果として流動性確保のために1.3兆ドルを超える保有米国債の売却に及んだ時の世界の金融市場へのインパクトは計り知れない。

経常収支の不均衡に対し、海外から流入する短期資金への依存度を高めたことに端を発した97年のアジア通貨危機当時と比較すれば、新興国の外貨準備は増加し、さらに各国間でスワップ協定が結ばれ、国際金融システムは強固となっている。しかし、中国経済の巨大化とアジア諸国との連動性の高まりを考えれば、中国発危機の可能性を完全に否定することはできない。

今後夏枯れる市場において、米国金融政策の行方がドル買い材料として注目を集めるとしても、円買い要因としての「チャイナリスク」にはくれぐれも注意が必要だ。

*斉藤洋二氏は、ネクスト経済研究所代表。1974年、一橋大学経済学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。為替業務に従事。88年、日本生命保険に入社し、為替・債券・株式など国内・国際投資を担当、フランス現地法人社長に。対外的には、公益財団法人国際金融情報センターで経済調査・ODA業務に従事し、財務省関税・外国為替等審議会委員を歴任。2011年10月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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