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コラム:ドリンク剤依存か決別か、米経済の分かれ道=加藤隆俊氏
2013年8月1日 / 09:25 / 4年後

コラム:ドリンク剤依存か決別か、米経済の分かれ道=加藤隆俊氏

量的緩和(QE)縮小を示唆したバーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長の議会証言から2カ月以上経ち、市場もだいぶ落ち着きを取り戻しつつある。背景には、議長のその後の発言や米連邦公開市場委員会(FOMC)の声明を通じて、FRBのスタンスやメッセージの意図が正確に伝わり始めたことがあるだろう。

マーケットは当初、5月の議会証言を経て6月のFOMC後の記者会見で議長から示された「QE年内縮小・来年半ば停止」というスケジュール感の速さに大きく動揺したとみられる。直後の長期金利の跳ね上がりは、その分かりやすい条件反射だった。

しかし、議長がその後、講演や別の議会証言で、QE縮小が既定路線ではなく、また停止されたとしても金利政策を含むFRBの全体的な政策は引き続き極めて緩和的になると丁寧に説明したことで、当初のショックは急速に消化が進んだ。長期金利の上昇幅は縮小し、米国株も堅調さを保っている。ドル円相場の値動きも7月に入り、だいぶ落ち着いた。

そもそも、現時点でQEの年内縮小開始を決定的と捉えることは難しい。雇用統計や国内総生産(GDP)など一部の主要経済指標はいくぶん強めに出ているものの、インフレ率はFOMCの長期目標である2%を下回る水準で推移しており、ディスインフレ圧力は依然として消えていない。

また、株高などを受けた家計のバランスシート改善そして支出増加を背景に、住宅セクターは力強さを増しているが、住宅ローン金利は急上昇しており(30年固定で4%台)、購買意欲を冷え込ませる恐れがある。

7月30日―31日のFOMC後に発表された声明文では、今年上半期の米経済活動の拡大ペースは「緩やか(moderate)」から「控えめ(modest)」にやや下方修正された。つまり、今後の景気動向次第では、QE縮小、継続のどちらに転んでもおかしくないというのが実情ではないだろうか。

<QE長期継続の可能性は低い>

ただし、一部で聞かれるように、議長が示したスケジュール感が大幅に後ずれし、2014年後半以降もQEが長期継続されるような事態に陥る可能性は低いと筆者は考えている。

7月31日発表の声明文では、上期の景気認識は確かにやや下方修正されたが、QE縮小のカギを握る雇用情勢とインフレ率の見通しについては、想定どおりの推移が再確認されている。たとえば、失業率は依然高止まりしているとしながらも、段階的な低下を予想。経済と労働市場の見通しに対する下方リスクも昨秋以降後退したと明記している。インフレ率についても、2%の目標を下回る水準が経済活動へのリスクとなる可能性を指摘した一方で、中期的には目標水準に向かって回帰する想定を崩していない。

ここからはかなり推測になるが、議長は少なくともQEについては、来年1月末に迎える自身の任期満了前に縮小・停止への道筋をつけたいのではないか。

端的に言って、累次のQEにより市場には大量の資金が供給されてきている。この非伝統的金融政策の解除のタイミングを誤れば、過剰なレバレッジ拡大やリスクテークを誘発し、金融市場でのバブル形成を招く恐れがある。実際、議長は7月17日の議会証言で、縮小の見通しに言及した理由として、金融市場でのバブル形成を防ぐことが目的の一つだったとはっきり説明している。

折しも、米国では来年、中間選挙がある。景気回復をバネに民主党の勝利を確実なものにしたいオバマ大統領はもとより、行政府や議会、企業からもQE継続を望む声が高まりかねない。「FRBの意図は、予見可能な将来にわたり金融政策を非常に緩和的に維持することである(中略)ただ、資産買い入れについては、経済指標に応じて判断する方針を非常に明確にしてきた」(7月17日議会証言後の質疑応答)という発言からも、議長の警戒感がにじむ。FRBの独立性が損なわれることはないのか。QEの行方とともに、経済および金融の不均衡の増大リスクに注視が必要だ。

また、可能性は低いといったが、QEの長期継続を招くリスクシナリオがもう一つある。新興国経済の想定以上の減速である。周知の通り、アジアも南米もこのところ、景気減速感を強めている。5月のバーナンキショック以降、資金引き揚げ懸念から新興国の通貨安や株安が進行。インフレ懸念が高まる中、通貨防衛のため、ブラジル、インドネシアやトルコなどのように利上げを余儀なくされる国が増えている。

新興国経済の減速が深刻化し長期化すれば、米国の実体経済にも当然跳ね返る。その結果、QE縮小開始が大幅に後ずれする可能性にも注意を払う必要があるだろう。

*加藤隆俊氏は、元財務官(1995─97年)。米プリンストン大学客員教授などを経て、2004─09年国際通貨基金(IMF)副専務理事。10年から公益財団法人国際金融情報センター理事長。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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