August 8, 2013 / 11:50 PM / 7 years ago

コラム:マーケットの異常気象を招く過剰流動性=熊野英生氏

毎日、相場変動をみていて感じるのは、この半年間はボラティリティが極端に大きくなったということだ。特に5月23日の株価下落後の値動きは目まぐるしい。

昨今の天候が異常気象になって、梅雨明け後も日中の短時間、集中豪雨に見舞われるのによく似ている。最近は、株式市場の体質が以前に比べてすっかり変質したように思う。

寄り付きで200円下がっても、後場に入るとプラスに転じて、さらに100円のプラスで引ける、などといった大変動が日常茶飯事で起こる。海外投資家や個人投資家が極めて投機的な取引をしているからだという説明が巷間行われている。

しかし、筆者はそれだけではないと感じる。むしろ、市場の過大評価に問題があるように思える。たとえば、ひとつのイベントについて過大評価が生じて、それを材料に大きく買い進んだ後、期待感が裏切られたとする。すると、過大評価があった分、大きな反動が生じる。その繰り返しが、市場のボラティリティを高めている。

<QE3縮小をめぐる「かく乱」>

市場の評価が大きく変わりやすい代表的事例は、米連邦準備理事会(FRB)が着手し始めた量的緩和第三弾(QE3)縮小をめぐる見解である。FRBの資産買い取りの縮小が、9月か12月かについて大きなテーマになっている。

手がかりは、毎月初めに発表される雇用統計だ。7月初めの雇用統計(6月分)発表は、4月分、5月分の改定値を含めて前月比20万人増に接近する良好な拡大を遂げていたことが好感された。8月初め(7月分)は一転、16.2万人増でやや弱めの結果への失望が広がった。今のところ、強気と弱気が目まぐるしく交錯している。

市場は5月23日の直後、QE3縮小に強い警戒感を抱いていた。それが、しばらくすると、景気がFRBの想定どおりに勢いを増せば、株価にもプラスという評価に変わっていった。さらに現在は、QE3縮小を9月に実施すると、景気実勢が弱いのに刺激が強すぎるのではないかという消極論に傾きつつある。

米経済指標が少し動くだけで、米金融緩和への観測ががらりと変わり、それがドル円レートを動かしている。さらに、為替変動が日経平均株価をより大きな変動幅で揺さぶる。

<アベノミクスをめぐる「かく乱」>

市場の見方が大きく変わる例は、アベノミクスにもある。

5月23日の株価暴落は、一時はアベノミクスが犯人として疑われ、成長戦略は力不足という批判が渦巻いた。しかし、株価暴落に前後して、アベノミクスに対する金融関係者の期待感は変わらずに高かった。

そして、アベノミクスは、7月21日の参議院選挙で与党が大勝すると、ねじれ国会が解消して成長戦略プランが実行しやすくなると期待された。ところが、安倍政権は参議院選挙の前後から消費税を2014年4月に引き上げる判断を慎重に行うという意向をにじませた。

この動きは、アベノミクスが改革に対してまっしぐらに進むイメージとは乖離がある。これをみて、少なからぬ投資家が、その前途に対して様子見をするように変わった可能性がある。7月21日以降の対日株式投資をみると、海外投資家は週次統計で買い越しから2週間連続での売り越しに転じている。10月の「成長戦略実現国会」を前にして、アベノミクスは足踏みしている印象なのだ。

<過剰流動性はマネーの回転数を上げる>

株価の乱高下と、経済イベントをめぐる評価が二転三転することは、直接的に関係するものではない。それでも、センチメントが移ろいやすいことと、株価の乱高下の間に何らかの因果関係があるのではないかという筆者の直感は伝わったのではないかと思う。

達観してみると、過剰流動性の中では、市場センチメントは過大な評価に大きく揺さぶられやすくなるということだろう。

米国では12年9月以降のQE3実施によって、過剰流動性が生み出された。日本でも黒田東彦日銀総裁の下、13年4月から量的・質的金融緩和が始まった。米国では3月まで財政の崖、自動歳出削減プログラムの発動があれだけ騒がれていたのに、蓋を開けてみると、景気の波乱にはならなかった。それだけQE3の麻酔効果が強力だったということだ。

実体経済の規模に比べて、巨大な資金供給が行われると、物価指標が上昇するのではなく、マネーの回転率が高くなる。経済学では「貨幣の流通速度」という穏当な表現を使うが、実際は投機的な回転売買を誘発するということだろう。マネーを増やすと、株価が上がるという人もいるだろうが、現実には株取引の回転数が極端に上がる効果が目立つことになる。

奇しくも、5月23日の株価暴落後は、超高速取引を駆使する海外ファンドの存在が注目された。個人投資家の中でも、デイトレーダーの増加がいわれている。これらは、まさしく金融取引の回転数が上昇していることの証左である。

5月23日以降の経験からみると、たとえ株価が下がったとしても、金融取引の回転数は必ずしも低下しないことがわかる。様々なイベントを材料にしながら、売り買いを活発化させることで利益を上げる。相場が一本調子に上がっていかなくなった状況下、過剰なマネーの下でイベントが必要以上に材料視されて、乱高下がビジネスチャンスになっているのだろう。

おそらく、株価が下落したとしても、投資の期待成長率が高いために投機筋は取引量を減らさない。この状況は、米経済に対する成長期待が根強く継続し、かつアベノミクスへの前向きな評価が続く限りは、継続するだろう。当面、普通の投資家は、大きくなったボラティリティと付き合っていくしかない。

今、投資家として必要な視点は、米金融緩和にしても、アベノミクスにしても、イベントに対する市場の評価が過大になりやすくなっているので、その過大評価に振り回されないようにすることだ。

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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