August 22, 2013 / 9:49 AM / 6 years ago

コラム:アベノミクスに冷め始めた海外投資家=佐々木融氏

筆者は先週、シンガポールと香港に出張し、当地のヘッジファンド(主に欧米マクロファンドのアジア拠点)、リアルマネー投資家らと会合を重ねた。そこで特に強く感じたのは、与党の勝利に終わった7月21日の参院選後に目新しい政策、つまりアベノミクスの「第3の矢(成長戦略)」が放たれないことに対する海外投資家の苛立ちだった。

実は昨年11月以前も、海外投資家に会うと、「日銀はなぜもっと大胆な緩和政策をとらないのか」「巨額の財政赤字に対して日本はなぜ抜本的な対策を打たないのか」などと質問攻めにあうことが多かった。今回久しぶりに、そうした厳しい雰囲気を味わうことになった。

あるシニアポートフォリオマネージャーは、「アベノミクスの第1の矢(金融緩和)と第2の矢(財政出動)は海外投資家を喜ばせるためのパーティーで、その宴の間に第3の矢を放つはずだったのではないのか。でも、なかなか第3の矢が放たれないので、海外投資家は酔いが醒(さ)めてしまった」と述べていた。この言葉が今回会った投資家のセンチメントを最もうまく言い表しているように思えた。

参院選から1カ月余りの間に、日経平均株価は8%も下落している。米S&P500(マイナス2.9%)、独DAX(マイナス0.6%)、英FT100(マイナス3.6%)、上海総合(プラス4.0%)などに比べて、明らかにパフォーマンスが悪い。この比較劣位は海外投資家の苛立ちを示しているのかもしれない。

<消費増税見送りはかなりの失望を招く>

アベノミクスに冷め始めた海外勢の様子をもう少し紹介しよう。最も多く聞かれた意見は消費税の引き上げに関するものだった。「消費税が予定通り引き上げられなかったら、市場はかなり失望し、日本株は相当売られるだろう」との見方が多かった。

全体的に日本株のロングポジションや円のショートポジションをすでに縮小している投資家が数多くいた印象を受けたが、中には「消費税引き上げがないと判明した時点で、保有している残りの日本株を売却する」と言明する先もあった。

また、「インフレ率を2%まで引き上げるために日銀が追加でできる政策は何か」という質問も多かった。昨年11月以降の円安は、期待インフレ率の急激な引き上げを通じて実質金利を下げることによって実現したが、これ以上期待インフレ率を高めるような政策が行われないのであれば、さらなる円安進行は難しいのではないかとの声も聞かれた。

別のポートフォリオマネージャーは、「これまではドル円相場に対して下がったところを買うというスタンスで臨んでいたが、これからは上がったところを売るというスタンスに変えなければいけないかもしれない」とまで言っていた。

<アジア通貨の動きに要注意>

ただし、今後のドル円相場を動かす主要なファクターについては、「アベノミクスによる円の変動よりも、米国の金融政策によるドルの変動になるだろう」との見方が大勢を占めた。

実際、海外投資家は現在、アベノミクスよりも米連邦準備理事会(FRB)の次の一手に注目しており、世界の金融資本市場はやや不安定な状態にある。過去1週間、米国の長期金利が上昇しながら、米国株が下落するという動きが見られ、これを受けてドルが上昇し、エマージング諸国の通貨、債券、株式が売られている。

こうした動きは、6月19日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で将来の利上げ期待が高まった後の1週間程度でも見られた。過去1週間の米株価下落および米金利とドルの上昇幅はこの2カ月前の動きに比べると総じて小幅だが、日経平均株価とアジア通貨の下落幅は当時より大きくなっているのが目立つ。

アジア通貨の中でもインド・ルピー、インドネシア・ルピアの弱さが際立っており、今週に入り、それぞれ対ドルで5―6%も下落している。これに反応するような形で、タイ・バーツ、マレーシア・リンギットの下落も加速し始めている。

いうまでもなく世界の金融資本市場はつながっており、アジアで不安定な動きが続くと、投資家のリスク許容度が低くなり、現在保有しているポジションを手仕舞う必要性が高まる。そして、アジア通貨の下落が他のエマージング通貨に波及し、やがては先進国の株や債券に伝播する恐れもあるのだ。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の債券為替調査部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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