[ロンドン 27日 ロイター] - 米国や同盟国がシリア攻撃に踏み切る目的は、内戦の流れを変えることではなく、西側諸国に敵対した場合の教訓をアサド大統領とイランに示すことになると考えられている。
欧米の関係者によると、アサド政権による化学兵器使用疑惑への対応措置として、駆逐艦からのミサイル攻撃が想定される。
攻撃が実施される場合、オバマ政権はアサド大統領だけでなくシリアの同盟国で核開発プログラムを進めるイランの牽制も視野に入れる見込みで、標的の設定には細心の注意が必要となる。
2011年までホワイトハウスの中東問題首席顧問だったデニス・ロス氏は「オバマ政権は、懲罰か、シリア国内の勢力バランスの変化か、目的を決めなければならない。私の考えでは、前者だと思う」と述べた。
2011年の北大西洋条約機構(NATO)による空爆はリビア内戦の流れを変え、カダフィ政権を崩壊に導いた。ただオバマ大統領がシリアで同様の展開を想定しているとは考えにくい。
米高官によると、米国防総省はすでにホワイトハウスに複数のシリア攻撃案を提示しているが、規模は小さくなる見通し。
米海軍大学の中東問題講師、Hayat Alvi氏は「シリア攻撃はあるだろうが、行動を起こしたことを世界に示すことが目的で、最小規模にとどまるだろう。重要なのは深入りの回避で、特に地上攻撃は認められない」と述べた。
ヘーゲル国防長官は、米軍は大統領が指示を下せばすぐに行動できる状態にあると述べている。
早期に行動を起こさなければ、アサド大統領がとがめられることなく再び化学兵器を使用する事態が懸念される。オバマ大統領は1年前、化学兵器の使用は「越えてはならない一線」で、越えた場合は強い行動が必要になるとの認識を示していた。
また、「ほかの一線」に疑問が生じる恐れもあり、イランの核開発計画が進む事態も懸念される。イスラエルにイランの核関連施設攻撃を促すことにもなりかねない。
<難しい標的設定>
ただ、標的の設定は危険をはらんでいる。関係者によると、現時点では、アサド大統領の部隊と管理下施設、防空施設、問題なく攻撃できるとみられる化学兵器庫が標的となる可能性が大きい。
危険物質がばら撒かれ、環境に悪影響を及ぼす事態に発展しかねない攻撃は避けなければならない。また、アサド大統領を支持するロシアの技術者が命を落とすような事態も同様だ。すでに問題を抱えるロシアと西側諸国の関係がさらに悪化する可能性がある。
西側の関係者は、シリアの高度な防空能力と同盟国側に犠牲者が出るリスクを考慮すると、現時点では巡航ミサイルによる攻撃が最も有力とみている。
駆逐艦などからのミサイル攻撃はシリア空域に入ることなく攻撃が可能。米国はすでに、地中海でミサイル駆逐艦の配備を4隻に増やしたことを発表している。英国も攻撃型潜水艦を地中海に待機させており、リビア空爆の時と同様に米主導の攻撃に参加することが可能。フランスも空母「シャルル・ド・ゴール」が3日でシリア沖に到達できるとしている。
<最もましな選択肢>
シリア攻撃について、ロイターが取材した関係者のほとんどは、同盟国側と民間人に犠牲者が出る可能性が最大の懸念事項とみている。
ある欧州の関係者は匿名で「パイロットが捕らえられたり殺害されるようなリスクは避けたいのは当然のこと」と述べた。
有人機による攻撃も選択肢として残されている。イスラエルはすでに数回空爆を行っており、可能なことを実証している。
湾岸諸国や周辺同盟国による情報提供も考えれるが、初期段階の攻撃に直接関与する可能性は小さい見込み。これら諸国にとっては、シリアの報復から自らを守ることが最大の関心事だ。
シリアの通常戦力が強力なことも見逃せない。対艦ミサイルは地中海周辺の駆逐艦の攻撃が可能で、イスラエルを含む周辺諸国を攻撃できるロケットも装備されている。
アサド大統領は昨年、国内で化学兵器を使用することはないと確約する一方、海外から「政権交代」を迫る動きに対する牽制を忘れなかった。西側関係者によると、依然としてシリアには、先週使用されたとみられるサリンより強力なVXガスを含めかなりの化学兵器の備えがあるという。
(Peter Apps記者;翻訳 中田千代子 ;編集 佐々木美和)
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