September 4, 2013 / 2:03 AM / 6 years ago

コラム:中国経済復調という誤ったシグナル=武者陵司氏

中国ではここ数カ月、予想外の変化が起こっている。それは、複数の統計指標に改善の兆しが見られることだ。

前月比0.7ポイント上昇して51.0と、1年4カ月ぶりの高水準を記録した8月の製造業購買担当者景気指数(PMI、中国国家統計局発表)もさることながら、一番意外だったのは鉄鉱石輸入が6月の低水準から一転し、7月に過去最高の7314万トンまで大幅に増加したことだ。7月の貿易額も、輸出入ともに予想を大きく上回った。中国が最大の需要家である銅などの国際的なメタル市況にも顕著な改善が確認できる。

筆者は当初、中国経済の息切れは間近だろうと考えていた。実質経済成長率は2010年の10.4%から、11年は9.2%、12年から13年第2四半期にかけては8%台を下回り、リーマンショック直後を除き、2000年代では最低水準まで落ち込んでいた。これを受けて、モノの動きもほとんど止まり、前年比2―3割増のペースで伸びてきた貿易額は前年並みの水準まで落ち込み、6月には12年1月以来1年5カ月ぶりに輸出が減少に転じた。複数の指標が、中国の景気失速を暗示していたのだ。

それだけに、7月以降の急改善はあまりに不自然な感じがする。世界貿易が大きく上向いているならば納得もいくが、その勢いはない。投資から消費主導への中国経済の構造改革が、結果を数字で示せるような段階に入っている証拠も見当たらない。要するに、この復調は権威主義的な「官製経済」の賜物なのだろう。具体的には、インフラ整備加速など当局による各種景気テコ入れ策を見込んだ、期待先行の受注増や生産増、在庫積み増しが起こっているものと見られる。

確かに、指標を信じる限り、ただちに景気失速から経済困難に向かうことはないとはいえそうだ。パッチワーク的な国策動員によって、しばらくは安定した時代が続くのかもしれない。しかし、公的支援への期待に頼る投資主導の経済成長は、端的に言えば、「騙(だま)し」であり、持続不可能であり、何よりさらに深刻な経済困難を招来する可能性がある。以下、中国経済の真の問題点を整理してみよう。

<成長率は4%下回る可能性も>

まず、中国にとって目下最大の問題は、経済成長をけん引してきた投資の採算性が悪化するに伴い資金不足が深刻化していることである。株価の低迷に企業収益の悪化も重なって、増加し続けてきた海外からの資金流入はこのところ、勢いを失っている。

たとえば、野放図とも言える高投資の源泉となってきた外貨準備の対名目国内総生産(GDP)比率は、1980年代の1%以下から、95年10%、2000年13%、10年49%と急上昇してきたが、12年には40%へと急低下、13年前半では38%程度である。

むろん依然として高水準だが、これは非合法な資金流入によって嵩(かさ)上げされてきたためだろう。具体的には、輸出額の水増しが主な裏ルートになっていた可能性が指摘されている。つまり、実額を上回る輸出額を申告し、為替管理が厳しい中国に海外から送金していた可能性がある。中国と貿易相手国における統計上の不整合もそれで説明がつく。

この非合法の資金流入は、中国当局が今年5月に輸出統計の管理を厳格化して以降、ある程度抑制されたと見られる。輸出額が減少した6月の貿易統計はそれを反映したのではないだろうか(7月は輸出入ともに増加したことを考えると、政策期待などによって当面は糊塗できるのかもしれないが)。

ちなみに、6月下旬に上海の金融市場で短期金利が跳ね上がったが、これも金回りが悪化したことと無縁ではないだろう。もともと国際投資家の対中投資が抑制されている中で、中国人のイニシアティブによる海外からの資金導入が細った。その結果として、クレジットクランチ(信用収縮)が一気に深刻化したと考えられる。短期金利の急騰を中国人民銀行(中銀)によるバブル抑制姿勢の表れと評価する向きもあるが、それは一面にすぎない。むしろ、中銀の予想を上回る信用収縮が生じていたためと考えるべきだ。

そもそも中国の投資主導型経済は、常識的な限界を超えている。主要国の総固定資本形成の対名目GDP比率を見ると、そのいびつさがよく分かる。韓国の26.7%、日本の21.2%やドイツの17.6%、米国の15.8%に対して、中国は45.7%にも達する(12年)。固定資本形成がGDPのほぼ半分を占める計算だ。

経済合理性ではなく共産党の事情によって推進されてきた不動産投資、企業設備投資、公共投資は、その多くが不良投資化している可能性が高い。他方、過度の投資主導型成長が追求される中で資本分配率の適正化は図られず、労働分配率は異常なほど低く抑えられたままだ。富は国家と企業に集中する一方で、低所得者層が増え、都市部以外では消費力も高まっていない。

この状況は、非常に厳しい未来を暗示している。会計上の投資とは、端的に言えば、費用の資本化、つまり先送りである。将来の投下資本の回収義務、償却負担は発生するものの(つまりコストは決まっているが)、果実は不確定なのだ。

統制経済の中国の場合、需要に基づかない投資がより長期にわたり持続する可能性はあるが、永遠はあり得ない。いずれ限界に達したときは、成長率は5―7%割れどころでは済まない可能性が高い。消費は中国のGDPを4%程度押し上げているに過ぎず、投資の伸びが止まれば、一気に4%、もしくはそれ以下の水準まで落ちる可能性は十分あるのだ。場合によっては、中国経済の突然死、数十年にわたる長期停滞が起きても何ら不思議ではないということである。

実は米国もかつて20年間にわたってピークの需要を超えられないという長期の経済停滞に陥ったことがあった。1929年に540万台でピークを迎えた自動車販売台数が大恐慌を経て、その水準を超えたのは第2次世界大戦後の1949年のことだった。

むろん、消費主導型経済の米国とは単純に比較できないし、中国政府は恐らく様々な施策で市場をマニピュレート(操作)し続けようと試みるだろう。最後の頼みの綱は恐らく資産価格上昇に働きかけることだろうが、企業収益が悪化する中で、株価や不動産をいくら押し上げようとしても、限界がある。市場経済の「いいとこ取り」をしてきた中国が、市場のリベンジ(報復)を受けるのは時間の問題だと考えている。

<消費主導への脱皮は絶望的に困難>

筆者は、中国の消費主導型経済への脱皮の可能性についても悲観している。投資から消費への成長率の誘導は、減税や財政出動などで民間の消費力を喚起するケインズ的な政策によって可能になるが、中国ではそうした政策がうまくいきそうにない構造的事情がある。国営企業を中心とする既得権益層の存在である。

国営企業がインフラなど非常に重要な部分を占め、独占価格によって高い収益を得て、そこにぶら下がる形でいろいろな既得権益が広がっている。この仕組みを温存したままでは、民間主導の所得配分によって労働分配率を上昇させた日本型の持続的高度成長は実現できない。

また、戸籍制度など労働移動の制約もあって、労働力のミスマッチが国全体として調整できない点も大きな問題である。とはいえ、この国営企業改革と労働改革は、いずれも中国の特権階級の基盤そのものを揺さぶりかねない。

そうした中で現在、習近平政権が前面に打ち出しているのは、汚職摘発、あるいは「中国の夢」といった理想論だ。民主主義の強化や市場経済化の推進とは逆方向に求心力を動員しているように見える。これでは、経済構造改革は絶望的に難しいと考えざるを得ない。

<中国の地盤沈下は凶報ではない>

最後に、このように深刻な問題を抱える中国経済と、日本企業はどう付き合っていけば良いのか、持論を言い添えておきたい。突き詰めれば、その答えは、中国を生産拠点ではなく、最終需要地として扱うことだと思う。

経済成長のけん引役として消費が投資に取って代わるシナリオが期待薄だとしても、中国が巨大市場であることに変わりはない。市場的なメリットは依然として大きい。しかし、安い労働力の供給基地として期待を寄せる時代はすでに終わったということだ。中国進出のモティベーションは大きく変わる必要がある。

はっきり言って、容易にコモディティ化してしまいそうな商品を主力とする企業は、中国に本格進出しないほうが良い。圧倒的な技術優位性があり、それをブラックボックス化できる自信がある企業だけが中国に製造拠点を設けるべきだ。後はコンビニのような日本的なビジネスの仕組みが中国で根付くかどうかだろう。いずれにせよ、中国で成功するビジネスは今後ますます限定されていくのではないか。

ちなみに、中国経済の失速が世界経済にとって凶かと言えば、それは違うと考える。中国の地盤沈下は、同国が独り占めしてきた世界の供給拠点を他の地域に譲るということだ。その地盤沈下によって、他のアジア諸国やメキシコなどにチャンスが広がるということだ。これらの国は、中国やロシアのような権威主義型の経済ではなく、市場資本主義に非常にフレンドリーな新興国である。その興隆は、世界経済にとって吉報となるはずだ。

*武者陵司氏は、武者リサーチ代表。1973年横浜国立大学経済学部卒業後、大和証券に入社。87年まで企業調査アナリストとして、繊維・建設・不動産・自動車・電機エレクトロニクスなどを担当。その後、大和総研アメリカのチーフアナリスト、大和総研の企業調査第二部長などを経て、97年ドイツ証券入社。調査部長兼チーフストラテジスト、副会長兼チーフ・インベストメント・アドバイザーを歴任。2009年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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