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コラム:米株の先行きに要警戒、大反落は「買い場」か=竹中正治氏
2013年9月5日 / 03:12 / 4年後

コラム:米株の先行きに要警戒、大反落は「買い場」か=竹中正治氏

米国経済の中長期的な先行きについては楽観的な見通しを引き続き抱いているが、株式相場は長期的には実体経済の動向を反映しながらも、短期・中期では期待や不安先行で上にも下にも行き過ぎるのが常だ。8月までの株価上昇を受けた米国株の動向については、来年にかけてやや警戒的なスタンスで臨む方が良いと思う。

まず、米国株価指数S&P500の株価収益率(PER)は8月30日時点で18.6だ(企業利益は過去12カ月実績ベース)。戦後1945年以来のPER平均値は17.2、80年以降なら平均20.6だから、現状の水準が高過ぎるということはない。ただし、87年10月のブラックマンデーの株価急落は同PERが20前後の時に起こったことにも留意しておこう

<一株当たり利益の伸びが頭打ち>

当然のことながら株価動向を左右する最大の要因は、長期的には一株当たり利益(EPS)の変化だ。「PER=株価/EPS」なので、「EPS=株価/PER」で計算できる。

下の図はS&P500とそのEPS(上記PERと同じベース)の推移を示したものだ。リーマンショック後の暴落は2009年春に底を打ち、株価もEPSも回復基調をたどり、双方ともリーマンショック前のピークを越えている。

気になるのは12年以降、EPSの上昇が頭打ちになる一方で株価の上昇が続いてきたことだ。もちろん、ここで表示したEPSは過去の実績ベースである。先行きを考える上では予想利益ベースのPERあるいはEPSを見るべきだろう。

ところが、予想利益ベースのPERにはやっかいな弱点が潜んでいる。この点で8月16日付の米ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)の記事が興味深い事実を指摘している。まず、記事現在のS&P500のPERは過去12カ月実績ベースでは18.2であるが、次期決算予想ベースだと13.6となる。つまり、後者の予想に従うなら「株価はまだ安いので買える」という判断が可能になる。

一方、1871年にさかのぼって実績ベースPERと次期予想ベースPERを比較すると、前者の14.5に対して、後者は11.0と目立って低い。後者はアナリストのコンセンサス予想をベースにしている。アナリストの予想は後から公表される実績に対して上ぶれも下ぶれもあろうが、上下ともに同じ程度にぶれるならば、長期では予想PERは実績PERの値に収れんするはずだ。ところが、予想PERの長期平均値が実績PERより目立って低いということは、アナリストのコンセンサス予想には次期企業利益を過大評価するバイアスが強く働いていることを意味する。

<米株価変動の7割を説明する2つの公表データ>

また、短期・中期の株価動向は投資家のリスク許容度と株式市場の投資リスクの相対的な関係にも依存している。

投資家は株価変動のリスクが上昇する、あるいはリスク許容度が低下するような事態(たとえば他の市場で大きな損失が生じたような場合)に直面すると、ポートフォリオに占める株価の比率を落とす、あるいは株オプション(プット)を購入するなどでリスクを減じようとする。いわゆる「リスクオフ」の局面だ。その場合はEPSに変化がなくても株価は下落するだろう。逆に「リスクオン」の局面ではEPSに変化がなくても株価は上昇する。

こうした投資家のリスク許容度と株式市場のリスクの関係を反映すると考えられているのが、株式オプション取引の変動率(期間1カ月物オプションのインプライド・ボラティリィティ)を示すVIX指数だ。VIX指数が高騰する局面はリスクオフ、反対に低下する局面はリスクオンと判断できる。

実際、VIX指数は通常は10数%から20%台だが、08年9月のリーマンショックの後、80%台まで高騰した。09年春以降は状況が鎮静化するにつれてVIX指数も低下したが、11年のギリシャ危機、12年のイタリア・スペイン危機などの局面では反騰を繰り返し、現在は10数%の比較的落ち着いた水準にある。

そこで、2000年1月から13年8月の期間について、S&P500の対前年同月比の変化をEPSの前年比変化(階差ベース)とVIX指数の2つの変数で回帰分析し、その推計値を示したものが、前掲図の黄色線である。

回帰結果は有意(すなわち統計上偶然ではなく)、説明度を示す決定係数は0.72とかなり高い。これはS&P500の対前年同月比の変化の72%は、EPSとVIX指数の変化で説明できることを意味する。

図上で現実の株価の変化を推計値が概ねなぞっているのがわかるだろう。株価の変動という複雑な相場現象を、たった2つの公表データを変数にした単純な線形一次方程式で7割方説明できるというのは回帰分析の冥利に尽きる。

<来年にかけて米株価は良くて横ばい、反落も>

注目すべきは、8月30日時点のS&P500の引け値(1632.97)が推計値(1455.61)を12%も上回っていることだ。

もちろん、実際の市場水準と推計値の関係は確率的、かつ相対的なものだ。回帰結果を大きく変えるような構造的な変化がない限り、実際の値と推計値はかい離と収れんを繰り返す。今後現在のかい離幅12%が縮むとしても、実際の株価が下がるのか、推計値が上がるのか、それとも双方同時に起こるのかは予断できない。

ただし、推計値が上がる方向でかい離が埋まる場合は(逆に言うと現在の株価水準が結果的に正当化される場合は)、12年以降頭打ち状態のEPSが今後上昇に転じるか、あるいはVIX指数に反映されたリスクが低下するしかない。

8月30日時点のVIX指数の水準は17.0%であり、2000年以来の平均値21.5%より低めである。下げ余地はあまり大きくないと判断した方が良さそうだ。一方、EPSは米国の実体経済の改善が続く限り、ここから再び穏やかに上昇すると期待することも可能だが、12年以降横ばいであるという事実は重い。

来年の世界経済を展望すれば、中国をはじめとする新興諸国の成長鈍化あるいは失速がすぐに好転するとは予想し難く、米国企業利益の一段の改善を期待させる海外要因は乏しい。米国経済の国内要因のみでEPSの一段の上昇を期待するのはやや無理があるかもしれない。

総合的に判断して、S&P500に示される米国株価の動向は、来年にかけて現行の水準を中心に上下動を伴いながら良くて横ばい、もしかすると8月2日の高値(1709.67)から10%程度(水準で1538)あるいはそれ以上の反落もあり得るだろう。現局面の投資スタンスとしては、前掲8月16日付のWSJ記事にある次の様なコメントと筆者は同意見だ。

「(現在の)投資に関する含意としては、株価の保有比率を増やすよりは次第に減らすことに関心を集中した方が良いかもしれない。あなたが株式を多少でも売った場合、売却資金を他の株式に自動的に再投資してはいけない」

もっとも、米国の実体経済が中長期な改善トレンドにあるという見通しを変える理由はなさそうなので、大きな反落場面がもしあればおそらく「買いのチャンス」だろう。過去を振り返ると、たとえば94年3月から4月に、米連邦準備理事会(FRB)が金融引き締めへ転換し、債券価格の下落(利回りの上昇)につれて株価が下落した局面(直近高値から底値まで約9%の下落)では、底値圏で株を買っていればわずか数カ月で投資リターンとしては報われている。また、87年10月のブラックマンデーの局面(直近高値から底値まで約34%の下落)ですら、底値圏での投資は1―2年で十分な投資リターンをあげている。

大きな反落場面で追加投資をする資金的な余力があるか、そしてセンセーショナルに危機をけん伝する一部のエコノミストや悲観論が横行する世間の雰囲気に流されずに投資を決断する胆力があるか、毎度の問題が繰り返されることになるだろう。

*竹中正治氏は龍谷大学経済学部教授。1979年東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行、為 替資金部次長、調査部次長、ワシントンDC駐在員事務所長、国際通貨研究所チーフエコノミストを経て、2009年4月より現職、経済学博士(京都大学)。 新著に「稼ぐ経済学 黄金の波に乗る知の技法」(光文社)。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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