November 11, 2013 / 8:13 AM / 6 years ago

コラム:バーナンキ議長に花道か、1月QE縮小の条件=上野泰也氏

8日に発表された米10月の雇用統計は、非農業部門雇用者数が20万4000人増と市場予想を大きく上回った。また、8月、9月の過去2カ月分も計6万人分の上方修正となった。

政府機関閉鎖で一時帰休扱いとなっていた連邦政府職員については、その間の給与がさかのぼって支給される。このため、給与支給の有無が分類基準になる事業所調査では雇用者としてカウントされた。

この日の米国市場は、雇用統計の強い内容を材料に株高・債券安・ドル高に動いた。ニューヨークダウ工業株30種平均の終値は1万5761.78となり、史上最高値を更新した。筆者が以前から予想している1万6000ドルへと近づきつつある。

今回の雇用統計のポイントは、以下の通りである。

●雇用統計は後日の修正が多いため断定的な判断を下すわけにはいかないものの、現時点で入手できる数字をもとにすれば、10月の政府機関一部閉鎖が民間部門の雇用動向に及ぼした影響は、ごく限られたものにとどまった。民間部門の雇用者数の増加は過去3カ月のうち2カ月で20万人を超えている(8月が20万7000人、10月が21万2000人)。これは米連邦公開市場委員会(FOMC)内の量的緩和(QE)早期縮小開始派にとって、強い追い風である。

●財政状況が安定してきたことを背景に、政府部門の雇用者数があまり減らなくなっている。州政府による雇用は教育関連を含め、足元で増加している。

●民間部門を業種別に見ると、小売業、娯楽・接客業といった消費関連の雇用の堅調さが目立つ。これは、住宅バブル崩壊後のバランスシート調整を米国の家計が終えたため、個人消費がしっかりしてきたことを間接的に示す動きである。

●非農業部門雇用者数の後方6カ月移動平均を見ると、8月の16万9000人増をボトムに、9月が17万3000人増、10月が17万4000人増と、緩やかに加速している。また、昨年末の水準を今年10月分と比較してみると、非農業部門雇用者数は186万3000人増。月平均の18万6300人増は、2011年や12年の年間の数字に比べると、ペースとしてはやや加速している。

上記の諸点に鑑みると、今回の雇用統計の結果は明らかに、9月のFOMCで「一時停止(pause)」ボタンが押されて動きが止められているQE縮小の早期開始を後押しするエビデンスである。

だが、今回の雇用統計を受けて早期縮小開始に向けて前進したのは「一歩だけ」だろう。12月17―18日開催の次回FOMCで縮小が開始されるためには、1)来年1―2月における財政混乱の再燃リスクが大方消滅する、2)雇用統計が顕著な改善を示すという、2つのハードルをクリアする必要がある。だが、前者は少なくとも現時点では、年内にクリアするのがかなり難しそうなハードルである。

また、10月分以降の米経済指標には、企業関連の統計が強い一方、クリスマス商戦が控えているにもかかわらず消費者のマインド悪化が続いている(回復力が弱い)という、見逃すことのできない特徴がある。この状況がはっきり変わってこないと、米連邦準備理事会(FRB)当局者としても足元の景気動向について十分安心することはできないだろう。したがって、年明け後の1―3月期に縮小開始はずれ込む可能性が引き続き高いと見る。

<ドル円のレンジ上抜けは困難>

では、1月28―29日に開催されるFOMCでのQE縮小開始という「バーナンキ花道シナリオ」となるのか、それとも3月18―19日の同会合で決定する「イエレン新体制シナリオ」となるのだろうか。

雇用統計が次回も強めの数字で、かつ財政面のリスクが大方払しょくされるという条件さえ整えば、前者の「バーナンキ花道シナリオ」が濃厚になる。今回の雇用統計を受けて、1月説の実現確率がかなり高まったと考えるべきだろう。

共和党に対する米国民の支持率低下、共和党の内外におけるティーパーティー(茶会)への風当たりの強まりに鑑みると、95年・96年に政府機関が閉鎖されたケースと同様、来年1―3月期中のいずれかのタイミングで、民主・共和両党間で財政の問題は事実上棚上げされて11月の中間選挙をゴールとする選挙戦モードに移行。再度の政府機関閉鎖や米国債デフォルトリスクの浮上は回避されるだろうと、筆者は予想している。

そして、まだ見えてきていないのは、そうした結末の予想がコンセンサスになるのがいつなのかということである。

いずれにせよ、QE縮小・停止問題では、その開始が3月あるいは4月以降だろうと決め付けて油断するのは避けるべきだ。

9月のFOMCで縮小開始が急きょ見送られたことで、QEがこのまま長期間にわたり続くのではないかといった過剰な期待(あるいは一種の慢心)が、市場の一部に芽生えてしまった感がある。そしてそれは、イエレンFRB副議長を含む多くのFOMC参加者にとって、決して看過できないことではないだろうか。

なぜなら、中央銀行のバランスシートが毎月850億ドルというハイペースで拡大を続けているのは、あくまでも危機対応で発動された強力な緩和措置の帰結であって、経済状況が相応に回復して雇用の伸びが巡航速度になれば、当然縮小・停止されるべき性質のものだからである。

そして、バランスシートの急膨張に直面して、中央銀行パーソンとしての半ば本能的な警戒感や恐怖感が、多くのFOMC参加者の間で共有されているのではないかとも推測される。QEの予想されるコストに注意を払う必要があると、ハト派とみられているボストン連銀のローゼングレン総裁が11月5日に発言したことにも、そうした警戒感がにじみ出ているように思われる。

米国債デフォルト懸念の払しょくによるショートカバーをきっかけに一時2.46%まで低下した米10年債利回りは、年明けにかけて2%台後半で当面の落ち着きどころを探る展開を続けると予想される。そしてその後は、FRBによる金融政策の正常化ステップをにらみながら、米国のファンダメンタルズと整合的な水準である3%台前半へと、段階的に水準を切り上げるだろう。超長期ゾーンについても同様の展開が予想される。

その一方、FRBは2月1日にイエレン体制が発足した後、金融引き締めそのものである利上げについては、量の縮小・停止とは明確に切り離して、失業率の数値基準を引き下げるなど「フォワードガイダンス」を強化することを通じ、ドル金利先高観の抑制を図ろうとするだろう。このため中短期ゾーンの米国債利回りは上昇しにくい展開が見込まれる。

このような中短期ゾーンの米国債利回りの動きは、ドル円相場がこのところの98円プラスマイナス数円のボックス圏を上抜ける動きを阻害する方向に作用するだろう。米10月の雇用統計が発表された後にドル円は99円台に乗せたが、この材料だけではボックス圏を上抜けていくのは困難だと筆者は見ている。

*上野泰也氏は、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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