November 15, 2013 / 7:58 AM / 6 years ago

コラム:来年こそヘリコプター・マネーの出番か=カレツキー氏

アナトール・カレツキー

11月14日、欧米の成長率が来年も低迷すれば、リーマン・ショック以来の金融・財政政策の実験は失敗だったと判断せざるを得ず、ゼロ金利や量的緩和よりもずっと画期的な考え方へと道を開く可能性がある。カザフスタンのジェスカズガンで10日撮影(2013年 ロイター/Shamil Zhumatov)

世界中の中央銀行が実質ゼロ金利を継続する可能性を疑い続けていた人々も、今週は疑念が吹き飛んだはずだ。次期米連邦準備理事会(FRB)議長に指名されたイエレン副議長が上院証言で、FRBには雇用刺激のために「なお成すべきことがある」と述べ、「現在の景気回復を支えることが、金融政策をより正常な姿勢に戻すための最も確かな道筋だ」と表明したことは、一連の中央銀行幹部が今週発した驚くほど明確な緩和へのコミットメントを締めくくるものとなった。

アスムセン欧州中央銀行(ECB)専務理事と、ECB理事会メンバーのノボトニー・オーストリア中銀総裁はともに、先週ECBが実施した予想外の利下げに反対したと伝えられていたが、実際には利下げ、それどころかマイナス金利や、タブーとされる米国型の国債買い入れさえ支持するような姿勢を見せた。

そしてカーニー・イングランド銀行(英中央銀行)総裁は、英国の早期利上げは論外との姿勢を従来以上に強調した。英国経済の見通しが、BOEの従来予想に比べて大幅に改善したにもかかわらず。

しかし過去4年も繰り返してきたのと同じく、ゼロ金利政策が1年後に失望を誘う結果をもたらすとしたらどうだろう。過去4年と同様、あらゆる緩和策にもかかわらず世界経済が息を吹き返せず、潜在成長率を下回る低い成長を続けていたとしたら。

運が良ければ、こうした疑問に答える必要は生じないだろう。これまでは緊縮財政が米国、欧州大陸、英国の景気回復に強力な向かい風を吹かせていたが、今では財政再建努力が緩められたからだ。最高値を更新する米国その他の株式市場が示すのは、金融面の刺激策が来年ようやく良好な成長をもたらすという投資家の信頼感の高まりであり、この見通しは実際、正しそうだ。

だが楽観論が裏切られたらどうなるか。米英が来年、最低でも3%の成長率を達成できなかったり、欧州大陸で1%未満の成長と深刻な失業が続いていたとしたら。

その場合、リーマン・ショック以来の金融・財政政策の実験は失敗だったと判断せざるを得ず、その判断はゼロ金利や量的緩和(QE)よりもずっと画期的な考え方へと道を開くだろう。画期的な考えには、両極端の2種類がある。

来年の今頃までに成長と失業面で大幅な改善が見られなければ、保守派の政治家やエコノミストの多くは、リーマン後の刺激策は効力が無かったばかりか、直接的な副作用をもたらしたと主張するだろう。従って、過去5年間のアプローチ全体が180度転換する。政治家と中央銀行家は失業と経済成長は「管理」できないと認めるべきだ。政府は財政再建に集中し、金利の操作を止めて市場の力に任せるべきだ──という具合に。

こうした方向転換の理論的根拠──例えば、財政引き締めが企業の信頼感が向上させ、金利引き上げが信用配分を改善させ、非効率なゾンビ企業を追放するといったもの──がどうであれ、主要国の政府が実際上、成長が失望を誘ったことに対して対策強化ではなく後退で応じる可能性はないだろう。理論的な好みがどうあれ、どの政府でも低成長と手に負えない失業率という環境で財政緊縮や利上げを断行するのは、単純に政治リスクが大き過ぎるだろう。

現行の刺激策が失敗したことへの対応としてずっと現実味が高いのは、消費者需要に直接働きかける、より大胆な新措置の実験だ。その明白な方法は、金融、財政政策を結合させ、金融市場からのトリクルダウン(浸透)効果に頼る代わりに、消費者のポケットに直接資金を突っ込む新種の統一的な刺激策になるだろう。トリクルダウン政策の下では、中銀が国債買い入れにより資産価格を押し上げるため、富裕な投資家はさらに富むという事態が起きてしまう。

このコラムが繰り返し主張してきた通り、FRBは毎月850億ドルを債券投資家に送金する代わりに、3億1500万人の米国民全員に毎月270ドルの小切手を直接送付していれば、ずっと強力な景気刺激を実現できていただろう。

この種の「ヘリコプター投下」は、金利がゼロまで下がっても失業が一向に改善しない経済への処方箋としてミルトン・フリードマン氏が提唱したもので、バーナンキ氏もFRB議長就任前に日本に対して「ヘリコプター・マネー」を強く推奨していた。

ほんの数カ月間、米国の一般家庭にただで資金をばらまいただけでも、FRBが従来型の国債買い入れを数年間続けるよりも消費支出と経済活動への刺激効果は強かったはずだ。つまりヘリコプター・マネーは従来型のQEよりもFRBのバランスシート拡大をずっと抑えながら、景気をより迅速に回復させていたはずなのだ。従ってヘリコプター・マネーは実際のところ、QEよりも慎重な形の金融政策となり、潜在的なインフレ圧力も小さかっただろう。

それならなぜ、ヘリコプター・マネーは米国でも、さらには経済規模に照らしてFRB以上に多額のマネーを刷っている英国や日本でも真剣に検討されることがないのだろうか。明白な既得権益を持つ債券投資家や、金融政策の導管役を果たして利益を上げている銀行ほかの金融市場参加者を別にすると、ヘリコプター・マネーの主な障害となっているのはイデオロギー上の崇拝対象、つまり中央銀行の独立性だ。

ヘリコプター・マネーは経済上、政府が中銀に国債を売って減税財源を手当てすることに等しい。金融、財政政策が融合されて単一の措置となるわけで、中銀と政治家との垣根が取り払われることを意味する。

大半の中央銀行家は政治からの独立性を守ることに熱心なため、財政政策と金融政策の統合をめぐる一切の議論は今なおタブーだ。しかし仮に現在の金融政策が来年までに十分な景気回復を達成できなければ、金融・財政のタブーを破れと迫る政治圧力は圧倒的な大きさとなり、中央銀行の独立性は命運を断たれる。中央銀行がいつになく経済成長に強くコミットしているのも、なるほど無理はない。

[14日 ロイター]

*アナトール・カレツキー氏は受賞歴のあるジャーナリスト兼金融エコノミスト。1976年から英エコノミスト誌、英フィナンシャル・タイムズ紙、英タイムズ紙などで執筆した後、ロイターに所属した。2008年の世界金融危機を経たグローバルな資本主義の変革に関する近著「資本主義4.0」は、BBCの「サミュエル・ジョンソン賞」候補となり、中国語、韓国語、ドイツ語、ポルトガル語に翻訳された。世界の投資機関800社に投資分析を提供する香港のグループ、GaveKal Dragonomicsのチーフエコノミストも務める。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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