December 2, 2013 / 5:33 AM / 7 years ago

コラム:アベノミクスは約束不履行の恐れ=カレツキー氏

アナトール・カレツキー

11月29日、1、2年後の世界経済で起こり得る失敗を予想してみる価値はあるだろう。標準的な反応は米国で新種の金融バブルが崩壊しかねない、といったものだ。しかし、それとは異なる、もっと現実的な脅威が日本で頭をもたげつつある。写真は安倍首相。都内で2月撮影(2013年 ロイター/Issei Kato)

[29日 ロイター] - 景気に対する楽観論が広がり、株価が毎日のように高値を更新し続ける現在、1、2年後の世界経済で起こり得る失敗を予想してみる価値はあるだろう。

イラン戦争やユーロ崩壊が議題から消え去った今となっては、標準的な反応は米国で新種の金融バブルが崩壊しかねない、といったものだ。しかし、それとは全く異なる、もっと現実的な脅威が世界の別の場所、日本で頭をもたげつつある。

世界第3位の経済大国である日本の国内総生産(GDP)は、フランス、イタリア、スペイン、ポルトガル、ギリシャを合わせた規模に等しい。日本は今年、極めて異例なことに金融的な繁栄と経済成長におけるリーダーとなった。最新の国際通貨基金(IMF)予想によると、日本の2013年の成長率は2%程度と、先進7カ国(G7)中で最も高く、2位のカナダと米国の1.6%を優に上回る。

日本の株価は昨年12月から70%も上昇して米国の25%を大きく引き離し、コンセンサス・エコノミクスによると日本企業の利益は17%増と、ドイツ、米国の3─4%というわずかな増加率とは対照的だ。

安倍晋三首相の選出が経済に喚起した楽観論に心酔した者の一人として、私は現実的な検証の時が訪れたことを危惧する。7月の参院選後に日本を突如として麻痺させたかに見える、慢心による怠慢を観察していると、有名な格言(通常、ケインズ氏の言葉とされる)を思い出す価値がありそうだ。「事実が変われば、私も心変わりする」

私の悲観はアベノミクスの「三本の矢」、すなわち財政刺激、金融緩和、構造改革(成長戦略)に直接起因する。このうち金融緩和の矢はかつてない急スピードで飛んでいる。しかし財政の矢はブーメランと化して景気回復の息の根を止めてしまいそうだ。4月には消費税率が5%から8%に引き上げられるとともに財政支出も一部削減され、IMFによると構造的財政赤字をGDPの2.5%相当圧縮する影響をもたらす。

この大規模な財政引き締めは、今年の米国や2012年のイタリア、11年の英国の財政引き締めに等しく、緒に就いたばかりの日本の景気回復を台無しにするリスクが非常に大きい。安倍政権は他の税金の税率引き下げや公共投資の拡大によって、消費税増税のデフレ的影響の一部を相殺するという曖昧な約束を行っているが、詳細を示していないことには留意を要する。4月に消費税増税が経済を襲うことを考えれば、効果的な相殺措置を提案するために残された時間は短い。

実際、財務省は来年の財政を大きく緩めることに反対のようだ。日本の官僚機構は景気回復を後押しするために「できることは何でもやる」構えとは程遠く、私の予想通り、4月の増税による景気への影響を見極めてから、それを補う措置を提案するという順序を好んでいるように見える。問題は、消費の急減が明らかになるころには、次の景気後退を防ぐのが手遅れになっている恐れが十分あることだ。

金融市場は現在、来年の財政引き締めの危険性を気にかけていない。日銀が景気への影響を相殺すべく、一段と金融緩和を進めると予想しているためだ。日銀は、バランスシートの拡大ペースを今年発表済みの倍増からさらに速め始める可能性が高いが、それがどれほどの役に立つだろう。米国、英国、欧州大陸の最近の経験がいずれも教えるのは、金利がゼロに近く、これ以上引き下げられない状態において、金融緩和の力は財政に比べて弱いということだ。こうした環境下では、金融政策は資産価格を押し上げ資産効果を生み出すことを通じた間接的な働きしかしない。しかも日本で量的緩和によって債券価格を押し上げる余地は、これまでの米英以上に限られている。

最後に、アベノミクスの第三の矢である成長戦略は、矢というより藁に近いことが明らかになりつつある。7月の参院選後に待望された構造改革計画の大半は静かに忘れ去られた。労働市場と賃金の自由化、税制改正、原子力の回復、企業統治改革、サービス産業の規制緩和、年金基金運用の再配分などは、いずれも破棄されたか、先延ばしを繰り返している。確かに、環太平洋連携協定(TPP)に参加したことで一部の通商改革は活発に検討されている。しかしそれらの改革は主に農業絡みで経済活動を大幅に刺激する可能性は小さく、特に1、2年の時間軸では望み薄だ。

来年の消費税増税の影響を相殺する上で最も期待されるのは大幅な賃上げであり、トヨタ自動車など一部の主要企業はその意向を示している。しかしながら、最大手級で最も高収益の企業以外にそうした寛容さが広がる兆しはほとんど見られない。日本経済新聞が11月最終週に公表した調査によると、内部留保を給与の引き上げに充てると答えた企業は7%にとどまった。日経新聞によると、内部留保が6900億ドルと過去最高水準に積み上がっているにもかかわらず、大半の企業は「賃上げに慎重な姿勢を維持」している。大半の予想では、来年の春闘での平均賃上げ率は1%前後と、インフレ率にはなんとか追いつくが、消費税増税の影響を相殺するには不十分な水準にとどまりそうだ。

もちろん、日本経済を取り巻くこれらすべてのリスクを金融緩和が圧倒する可能性はある。金融市場が現在示唆しているのはそうした姿であり、市場のメッセージを無視することは禁物だ。しかし、金融市場の予知能力を信じたいなら、日本に対して強気に傾き過ぎるより、ウォール街やロンドン、香港、フランクフルトで拡大する楽観論に留意する方が安全なように見える。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*アナトール・カレツキー氏は受賞歴のあるジャーナリスト兼金融エコノミスト。1976年から英エコノミスト誌、英フィナンシャル・タイムズ紙、英タイムズ紙などで執筆した後、ロイターに所属した。2008年の世界金融危機を経たグローバルな資本主義の変革に関する近著「資本主義4.0」は、BBCの「サミュエル・ジョンソン賞」候補となり、中国語、韓国語、ドイツ語、ポルトガル語に翻訳された。世界の投資機関800社に投資分析を提供する香港のグループ、GaveKal Dragonomicsのチーフエコノミストも務める。

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