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コラム:悲観バイアスでは見えない消費増税後のシナリオ=熊野英生氏
2014年4月2日 / 03:57 / 4年後

コラム:悲観バイアスでは見えない消費増税後のシナリオ=熊野英生氏

「強い日本を取り戻す」などと言えば、安倍晋三首相のフレーズを拝借したように思われるかもしれない。

確かに景気・相場見通しでは、これまで潜在的な悲観論が相当に強すぎた。5%から8%への今回の消費税増税の前後でも、アベノミクスが悲観論を後退させたとはいえ、まだまだ人々の心理に潜んでいる悲観バイアスに働きかけるようなオピニオンが健在だったように思える。

そうした見解に流されないためには、安倍首相とは違った論旨で「強い日本を取り戻す」という姿勢が必要になろう。

消費税増税の影響でも、バイアスが強かったと感じられるのは、ニュース映像である。駆け込み需要がそこかしこに起こっていて、日用品や食料品を山ほど買い込む姿が映し出された。冷静に見れば、駆け込み買いが積み上がるほどに、その反動減は大きくなる。駆け込み買いが増えるほどに、先行きの景気についての警戒感が強まる。

しかし果たして、多くの消費者が同じように行動したのだろうか。標準的な消費者はあまり極端な行動をとっていなかったのではないか。

何よりも、例えば10万円を使って、前倒しで消費を増やしても、税金分が軽減されるのは3000円である。10万円を使って、無駄なものを買ってしまうリスクを感じて駆け込み買いをしないのが標準的な消費者心理だろう。

マクロ経済を見る上での消費税の影響も、4月1日時点のデータでは割と冷静な数字が目に付く。

第一に、製造業の生産水準は1月にピークを迎えて、なだらかに減少している。経済産業省「鉱工業生産」の4月の生産予測指数は、3月比マイナス0.6%と小幅の減少に止まる見通しだ。駆け込み需要による生産の急上昇がなかった分、反動減も小さく抑えられそうだ。

第二に、国内新車販売台数も1月がピークで、駆け込みが2月、3月のプラス幅をどんどん大きくする展開にはなっていない(1月30.6%、2月18.8%、3月16.7%)。2月と3月は、新車の納車待ち・登録待ちが販売を抑えたと考えられるが、それを割り引いても盛り上がりは小さい。よって、反動減も限定的になりそうだ。

第三に、3月日銀短観の業況判断指数(DI)は大企業製造業の改善幅が1ポイントと、駆け込み需要だけで景況感が押し上げられる図式にはなっていなかった。先行きについては反動減に強い警戒感を抱いているものの、足元の改善は需給バランスの引き締まりを背景にした、地に足のついたものである。

<経済・財政の両にらみで体質改善へ>

仮に今後、消費税増税が日本経済に与える悪影響が思ったよりも小さいという評価に傾けば、日本経済の見通しも上方修正される。すると、消費税の税収増によって社会保障財源を確保できる一方、自然増収によって財政赤字は決算ベースで大きく縮小するという期待につながる。2015年度の基礎的財政収支が、対名目国内総生産(GDP)で赤字幅半減となる公算はぐんと高まる。

おそらくアベノミクスが目指していたのは、そうしたシナリオだろう。経済成長率を高めると同時に、その好影響が財政再建にも寄与して、経済・財政の両にらみで体質改善が進む。13年度は「2本目の矢」を打つようなかたちで財政に負担増を強いてきたが、14年度以降はもっと堅実な財政運営に変わっていくと期待される。

<次の消費増税判断に吹く追い風>

今後の政策の焦点は、8%から10%への次の消費税増税の判断である。14年7―9月の前期比での成長率が2%を超えてプラス幅を大きくするかどうかがポイントになる。安倍首相は、この夏のGDPを見極めて、11―12月に15年10月の消費税増税を最終判断するとみられる。

現在の見通しでは、楽観的な材料もある。消費税の反動減のカウンターパワーとして、夏の民間ボーナスの支給が大きな後押しになると期待できる点だ。

3月からの春闘交渉では、ベースアップもさることながら、一時金の増加も大きかった。さらに13年度の企業収益が大幅な増益になると、個人投資家にとっては配当金額を押し上げることにつながる。6―7月に消費税増税後の反動がリバウンドする局面では、勤労者・高齢者ともボーナス・配当の押し上げがプラスに効いてくると予想される。

15年10月の次の消費税増税を判断する障害がなくなることは、日本の財政リスクを改善させる。危険水域にあった財政リスクが、普通に戻れば、日本向け証券投資のリスク評価を改善させ、株式・債券市場への海外マネー流入を促すだろう。

<追加緩和なしでもいけるか>

日本経済が本当に力強さを取り戻すのだとすれば、追加緩和も大型財政出動もなしで、1%前後の潜在成長率程度の成長ペースに移行することになろう。だとすれば、今度は、成長率を高めるために、潜在成長率を上向かせるような政策に軸足を移していくことが望ましい。設備投資促進、労働の質的向上、イノベーションの創出などである。

一方、マーケットでは、日銀の追加緩和が4―6月のどこかであるのではないかという強い先入観がある。黒田東彦日銀総裁の「2年で2%の物価上昇率」という公約はこのままでは達成できないので、追加緩和を行い円安・株高を促して側面支援に動くだろうという観測である。

冷静になって考えると、この追加緩和観測も悲観バイアスと親密な関係にあった。どうせ景気情勢がいずれ不安定になるから、追加緩和の必要に迫られるという考え方である。

しかし、景気情勢が良好なまま、黒田総裁の景気・物価シナリオがこのままで推移すれば、どうしても追加緩和が必要になるとの論拠はあいまいになる。結局、追加緩和がなくても済むシナリオである。

金融政策はすでに巨大な緩和策を展開していて、後戻りができないところまできている。景気情勢が割と良好ならば、追加緩和が行われないとしても、景気や株価動向はそれほど悪い状況にはならない。これ以上に追加緩和で人為的に株価や為替をつり上げるよりは、実体経済に応じた状況に任せておく方がよい。「強い経済を取り戻す」とは、民間企業が過度に政府に依存しない関係を築くことだろう。

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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