April 4, 2014 / 3:22 AM / 4 years ago

焦点:迷走する農業改革、特区指定も農協保護など「岩盤」

[東京 4日 ロイター] -安倍晋三政権の成長戦略のシンボルである「農業改革」が迷走している。特区法も成立し、強い農業を目指して大規模化や企業参入を推進しようとしているが、他の規制改革と同様に厚い規制の「岩盤」にぶち当たっている。

中でも農協と小規模農家を保護する圧力は、簡単には突破できそうもない。改革が一筋縄では進まない現実がそこにある。

<コメどころ新潟市、特区で芋ジェラートを>

国家戦略特区に指定されたコメどころ、新潟市。今回、特区法を活用して強化するのは、ブランド力を持つコメではない。

より大規模化を図るため農地集積に関する要件緩和の要望が特区法で認められなかったからだ。そこで「6次産業化として野菜の加工販売に取り組む」(新潟市産業政策課)計画が立てられている。

まず、広大な葉タバコの耕作放棄地に、食品企業の参入を促しつつ、生産から加工まで農家と共同で手がける大規模な工場を造る

そこで栽培を始めた特産品サツマイモ「芋ジェンヌ」のジェラートへの加工、洋ナシ「ルルクチェ」のジュースやスイーツへの加工を行う。

今の規制の枠組みでは、企業による農業への参入には、 農家や農協と距離の近い地元の農業委員会の許可が必要。

そこで安倍政権は戦略特区法で許可権限を市に移した。「きちんとルール化された許可の基準ができ、企業にとってはやりやすくなるはずだ」と新潟市は述べ、「具体的に動き始めている6次化事業は、これで弾みが付きそうだ」と期待を寄せる。

特区法では、農業生産法人への企業参入の要件も緩和された。企業の中に農作業に従事する役員が1人いれば、参入できるようになった。

また、農業参入のための企業向け銀行借り入れに、信用保証制度が使えるようにもなった。

その結果、食品加工企業や商社、流通などの参入をにらみ、地域金融機関が続々と農業融資に乗り出している。

関東のある大手地銀では「個別農家の経営全体を支援している農協のようにはいかないが、農業生産法人向けの6次化ファンドを立ち上げ、参入していく」と意気込みを語る。

ただ、厳しい現実も立ちはだかる。それは採算だ。「6次産業化」と銘打って農産品を加工しても、果たして消費者に受け入れてもらえるのか──。採算性の高い事業に発展させるのは容易ではないとの指摘も出ている。

実際、農業生産法人の関係者は「ジュースやスイーツは世界のブランド企業もすでに手がけている事業。味や価格で勝負は難しい。全国で6次化が拡大すれば、供給ばかり増えて価格は下がり、自分のところの商品が売れるわけではない」としている。

「むしろ重要なのは、どこの誰に買ってもらう商品を作るのかという販売戦略であり、そこから始めるべき」──。とのアドバイスは、かなりの重みを持っているように見える。

<大規模化目指す「農地バンク」、疑問の背景>

戦略特区と並んで、安倍政権が力を入れるのが、環太平洋連携協定(TPP)後をにらんだ大規模化による競争力強化だ。安倍政権は昨年の日本再興戦略で、農地大規模化を「農業改革の1丁目1番地」として位置づけた。

伊藤隆敏・政策研究大学院大学教授は「TPPを成功させるには、輸入品と戦えるように、コスト低下とブランド強化をしなければならない」とし、特にコメについては大規模化以外にないと強調する。

そのために政府は、昨年末にはいわゆる「農地バンク」設立の法律化と予算化にこぎつけた。地域内の分散し錯綜した農地利用を整理集約し、全国で埼玉県に匹敵する面積にのぼる耕作放棄地を集めて借り受け、まとまりある形で新たな担い手に貸し付けるという制度だ。

だが、早くも大きな疑問符が提起された。産業競争力会議のメンバーである新浪剛史・ローソン会長が今年2月、「既に良い農地は借りられていて、むしろ借り手のいないような農地を開発して余らせてしまうのではないか」と、将来性に懸念を表明したのだ。

「農地バンク」に対する懸念の背景には、3つの事情があるようだ。1つは見ず知らずの他人に土地の拠出することへの農家の「抵抗感」だ。

ある自治体は「自分の農地を貸すのかどうか、農家の意向次第。農地バンクができたからといって一足飛びに集約が進むかは疑問」と語る。

2つ目は、政府が2013年に廃止を決定した減反補助金の転作奨励金への衣替えだ。主食米の生産調整による減反に協力する補助金制度はなくすものの、飼料米への転作農家には新たな補助金を配る。このため「大方の地元米農家は、飼料米に転作することになりそうだ」(鹿児島県選出の代議士)とされ、土地拠出の足を引っ張るとみられている。

キャノングローバル戦略研究所・研究主幹の山下一仁氏は「小規模農家を存続させる新たな減反補助金と、大規模化を目指そうとする農地バンク設立は、全く矛盾した政策」だと指摘する。

3つ目は、土地を流動化する際、農地バンクの事務を受託する第3セクターだけでは情報が足りず、「地元農家の土地事情を把握している農業委員会や農協がかかわることになる」(鹿児島県)点だ。地元農家の意向が反映されやすくなる一方、公平な農地の分配に対する懸念も強くなっている。

農業生産法人の支援を行っている公益社団法人「日本農業法人協会」は「少なくとも土地の貸し付けについてしっかりとした監視体制が望まれる」(総務・政策課・高須敦俊氏)と要望している。

<農協は小規模農家が生命線>

農協改革も待ったなしだ。現在の枠組みでは、農産物の価格は農協が決定する。その結果、農家にはコスト意識も販売戦略も育たなくなる弊害が目立っている。そのうえ農協には有力な競争相手が見当たらず、生産性向上に向けたメカニズムが存在していないとの指摘が出ている。

伊藤教授は「農協の意識改革としてコスト低下とイノベーションを進め、輸出を目指すシステムに変えていく必要がある。そのためには、生産調整ではなく、競争を持ち込む必要がある」と提言する。

しかし、組合員数を維持していく必要のある農協にとって、小規模農家の戸数が減少しかねない今回の大規模化への流れは、経営の死活問題にもなりかねない問題をはらんでいる。

農協改革を議論すべき場では、政府・自民党関係者の及び腰も目立つ。規制改革会議で農業ワーキンググループ座長を務める金丸恭史・フューチャーアーキテクト社長の発言は、農業改革を推し進めようと意気込んでいた人たちの驚きを誘ったという。

農協改革についてとりまとめが一段落した昨年11月、「岩盤と言われるものがどこにどれぐらいあるのか。私はまだ出くわしていない」と述べた。企業の視点で競争力強化を進めたい規制改革会議との意識のずれを露呈したと多くの関係者に受け止められた。

自民党で「農協の役割に関する検討プロジェクトチーム」座長を務める森山裕衆院議員は「今回、農協改革についても、なるほどと言えるものを出さなければなるまい」と語った。

だが、「どうあるべきかを議論するよりも、まずその実態を知るべき」だとして農協の役割を力説した。農村地帯では営農指導にとどまらず、町の雑貨店から冠婚葬祭の世話まで生活に密着した存在となっている。 森山議員はその点を強調した。

<生産法人に若い担い手育たず>

政府は農業の「新たな担い手育成」も課題として、40代以下の農業従事者を現状の20万人程度から倍増させる目標を掲げる。農業生産法人の数も4倍の5万法人に増やす考えだ。しかし、ここでも政策の矛盾が指摘されている。

経営者は「農業者」として政府からの補助金を受け取れることもあり、農業生産法人の数は確かに増加しているが、2年間限定の補助金であるため、雇用の拡大につながらず、次の担い手の世代も増えない。その結果、小規模生産法人の数ばかりが増えることになる。

こうした現状では、生産性がなかなか上がらない。稲作を中心に90ヘクタールと比較的広い農地を経営するある生産法人は、従業員募集の基本給は17万円強。所得水準は低く、経営者は「若者の離農が後を立たない」と嘆く。

日本農業生産法人協会の高須氏は、担い手育成を目的としながら育成につながらない制度だと指摘。政府には経営者に限定せず、従業者も「農業者」として認定し、支援制度を適用すべきと協会として提案している。

「一粒たりとも輸入しない」としてきたコメ政策を転換してから20年余り。国内農家対策に兆円単位の国費を投入してきたが、小規模農家を主体とした日本の農業の構造は変わらなかった。

そこにTPPという「黒船」が到来。ようやく抜本的な構造改革に取り組もうとしているが、これまで「先送り」してきた課題を一朝一夕に片付けるには、あまりに間口が広く、奥行きも深い。

自民党議員からは「成長戦略として農業を取り上げたことがよかったのか」と、いまさらながらため息も聞かれる。そうこうしているうちに、農家の高齢化と農村の人口減少という現実が、押し寄せようとしている。

中川泉 編集:石田仁志 田巻一彦

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