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アングル:ベイルート爆発、復興から置き去りにされる社会的弱者

[ベイルート 4日 トムソン・ロイター財団] - シリアからの難民ワアド・ハリリさんは、今も生活の再建に追われている。1年前、レバノンのベイルート港での爆発事故によって自宅アパートは損傷を受け、夫は負傷し、子どもたちはトラウマを抱えている。

 8月4日、シリアからの難民ワアド・ハリリさんは、今も生活の再建に追われている。写真は1年前にベイルートの港湾地区で発生した大規模な爆発事故によって損壊した建物(2021年 ロイター/Mohamed Azakir)

2020年8月に起きた爆発事故から数週間、一家はさらに打撃を受けた。そのアパートからも追い出されてしまったのだ。

多数の死者が出た8月4日の爆発事故の余波のもと、多くは難民・移民の借主を標的とした一連の立ち退き要請が行われた。これに対し、大事故の処理が進む中で、社会的弱者に対する国家レベルでの保護が欠けていることを象徴しているとの批判があがっている。

「10年間暮らしたコミュニティーを失った。非常につらい思いをしているのは私だけでなく、子どもたちも、カランティナの友だちと遊びに行きたいといつも言っている」とハリリさん。「カランティナ」とは、レバノンの首都ベイルートで一家がかつて暮らしていた地区の名前だ。

200人以上の犠牲者を出し、市内の広範囲に損害を与えた爆発事故から1年、人権活動家やアナリストらは、政府が復興活動においてリーダーシップを発揮しておらず、格差は拡大し、透明性は欠如していると話している。

ベイルート・アメリカン大学のモナ・ハーブ教授(都市論・政治学)は「国家が中心的な調整役にならなければ、復興事業は場当たり的に進められてしまうのが常で、その犠牲になるのは、特に最も弱い立場にある人々だ」と話す。

現地の調査機関レバノン・サポートによれば、昨年8月19日から9月20日までの1カ月間、爆発事故の被災地域における水や食料の配布や復興といった取り組みのうち、政府関係機関の主導によるものは1%に満たなかったという。

先頭に立ってただちにがれきの撤去や支援活動に取りかかったのは、チリ取りとホウキを携えたボランティア、地元及び国際NGO、反政権側のグループ、宗派系の政党や宗教団体だった。

ハッサン・ディアブ首相率いる政権は爆発事故から数日後に辞任し、深刻な経済危機と新型コロナウイルスによるパンデミックのさなかにさらなる混乱を生んだ。

爆発事故は、長期間にわたり不適切な方法で保管されていた大量の爆発物が引火したことによるものだが、レバノン国民の多くは、国家体制に深く根ざした腐敗を象徴する出来事だと見なしている。

<「自助」頼み>

賃借人の権利などを法的に保護し、支援をあらゆる人に届けるためのしっかりした国家のプレゼンスがないせいで、社会的弱者はこれまで以上に強い排除に直面している、とハーブ教授は指摘する。

ベイルート都市研究所の研究主任でもあるハーブ教授は、「人々は自力で何とかするよう放置されており、支援を得るにも社会関係資本や人脈に頼るしかない。そうしたネットワークのない人は取り残されている」と語る。

ベイルートのマーワン・アブード知事の報道官は、今回のような爆発事故は、どのような政府にとっても困難な課題になっていただろうと述べている。

「したがって、事故対応において国家の存在感がないことを云々すべきではない。どれだけ政府が強力でも、これだけの事故への対応には不十分なのだから」と報道官は述べ、立ち退き強要の問題は誇張されているとも付け加えた。

研究・啓発団体「パブリック・ワークス・スタジオ」が作成した住宅状況調査では、爆発事故の被災地域では、事故の1カ月後から2021年4月までの間に、立ち退きの強要が114件記録されており、数百人に影響が及んだとされている。

同団体の共同ディレクターを務めるアビール・サクスーク氏によれば、立ち退き要求を受けた賃借人の多くはシリア難民や移民労働者であり、「脆弱」な法的地位ゆえに立ち退きを求められた場合の立場は特に弱いという。

ハリリさん一家は、爆発事故から2カ月後にカランティナのアパートを離れた。ハリリさんによれば、大家から立ち退きを強要され、圧迫が強まっていたからだという。

「結局のところ、私たちに何ができるだろう。私たちは難民で、ここは自分の国ではない」とハリリさんは言う。一家が新たに暮らすのは、首都の東端にある、狭く照明も暗い家だ。

ハリリさんは、大家の立ち退き要求に屈した理由の1つは、大家が当局の介入を求めるのではないかと心配したからだと言う。

レバノンで生活するシリア難民は100万人以上。その大多数には合法的な居住権がなく、当局が介入してくれば罰金や投獄といった処分を受けるリスクが生じる。

サクスーク氏によれば、爆発事故からまもなく、レバノン議会は賃貸契約を1年間にわたり名目上据え置きにする法律を可決した。だが、こうした保護措置は丁寧に執行されておらず、じきに効力を失ってしまうという。

<「透明性が皆無」>

サクスーク氏はさらに、宗教団体や政党が復興に関与したことで、事故の被災地域では、同一の街路や同一の建物で暮らしている住民の間でさえ対立が深まっているという。

カランティナ地区では、かつて1975ー1990年のレバノン内戦の際、ムスリムとキリスト教徒の間で宗派間の衝突が生じた。地区ではムスリム系住民が多数を占めており、事故への対応の大半はあるムスリム系慈善団体が担い、キリスト教徒の多い一帯は別の団体が担当した。

生まれてからずっとカランティナ地区で暮らすハムザー・エル・サイードさんによれば、がれき撤去や復興作業のレベルは主としてキリスト教徒が暮らす一帯の方がはるかに高く、反感を引き起こしたという。

「こちらは何もかもが荒れ果てているというのに、あちらはパリかと思うほど整備されている。当然ながら人々は苛立ちを感じ、対立が生じる」とサイードさんはトムソン・ロイター財団に語った。

復興に向けたアプローチが場当たり的なため、公園などの公共スペースはもちろん、さまざまな背景を持つ人々が交流する建物内の共有部分でさえ後回しにされがちだとサクスーク氏は言う。

サクスーク氏は、「一部の住戸は完全に修復されているのに、エレベーターや階段を修理しようとは誰も思いつかず、使用不能のままとなっているような建物もあった」と語る。

ベイルート知事の報道官は、事故の被災地域における最大の問題は復興のペースが遅いことだと述べ、まだ損害全体の10%にしか対処できていないとの試算を示した。

だが、爆発の原因に対する地元当局の調査が停滞していることへの世論の怒りがくすぶる中で、大きな被害が出た地域で暮らす人々は、国籍や宗派、性的指向にかかわらず、すべての住民のために公正な補償と復興への取り組みを求めるグループを形成した。

このグループ、「被災地域住民同盟」の創設メンバーであるエル・サイード氏は、住民らが団結したのは、補償・復興事業の監督を任務とする省庁間委員会から住民が排除されたことがきっかけだったと話す。

「爆発事故以来、支援の対象や種類、その根拠について、透明性が皆無だ」とエルサイード氏は言う。

「補償についてであれ、爆発の原因であれ、皆が答えを求めているというのが我々の主張だ」

(翻訳:エァクレーレン)

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