May 1, 2020 / 7:02 AM / a month ago

アングル:コロナで深まるレバノン経済危機、宗派の泥仕合再燃

[ベイルート 29日 ロイター] - 中東のレバノンを財政危機に追い込んだ同国の政治家らが、責任の所在を巡って言い争い、歴史的に続く宗派勢力間の反目をさらにかき立てる結果になっている。これは経済危機の先行きがさらに困難になることを意味するのかもしれない。

レバノンは1970-90年の内戦以来とも言える最大の危機にひんしている。通貨レバノン・ポンドは急落し、インフレのスパイラルが起き、抗議デモも再開。新型コロナウイルス感染対策防止のための外出規制で、経済危機がさらに悪化したことに怒った市民が街中で暴徒化した。

今週は南部サイダと北部トリポリで騒乱が発生。複数の銀行が放火され、デモ参加者1人が死亡した。これは、貧困と失業が増大する中でこれから何が起こるかを予兆する出来事と受け止められている。消費者物価は昨年10月以来、50%も上昇している。

政府は今週30日にも、経済救済計画を完成させようとしている。これが国際通貨基金(IMF)の関与につながることを望む向きは多い。IMFによる支援は、厳しい条件が付けられるにもかかわらず、同国が実質的な財政支援を頼れる唯一の資金源と多くから見なされているからだ。

計画は巨額の財政赤字の解決策を描くことになる。この中には、銀行部門で見込まれる830億ドル(約8兆9000億円)の資金不足問題が含まれる。レバノン経済は急速に縮小しているだけに、この額は早晩、同国経済の2倍の規模に匹敵することになる。これをどう分担するかが今後の最大の問題のひとつだ。

政府が後押しを得ている政治勢力は親イランのイスラム教シーア派組織ヒズボラ(神の党)と、ヒズボラの盟友であるキリスト教マロン派アウン大統領。一方でレバノンの宗派政治で重要とされる人物らは、これと対立関係にある。イスラム教スンニ派のハリリ前首相、ドルーズ派のジュンブラット氏、マロン派でアウン大統領のライバルであるジャージャー氏だ。

かつて同国の指導者らは反ヒズボラ、反シリアで連携していたが、ハリリ、ジュンブラット、ジャージャーの3氏は、ディアブ首相に対し日増しに批判を強めている。ディアブ氏は政治的な知名度の低い学者だったが、ヒズボラなどの支持を受けて就任した。

以前の政治的亀裂が再燃したのはサラメ中銀総裁を巡る対立がきっかけだった。1993年から同国の銀行システムを守り、外為市場への固定相場制導入の功労者だ。しかし固定相場制は、反汚職・反政府の大規模デモが始まった昨年10月ごろから事実上、崩壊している。

首相は総裁に対し、通貨危機と中銀の透明性欠如の責任を追及。ヒズボラも幹部が、通貨急落は総裁のせいでもあると批判している。

<反目の構図>

武装組織であり、米政府からテロ組織と名指しされるヒズボラは、中銀総裁に対し腹に一物ある。米政府はヒズボラやその支持者らの送金網を遮断したが、こうした制裁を米国に申し出た人物だからだ。

4月29日、中東のレバノンを財政危機に追い込んだ同国の政治家らが、責任の所在を巡って言い争い、歴史的に続く宗派勢力間の反目をさらにかき立てる結果になっている。写真は、レバノンのサイダで、経済危機に抗議する人々(2020年 ロイター/Ali Hashisho)

総裁は、政府の一連の改革失敗に非があると反論し、中銀の独立性を守る姿勢を明確にしている。

ハリリ前首相は、以前から中東湾岸諸国や西側諸国と融和的で、総裁を擁護。ディアブ首相に対し、同国の自由市場経済の破壊を試み、政府の汚職に目をつぶっていると非難を向ける。

ジュンブラット氏からすると、首相はヒズボラや大統領の言いなりで影が薄い人物。総裁もミスをしたものの、国営電力会社への予算で500億-600億ドルを浪費した責任は総裁にはないとの立場だ。ジュンブラット氏によれば、国営電力会社の問題は、大統領が興した政党が何年も牛耳ってきたエネルギー省の責任だ。

同国の政治指導者は皆、財政危機をもたらした汚職への関与が批判されているが、だれもが責任逃れに躍起になっている。

カーネギー中東センター(ベイルート)の特別研究員、モハナド・ハゲ・アリ氏は「こうした足の引っ張り合いは経済的苦境を一層悪化させるだけだ。もし同国の通貨相場の緊張が極限まで高まれば、国としての機能がどう維持されるのか分からない」と語る。レバノン・ポンド相場は昨年10月以降、価値が半減している。

今月リークされた政府の改革草案は問題の大きさを物語る。例えば銀行部門で830億ドル、中銀で400億ドルの資金不足問題だ。改革草案はハリリ氏やジュンブラット氏などから攻撃された。草案がとりわけ、銀行の大口預金者に「格段の貢献」を求めていたからだ。銀行界の団体も、政府は銀行に手を突っ込むなと主張し、預金が政府に貸し付けられれば無駄遣いされるだけだと批判した。

<新型コロナでさらに複雑に>

イッサム・フェアーズ公共政策・国際問題研究所(ベイルート)の上級特別研究員、カリリ・ゲバラ氏は「不足金を公平に分担するのでなければ、国際的な支持を得られるような解決策がまとまる可能性は低い」と指摘。宗派勢力の対立が激しい国で、解決方法を見いだすのは極めて困難だと述べた。

過去にレバノンを援助してきた外国政府は、同国が今回の支援を得る前に改革プランを策定することが必要だと主張する。

米国のデービッド・シェンカー国務次官補(中東問題担当)はサウジアラビア資本のテレビ放送アルアラビーヤで29日、「レバノンが国際金融機関の支援を受けるには、改革を100%確約する困難な選択と決意を示す用意があると証明しなければならない」と述べた。

レバノン中銀の元幹部によると、同国には向こう3-5年で250億-300億ドルのIMF支援が必要。レバノンは自分たちにIMFが必要なことを認め、できるだけ早期に交渉を始めることが必要だという。

4月29日、中東のレバノンを財政危機に追い込んだ同国の政治家らが、責任の所在を巡って言い争い、歴史的に続く宗派勢力間の反目をさらにかき立てる結果になっている。写真はレバノンのサイダで、抗議活動で破壊された銀行の窓(2020年 ロイター/Ali Hashisho)

ゴールドマン・サックスのシニアエコノミスト、ファルーク・ソーサ氏は改革計画について、「技術的には非常によくできていて徹底した内容だが、政治的に無防備だ」と分析。何を容認できるかを巡って官僚と政治家らにはかなり開きがあるとし、「普段の政治環境下でさえ極めて困難なのに、新型コロナ危機下とあっては、レバノンの経済情勢の複雑さは増すばかりだ」と嘆いた。

(この記事の原文は4月29日に配信されました。レバノン政府は30日までに経済改革プログラムを取りまとめました)

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