September 12, 2018 / 6:09 AM / 10 days ago

コラム:リーマン・ショック10周年、次なる危機の姿は

[ロンドン 11日 ロイター] - リーマン・ブラザーズ破綻から10年の節目を迎えた今、当時に思いをはせる金融市場参加者の間では、あれほどの惨事は二度と起きないだろうという意見がコンセンサスだ。その根拠と言えば概して、当局がそれを許さないということに尽きる。

9月11日、リーマン・ブラザーズ破綻から10年の節目を迎えた今、当時に思いをはせる金融市場参加者の間では、あれほどの惨事は二度と起きないだろうという意見がコンセンサスだ。ニューヨーク証券取引所で撮影(2018年 ロイター/Lucas Jackson)

なるほどリーマン破綻をきっかけにした金融システム崩壊と経済の壊滅は、何十年に一度あるかどうかというゆゆしき事態だったので、欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁のかつての発言を拝借すれば、再発を確実に防ぐために、当局は「できることは何でもやる」だろう。痛みを伴った教訓はしっかりと刻み込まれている。

ただし10年前の規模の金融危機の再発があり得ないという考え方は論理の飛躍であり、かなり認識が甘い。実際、当時の危機につながった根っこの多くの部分は今なお健在だ。

ある程度の確実性をもってわれわれが言えるのは、次のクラッシュは恐らく、金融システムの中の従来と違う箇所で生まれ、広がっていくということでしかない。おなじみの警戒信号は灯るかもしれないが、ある危機のきっかけは、別の危機の引き金にはならないのではないか。

金融システムの崩壊は通常、以下に示すうちの1つ、ないしは複数の要因がもたらす。つまり(1)家計もしくは企業部門の高水準の債務とレバレッジ(2)リスクテーク拡大の動き(3)低ボラティリティーが助長した投資家の過剰な自己満足や貪欲さおよび熱狂(4)金利上昇(5)企業利益下振れ──だ。

それぞれ程度の差こそあれ、これらは現在顕現化している。債務水準は金融危機前よりも高く、マッキンゼーによると昨年の世界の債務総額は169兆ドル、2007年は97兆ドルだった。

銀行のレバレッジは下がっているものの、10年にわたる実質ゼロ金利と超低水準のボラティリティーが金融システム全体に投機とリスクテークをまん延させた。アルゼンチンが鳴り物入りで100年債の発行を開始したのはわずか1年前だった点を思い出してほしい。

世界の経済、市場、金融・財政政策はリーマン破綻に象徴される金融危機以降に急速に変化した。金利は極めて低くなり、中央銀行のバランスシートが肥大化、公的債務も大きく膨らんだことで、相対的に言えば危機に対して政策担当者が使える手段は少なくなりつつあるだろう。

中銀は金融市場において恒常的な存在となっており、もはや金利水準やバランスシートの規模を金融危機前の「正常」水準に戻す公算は非常に乏しい。

日本の経験、すなわち過去20年間で量的緩和(QE)とゼロ金利を含む異例の政策措置を打ち出しながらも経済成長が精彩を欠いたままだということこそ、先進国全般のこれからを予測する有益な手掛かりになる。

<既知の未知>

新たな市場リスクも出てきている。例えばアルゴリズム取引の急速な発達や、パッシブ運用型の上場投資信託(ETF)主導の投資規模が数兆ドルに拡大していること、仮想通貨の登場、AI(人工知能)とビッグデータの普及などだ。

それに加え、政治と社会構造はどんどん脆弱になっている。ポピュリズム(大衆迎合主義)や極右、強権的な政治家が台頭する一方、グローバリズムは風前のともしびと化し、政府や公的機関に対する一般の信頼は低下し続けている。

こうした構図は、有害な組み合わせとなりかねない。

米連邦準備理事会(FRB)が先導する形で世界的に借り入れコストは上昇しつつある。ペースは緩やかだが、過去最低水準を起点としている点は、今までにない意味合いを持っている。米金利上昇は、たとえどんなにゆっくりと進行しても、資産市場にとって良い面はほとんどない。

社債市場はとりわけ中国において、借り入れコスト上昇とドル高の悪影響を受けやすい。また新興国市場は、特に経常赤字の穴埋めを海外資金に依存している場合、同様の影響を受けやすい。トルコやアルゼンチンを見れば分かる。

ブラジル、インドネシア、南アフリカといった新興国に対する圧力も強まっているが、現段階では動揺の広がりは限定的。先進国市場は、理由は判然としないがおおむね落ち着きを保っている。

それはもしかすると、08年以降に中銀が市場に次々に流し込んだ多額の流動性によって経済成長と企業の収益力、資産価格が押し上げられているからかもしれない。しかしこの流れは緩やかに逆転しつつある。

金融市場には相当な自己満足感が漂う。ボラティリティーが過去にほとんど例がないほど下がっているのだ。そうした中、多くのリスクや危機の火種が何度も警告されてきた。それらはどれも、ラムズフェルド元米国防長官の定義に従えば「既知の未知」だ。

既知の未知には、中国における社債市場の崩壊や米金利上昇とドル高をきっかけとした新興国資産の暴落、米企業利益の落ち込み、ユーロ解体、世界的な貿易戦争、原油価格急落、インフレ高騰などが含まれる。

もちろん、危機のきっかけとなりそうな材料を予測できるからといって、その対応策を練り上げられるとは限らない。イタリアが将来の未知の時点にユーロを離脱するかもしれないという可能性に対し、どうすれば十分に備えられるというのだろう。

その是非はさておき、投資家は単純に最善の事態を期待している。2012年にはギリシャのユーロ圏離脱とユーロ解体を避けられたのだから、次も大丈夫なはずだ。ホワイトハウスではだれも全面的な貿易戦争など望んでいないはずだと。

そうかもしれないが、そうでないかもしれない。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにロイターのコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below