January 19, 2018 / 11:19 PM / 9 months ago

コラム:バノン氏ら「扇動者」の凋落が意味するもの

[12日 ロイター] - 右派に属する2人の人物が今月、相次いで退場を余儀なくされた。自身が情報源となった米国人のスティーブ・バノン氏と、コラムニストだった英国人のトビー・ヤング氏だ。彼らの自己正当化と弁明の試みから、疑問が浮かび上がってくる。

 1月12日、右派に属する2人の人物が今月、相次いで退場を余儀なくされた。自身が情報源となった米国人のスティーブ・バノン氏(写真)と、コラムニストだった英国人のトビー・ヤング氏だ。写真はアラバマ州で2017年12月、トランプ政権の元首席戦略官・上級顧問だったバノン氏(2018年 ロイター/Jonathan Bachman)

ジャーナリズムの世界は、冷厳な事実や判断と、ますます縁遠くなっているのだろうか。その大半が、エンタテインメントや政治的不寛容に完全にのみ込まれつつあるのだろうか──。

栄華からの転落という印象が強いのは、バノン氏の方だ。極右ジャーナリストで、トランプ大統領の就任当初には首席戦略官・上級顧問を務め、一時は国家安全保障会議メンバ―でもあった。

だが、バノン氏は、以前は自由に出入りできた大統領執務室から少しずつ疎遠となり、リベラル系「アメリカン・プロスペクト」誌のインタビューのなかで、北朝鮮問題を巡りトランプ大統領と対立していると報じられた後、8月に辞任が認められた。

そして、同氏を完全に「終わった人たち」の深淵へ突き落したのはもう1つのインタビューだ。トランプ政権についての暴露本「炎と怒り」の著者マイケル・ウォルフ氏の取材に応じたのだ。この本は、その重大な影響により、今年を代表する本となることが有力視されている。

バノン氏は、トランプ氏の実娘であり政権の顧問として重要な役割を演じているイバンカ・トランプ氏を「レンガのような愚か者」と評し、大統領の息子ドナルド・トランプ・ジュニア氏を含むトランプ陣営幹部とロシア人ロビイストとの会合が「反逆的」であったと述べた。

かつてはバノン氏の友人であり雇用主でもあったトランプ大統領は、ホワイトハウスを離れた元首席戦略官を「正気を失った」と反撃し、究極の侮辱として「彼とはもう話さない」と言い添えた。

大統領の信用を失った後も、バノン氏の凋落は続いた。16日には右派ニュースサイト「ブライトバート・ニュース」の主要な出資者レベッカ・マーサー氏の信頼を失い、同サイトの会長の座を追われた。

四面楚歌の身となったバノン氏は、『炎と怒り』に引用された自分の発言の真偽について直接には争っていないものの、自身の声明のなかでトランプ・ジュニア氏を「優れた人物で愛国者」と呼び、同氏に関する報道は「不正確」だと述べた(同書の内容の大半に真実味があるとしても、ウォルフ氏は叙述の正確さという点での実績はない)。

バノン氏は、トランプ大統領に対する自身の支持は「揺るがない」と述べている。自分のコメントの真意を明らかにすることが遅れ、それにより「大統領の歴史的な業績から注目がそれてしまった」ことに遺憾の意を表明している。

英国で犠牲となったのはヤング氏だ。元ジャーナリストで、現在は教育分野の起業家であるヤング氏が設立する「フリースクール」は、米国の「チャータースクール」とほぼ同じように、国の資金によって設立されるが、カリキュラムや入学基準については高い自由度が認められている。

政府に対する大学の説明責任の強化を意図して、ヤング氏は新たに設けられた学生局の新理事として名前が挙がっていたが、今月、自分が過去に行った発言に対する批判が根強く、継続して執務するには「注意散漫になりすぎる」という理由で辞退した。

ヤング氏はコラムのなかで、自身の母校オックスフォード大学では、「チビで不格好な、ニキビが多く、フード付きジャケットを着た」労働者階級の学生が学んでいる、と主張。

女性の胸のサイズに言及することも多く、学校に設けられた車椅子用のスロープは「社会的一体性」がもたらす悪影響の1つであると述べていた。また、知能指数が平均を下回る低所得層の親には、遺伝子操作による知性を加えた受精卵を与えるよう提唱していた。

ヤング氏は辞退表明のなかで、自分は一体性と「最も不遇な人々に対する支援」を熱心に支持しており、「私がジャーナリズムにおける扇動者だった」時期の記事の中で述べた意見は、配慮に欠けるか、誤っていたとして、「無条件で謝罪する」と述べている。

バノン氏の遺憾の意(彼は謝罪することが正しいとは考えていない)とヤング氏の「無条件の謝罪」は、現代のジャーナリズムにおける2つの大きなジレンマを示唆している。

つまり、それが真剣に書かれたものか、それとも(ヤング氏の言葉を借りれば)単に「扇動者」として書かれたものかを、どう見分けるのかと言う点。そして党派色の強いウェブサイトに掲載されたニュースをどこまで信用するのか、という問題だ。

興味深いことに、コリンズ英語辞書によれば、ヤング氏が使った「provocateur」という言葉は、アメリカ英語とイギリス英語では用法が異なっている。そしてどちらの場合においても、その異なる定義がそれぞれの人物によく当てはまっているのだ。

「Provocateur」は、アメリカ英語では「その作品、思想または活動が、一般に容認された価値観や慣習に対する脅威とみなされるような作家、芸術家、政治活動家など」を意味する。一方、イギリス英語では「議論その他の強い反応を引き起こすために、故意に賛否の分かれるような振る舞いをする者」とある。

バノン氏は、民主党はもちろんのこと、ある意味では彼にもっと近い立場の人々、つまり共和党の主流派にとって、「一般に容認された価値観や慣習に対する脅威」でありたいと願っていた。

2012年12月に亡くなった創設者アンドリュー・ブライトバート氏から、バノン氏が引き継いだ右派メディア「ブライトバート」は、自らの政治課題を基準に選ばれたニュースを配信した。

10日付のトップ記事は、「2017年に発表された科学論文485本が、気候変動に関する『常識』を否定」とある。気候変動に関する論文が全部で何本あったのか示されていなければ「485本」には何の意味もないが、その総数は示されていない。

もちろん、「ブライトバート」だけが特別というわけではない。右派が発信するイデオロギー主導型ニュースとしては、あいかわらずFOXニュースが圧倒的だ。左派からは、視聴率はさほどでもないが、MSNBCが安定したリベラル路線を走っており、トランプ大統領が特に忌み嫌うテレビ局CNNもリベラル寄りだ。

こういった傾向が米国の2極化を加速している。

ヤング氏が主役を演じた側のジレンマは、もっと目立たないが、油断できない問題だ。すなわち、辞書の定義に従えば、ヤング氏は「議論その他の強い反応を引き起こすために、故意に賛否の分かれるような振る舞い」をすることで、ジャーナリストとしてのコメントや見解に特別な位置付けを与えた。

それは、観察可能な事実や公正さと大きく乖離することによって、敵視されることは覚悟の上、それどころか、時にはむしろ敵視されることを求めて、関心を集めるために生み出されたものだ。面白いかもしれない。真剣であるようにはみえない。ヤング氏の謝罪では、自身の行為を、扇動者という立場にすり替えている。

事実に基づく冷静なコメントとバランスは、もはや高級志向のメディアサイト限定になり、新たなジャーナリズムからは「退屈」というレッテルを貼られている。

だが、現代のオピニオン・ジャーナリズムと公的な言論空間との衝突は、バノン、ヤング両氏を傷つけた。公的な言論空間においては、遅かれ早かれ、市場の論理を超えた何らかの説明が行われる。

両氏とも、謝罪することにより(謝罪しないバノン流も含めて)、誰かに伝えられたものであれ、自ら執筆したものであれ、自身のコメントを、まるで何ら重要性を持たないものであるかのように捨て去った。

バノン氏は今や、反逆者と呼んだ人物を、実は愛国者だと言っている。ヤング氏は、自分のジャーナリズムを、扇動によって得られる関心を切望していただけだ、と表現する。彼らによれば、どちらもまともに取り合うべきではない代物なのだ。

出版・報道の自由という観点からは、それも彼らの権利だ。だが、意図的に行われることによって、それは政治的対立と偏見を煽り立てているのである。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)

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 1月12日、右派に属する2人の人物が今月、相次いで退場を余儀なくされた。自身が情報源となった米国人のスティーブ・バノン氏と、コラムニストだった英国人のトビー・ヤング氏(写真左奥)。2011年9月ロンドンで撮影(2018年 ロイター/Luke MacGregor)

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