July 18, 2018 / 5:35 AM / 5 months ago

コラム:EU離脱巡る英国のカオス、「実は悪くない」理由

[13日 ロイター] - 「妥協」が最も魅力的な言葉なのは、民主政治の領域だけではない。長続きする関係や労使紛争、国際関係においても、それは同じだ。英国のメイ首相はかつて、これほどこの魅力的で不可欠な言葉を駆使する必要に迫られたことはない。

 7月13日、英国のメイ首相(写真)はかつて、これほど「妥協」という魅力的で不可欠な言葉を駆使する必要に迫られたことはない。6月20日、ロンドンで撮影(2018年 ロイター/Toby Melville)

メイ首相は今月、閣僚たちを説き伏せ、欧州連合(EU)と完全に縁を切るべきだ主張する側と、より穏健な形のEU離脱(ブレグジット)を求める側の狭間で、妥協を受け入れさせることに成功した。

首相が何とかまとめ上げた合意は多くの問題をはらんでいる。

ブレグジットを巡るEU側交渉担当者を務めるミシェル・バルニエ氏(フランス元外相)官が受け入れるであろう利点を多数残しつつ、ブレグジットが英国に与える自由を強調している。また、未解決の問題や、人やモノの動きに大混乱をもたらす提案も多く含まれている。

この合意では、あらゆる財の処理をうまく調和させることで、アイルランド国境におけるトラブル回避を狙っている。各種協定の解釈には欧州裁判所と英国内の裁判所の双方が関与するが、EU規則については引き続きEUが決定する。英国はEUから輸入される財に対して独自の関税を課すが、EUを最終目的地とする財については、いわゆる「統合された関税地域」として、EUが課す関税を代行徴収する。

人の自由な移動は停止されるが、移動協定が調印されることにより、留学や観光客としての訪問、労働のための移動は可能になる。

閣内合意がまとまり、それが承認されるには、右派と左派双方の妥協が必要になる。右派では、合意後にジョンソン外相、デービスEU離脱担当相、ベイカーEU離脱担当副大臣が相次ぎ辞任し、いずれも閣僚としての共同責任を免れたことによって力を強めている。彼らはそれなりの勢いをもって、今回の合意は2016年の国民投票で英国民が支持したものとは違うと攻撃してくるだろう。

最も派手な表現を用いているのがジョンソン氏で、彼は今回の合意を「糞を磨くようなものだ」と言い切った。もっときれいな言葉を使うのであれば、EUとの絆をあまりにも残しすぎている、というのが批判の要点だ。

ブレグジット推進派における過激派を自任するジェイコブ・リースモグ保守党議員は、「ブレグジットが、今後もEU法に従うという意味になっているようだ」と述べ、根本的な修正を画策している。

左派では、最大野党の労働党は、メイ首相のプランを支持することは考えにくいと主張する。労働党の影の内閣でEU離脱担当相を務めるケア・スターマー氏は、首相の計画は「実行不可能」で「官僚主義の悪夢」だと述べている。

こうなると、もし保守党内の造反組が十分な数(約60人)に達すれば、労働党のなかに支持に回る議員に少数いるとしても、首相は閣内でもこのプランを押し通せなくなる可能性が出てくる。

もし首相が押し通せたとしても、EUのバルニエ首席交渉官が拒絶し、首相が受け入れがたい、さらなる妥協を求めてくるかもしれない。

「英政府の新たな立場とEUの立場のあいだには、依然として大きなギャップがある」と、英調査会社ユーゴブのピーター・ケルナー社長は警鐘を鳴らす。

欧州単一市場でのパートナーシップといっても、「加盟国であることとイコールではありえない」と同氏はシンクタンクの外交問題評議会がニューヨークで催した会合で述べている。

これでは誰の目から見ても、消耗を伴う大混乱である。

メディアでこうしたテーマが話題になっていることに気付いたトランプ米大統領は、上機嫌で英国訪問中にこの騒ぎに便乗。外交の常識から外れて、英紙サンに対し、メイ首相のプランでは米英間の貿易協定を結ぼうとしても「恐らくだめになる」、ジョンソン前外相ならば「偉大な首相になるだろう」、そしてメイ首相にブレグジット交渉について進言したものの「聞き入れられなかった」と語った。

トランプ大統領のパフォーマンスは翌日、ガラリと変わり、サン紙のインタビューは「フェイクニュース」とこき下ろし、米英関係は「最も高いレベルで特別」だと述べ、「いまここにいる驚嘆すべき女性は、驚くべき偉大な仕事を進めている」と語った。英政府としては、トランプ発言のどちらかを信じるか、どちらも信じないか、単にすべて無視するか、という選択肢となった。

だが今回、評論家らが以前からずっと嘆いていた問題は解消された。つまり、根本的に重要な問題をめぐる民主的な討論がこれまで欠けていたのだ。現状は確かに混乱しているが、「EU残留」に1票を投じた筆者としては、この混乱がもたらす利点もあると考える。

第1に、ブレグジット支持派が、自国議会に権力を取り戻すという原則に基づいて戦っていることが明らかになった。

これは、より強苦言えば、EU内部で起きている全般的な動きと同じ流れだ。中欧諸国、そして現在ではイタリア政府の立場がその証拠だ。また、オランダのルッテ首相が今年ベルリンで行った演説を見ればいい。それは多くの小規模国家を代弁しているようでもあり、統合推進を求めるマクロン仏大統領の構想とは明らかに対立している。

EU離脱という英国の決定は、ルッテ首相の立場を大きく進めるものだ。英国の動きが一般的な見解に沿ったものであることをEUが認識し、EU内部で、能力と権限に関する総合的な議論が開始できればよかったのだ。ブレグジットをめぐる国民投票を実施したキャメロン前首相時代にそのような議論が行われていたら、EUは無傷のまま残っていたかもしれない。

第2に、ブレグジット支持派に国家主権という原則があるならば、EU残留派にも原則が必要だということがが明らかになった。それは、(十分な根拠があるとはいえ)経済的な混乱への懸念や、漠然とした一体感への願望といった、「EUはいかにあるべきか」というしっかりした提案に欠ける主張では、不十分だ。

国民投票の結果を覆してEUに残留すべきだと主張するならば、「EUに残る」ことが何を意味するのか、明確でなければならない。それは、統合継続と、各国からEUレベルへという権限委譲の継続を承認するという意味なのか。もしくは、より緩やかな結合で、各国が主権を維持しつつ、密接に協力するという意味なのか。

したがって、ここは混乱するに任せよう。

Slideshow (2 Images)

それはつまり、民主主義に任せようという意味でもある。最終的には妥協点が見つけられなければならないし、実際にそうなるだろう。というのも、われわれが民主主義について語る場合、そこには力強い市民社会が伴っているからだ。市民社会には、人々に根付いた十分な力があり、現実のカオスに突入することは避けられる。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)

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