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コラム:O・ストーン監督らによる「プーチン礼賛」の問題点
2017年6月23日 / 23:15 / 5ヶ月前

コラム:O・ストーン監督らによる「プーチン礼賛」の問題点

[16日 ロイター] - ロシアのプーチン政権に抵抗する何万人もの人々による大規模デモが12日、首都モスクワなど同国内の180カ所以上で行われ、「ロシアを自由に」と声を上げた。

 6月16日、米国内のプーチン大統領支持者の1人として、昨今大いに話題になっているのが、映画監督のオリバー・ストーン氏(写真)だ。写真は15日、モスクワで記者に語るプーチン大統領(2017年 ロイター/Sergei Karpukhin)

10代の若者を中心とした数百人の参加者は逮捕され、殴打を受けた者もいた。デモを呼びかけ、いまや街頭における抵抗運動の紛れもないリーダーとなったアレクセイ・ナワリヌイ氏は、30日間の禁固刑を宣告された。

今回のデモは、ロシア政府が2012年に反政府デモの再発防止へ厳格な法律を成立させて以来、最も広範囲及ぶ抗議行動となった。この法律が成立して以来、プーチン氏は大統領選挙で再び勝利を収め、クリミアに侵攻。ロシアの経済不振にもかかわらず、同大統領の支持率は80%以上に上昇している。

今回の抗議行動が5年前のデモと異なるのは、特にプーチン大統領を標的としており、汚職全般をテーマとしていた点だ。

ナワリヌイ氏はこれまでにもロシア指導部を批判してきた。昨年9月、彼はドローン(小型無人機)で撮影した、メドベージェフ首相の豪壮な別荘地の動画を公開した。それは首相を尊敬する新興財閥(オリガーキー)から寄付されたものだと言われている。

メドベージェフ首相の支持率は低下したが、こうした告発があっても、プーチン大統領への支持は揺るがなかった。だが現在、ナワリヌイ氏(依然としてモスクワ以外での知名度は低い)の考えでは、首都の若者たちは、彼らの幻滅をぶつける、もっと強力かつ分かりやすい標的を欲しているという。つまり、ロシア国家に対して究極の責任を負っている人物、という意味だ。

プーチン大統領は、もちろん米国で8割の支持率を誇るわけではないが、意外なことに、トランプ大統領以外にも支持者はいる。ギャラップの最近調査に回答した米国民のほぼ4分の1はプーチン大統領を認めている。

こうした米国内のプーチン大統領支持者の1人として、昨今大いに話題になっているのが、映画監督のオリバー・ストーン氏だ。ストーン監督によるプーチン大統領の4部構成のインタビューは過去2年間にわたって撮影され、米国内で今月放映されたところ、プーチン氏への質問というより、オマージュだと批判を浴びた。

スティーヴン・コルベア氏が司会を務める番組に出演したストーン監督が、「プーチン氏に関して一番驚いたことは何か」と問われ、語ったコメントは観客の失笑を買った。

「(彼は)国に身を捧げていると思う。彼の落ち着きと礼儀正しさには目を見張った。誰に対しても悪口めいたことを言わなかった。そう、彼はそんな多くの経験をしてきた。中傷を浴び、報道陣から、メディアから罵られてきた」とストーン氏は答えたのだ。

長時間に及ぶインタビューを検証した多くの人々は、ストーン監督の質問がくだらないものばかりだったというコルベア氏の見解に賛同している。

もっとも、インタビューの最終回では、より踏み込んだ一面を見せ、昨年の米大統領選挙でロシア政府が民主党全国委員会のメールをハッキングしたとされる疑惑について、プーチン大統領を問いただしている。さほど手厳しい質問というわけではなかったが、それでもプーチン氏は居心地の悪さを感じていたようだ。

だが、本当に居心地の悪さを感じるべきはストーン監督の方だ。しっかりした市民社会を持つ民主国家において成功した自由な人間にもかかわらず、彼はその一連のインタビューのなかで、ロシア側のプロパガンダを補強することを選んだ。

 6月16日、米国内のプーチン大統領支持者の1人として、昨今大いに話題になっているのが、映画監督のオリバー・ストーン氏(写真)だ。写真はロンドンで2016年10月撮影(2017年 ロイター/Peter Nicholls)

ロシア政府による反対派の弾圧や、批判的な報道メディアに対する圧迫、自国の不安定化を狙うウクライナの分離主義者への支援。そして、シリアのアサド大統領の酷薄な体制を勝利させるためのロシア政府の熱心な努力や、ロシア体制に見られる権力の私物化傾向、欧州連合(EU)諸国のポピュリスト、ナショナリスト政党への資金支援など。

また、フォーブス誌の記者の言葉を借りれば、プーチン氏が「(EU)域内、あるいはそれ以外の独裁候補たちに、自身は無傷のまま人権や自由を縮小する方法を」成功裏に示してきたことなど、これらを全てストーン氏は無視してしまったのだ。

プーチン大統領は1975年にKGB(ソ連国家保安委員会)に入り、本心を隠して「偽る」、つまり役割を演じる訓練を受けた。彼は巧みな演技者として台頭し、成長してきた。彼は今月、毎年恒例の電話による番組出演を行い、抗議デモを、「さまざまな問題に便乗するだけの」人々による「挑発」だと表現した。

プーチン大統領は冷静で人々が安心感を抱くよう振る舞い、ロシアによる選挙介入疑惑の調査をめぐってトランプ米大統領に解任されたコミー連邦捜査局(FBI)前長官に対しても、亡命を呼びかけるような茶目っ気を見せた。また2年続いた景気後退のあと、わずかながらロシアの国内総生産(GDP)が上向いたことも誇らしげに語った。

 6月16日、米国内のプーチン大統領支持者の1人として、昨今大いに話題になっているのが、映画監督のオリバー・ストーン氏(写真)だ。写真は12日モスクワで、プーチン大統領に抗議するデモの参加者を取り締まる警備隊員(2017年 ロイター/Maxim Shemetov)

だが、プーチン大統領のこうした演技も、以前ほどの説得力を持たない可能性がある。

中国やイランと違い、ロシアには独裁的な支配を正当化するような宗教的、もしくは世俗的なイデオロギーがない。その体制は経済成長と、国境外でロシア人が多数を占める地域の「復帰」に依存していた。また3年前までは、生活水準の向上と、チェチェンにおける大規模紛争の終結にも依存していた。プーチン大統領は、チェチェン共和国に対して、同性愛者を弾圧するカディロフ共和国大統領による苛酷な支配を許してきた。

ロシアの市民社会は以前よりも確立しており、知識も豊かになり、より懐疑的に変貌している。非政府組織(NGO)などに支えられてはいないが、中産階級は旅行に出かけ、ネットにアクセスし、秘密警察を恐れることなく発言している。若者を中心に、自分たちは欧州の一員であると考える人が多い。プーチン氏はこの層がおとなしくしているよう、十分な自由を与えてきた。だが今回の抗議デモはそれがいつまで続くのか、疑問を投げかけている。

筆者は今週、ロンドンの地下鉄で、2人の若いロシア人女性の背後に立っていた。彼女らは、英国と欧州に関する講演について興奮した様子で会話していた。

この世代は、西側社会を悩ませている問題(欧州連合の弱さやトランプ米大統領の誕生)を、西側の退廃の兆候と見るのだろうか、と疑問を抱いた。彼女たちは「秩序ある社会」を好むのだろうか。ロシアのメディアの描写によれば、その社会でも、さまざまな自由のなかでも特に、海外を旅行し、そこで生活する自由は認めてくれるのだ。

それとも、主要な課題がおおっぴらに議論される西側の民主主義社会に現れている、多くの厄介で政治的に困難な状況のほうが、母国のきっちりと管理された政治や厳しい制約を伴う市民社会よりも好ましいと考えるのだろうか。

旧ソ連時代を直接知らないロシアのデモ参加者たちの多くは、いま、こうした選択に直面している。そして、より実存的な意味で選択を迫られているという点では、プーチン大統領も同様だ。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)

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