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コラム:社会亀裂招く「像撤去」問題、ヘイトの増幅防ぐには
2017年8月23日 / 04:16 / 1ヶ月前

コラム:社会亀裂招く「像撤去」問題、ヘイトの増幅防ぐには

 8月18日、彫像には生命が宿っている。バージニア州シャーロッツビルに立つ南北戦争時の南軍指導者、ロバート・E・リー将軍の銅像は、特にそうだ。写真は撤去決定に反発した白人至上主義と反対派の衝突が今月、暴力的事件を引き起こしたリー将軍の銅像。18日撮影(2017年 ロイター/Jonathan Ernst)

[18日 ロイター] - 彫像には生命が宿っている。バージニア州シャーロッツビルに立つ南北戦争時の南軍指導者、ロバート・E・リー将軍の銅像は、特にそうだ。

トランプ大統領は、南軍関連のモニュメントを擁護し、白人至上主義に対する非難をなかなか公言しなかったことによって、同志である共和党員を含め、多くの米国民の不評を買った。

リー将軍像を撤去するという決定に対する白人至上主義グループによる抗議は暴力的事件を引き起こし、白人至上主義に対する抗議行動に参加していた女性1人が死亡している。

ホワイトハウス補佐官らは報道陣に苦しい胸中を漏らし、共和党の政治家は公然と、そして米軍幹部は陰ながら、トランプ大統領の姿勢を批判している。シャーロッツビル事件に関するトランプ発言に抗議して複数の企業CEOが離脱したことを受けて、大統領は2つの助言組織を解散した。

テキサス州ダラス、ケンタッキー州レキシントン、フロリダ州ジャクソンビルを含むいくつかの都市の市長は、南軍関連モニュメントを撤去する準備を進めていると発言している。

ノースカロライナ州ダーラムでは、抗議参加者たちが1世紀前に建立された南軍兵士像に縄をかけ、台座から引きずり倒した。実行者の数名はその後逮捕されている。メリーランド州ボルチモアのキャサリン・ピュー市長は、南軍関連モニュメントを急遽撤去することを命じた。「それが市にとって最善」というのが理由だ。同州当局は18日、奴隷制に有利な判決を下した19世紀の裁判長の彫像を撤去した。

こうした像をめぐる議論は、シャーロッツビルでの抗議集会と衝突の影響としても重要だが、同時に、世界的なトレンドの一部でもある。

大理石や青銅で造形された彫像は時代を超えた永続的な印象を与えることを意図しているが、今やどこの国でも批判の的になりやすく、議論や異議、苦い集団的記憶の対象になることは避けがたい。

その場の勢いで撤去される彫像もある。バグダッドのサダム・フセイン像は、2003年にイラク軍が壊滅するなかで引き倒された。モスクワの旧ソ連国家保安委員会(KGB)本部の外にあった創設者フェリックス・ジェルジンスキーの像も、1991年、ソ連崩壊の流れで撤去された。その他の像も、今のところ、多くは批判的な論調の対象として残されている。

こうした動きの最前線にいるのが、南アフリカの抗議活動家たちである。彼らの「ローズ像を倒せ」キャンペーンは、白人帝国主義者を標的とし、主な攻撃対象だったケープタウン大学キャンパス内のセシル・ジョン・ローズ像を撤去させることに成功した。

ドイツからはナチスを象徴する図像が一掃された。多くはドイツを占領した連合軍による明確な命令により終戦までに破壊されたが、連合軍は1946年5月、「既存のナチスに関連する記念碑、記念館、ポスター、彫像、殿堂、街路又は幹線道路の名称標識、エンブレム、銘板又は記章」を1947年1月1日までに破壊しなければならないとの命令を発している。

イタリアではそうではなかった。通常は古代ローマ帝国と結びつける形でファシズムを礼賛するような建造物や、絵画・フレスコ画・モザイクを含むモニュメントが今も残っている。

大戦同時の独裁者ムッソリーニの生地であるプレダッピオという小さな街では、メインストリートに軒を連ねる店舗でファシスト党の記念品やパンフレットが販売されている。派手に飾り立てられた地下墓地には、かの独裁者の遺体が埋葬されている。ムッソリーニが暮らしていた村には彼の胸像が据えられ、街路ではファシスト党支持のパレードが行き交い、ムッソリーニの墓所を崇めている。この街の首長であるジョルジオ・フラッシネティ氏は、プレダッピオの名誉回復を図る試みとして、ファシズムについて伝説ではなく真実を伝える博物館を建設する資金を募ってきた。

リー将軍やセシル・ローズ以上に手を血で染めてきた歴史の悪役たちも、いまだに名誉ある場所を確保している。旧ソ連の指導者スターリンの彫像は、生地であるゴリ(ジョージア)などにある記念館に飾られている。中国では毛沢東の生まれ故郷・韶山に、約2000万ドル相当とされる純金の毛沢東像が立っている。これほどの金額ではないにせよ、中国国内には何百もの毛沢東像が存在している。

これに比べれば地味ではあるが、ロンドンには大英帝国時代の軍人や行政官の彫像がたくさんあり、ほとんど議論の対象になっていない。2000年、左派のケン・リビングストン市長(当時)が、トラファルガー広場にあるヘンリー・ハブロック卿とチャールズ・ネピア将軍の彫像を、「誰だか知らないから」という理由で台座から撤去することを進言した。いずれも大英帝国の軍人である。

ハブロック卿は1857年にインドで発生した反乱の鎮圧に貢献したが、このときは少なくともインド人側で少なくとも80万人の命が奪われている。ネピア将軍は、イングランドにおける労働者階級の暴動を鎮圧した後、現パキスタンに当たる地域に赴いて反乱を鎮圧した。リビングストン市長の発言にも関わらず、両者の彫像は今もトラファルガー広場に立っている。同様に、セシル・ローズ像は母校オックスフォードに残っている。

帝国主義的を拡大に貢献した指導者や、現在は人種差別主義者と考えられている人物の彫像は撤去すべきだという主張は明快だ。すなわち、こうした人物に反感ではなく尊敬の念を抱く人々にとって、彼らの彫像は今も心の拠り所になっている。彼らを尊崇する人々は、歴史上の英雄と見なす人物と自分を同一視し、その同一化によって力と自信を得ている、というのだ。

これに対して、これらのモニュメントを破壊すれば、歴史そのものに対する理解が部分的に失われてしまう、という主張がある。

だが、これまでの数十年、あるいは数世紀と同じように彫像が建っているだけでは今や不十分だ。モニュメントには説明、議論、反対意見、あるいは「対抗的モニュメント」が添えられるべきである。たとえばスターリン像に対して、偉大な反体制派であるアレクサンドル・ソルジェニーツィン、あるいは痩せこけた矯正労働収容所からの生還者の彫像を対抗させる、といったやり方だ。

別の選択肢もある。テクノロジーの活用だ。映画製作者のデビッド・ピーター・フォックスは、コペンハーゲンを訪れ、子どもたちに童話作家ハンス・クリスチャン・アンデルセンの彫像を見せた後で、携帯電話を教育機器として利用することを思いついた。このアプリは彫像に近づくと、その歴史的な背景を説明する音声を再生する。このアイデアはベルリン、ロンドン、ヘルシンキ、シカゴ、ニューヨークへと広がっていった。

スマホ用のアプリがあっても、シャーロッツビル事件の影響は抑えられないだろう。このようなアプリは指針であると同時に、妥協でもある。拡張・拡大していけば、批判を浴びている人物が、なぜかつては高く評価されたのかという理解を可能にし、なぜ今は多くの人がそのようには考えていないかという理由も盛り込めるだろう。

活動家はこうした方法をきっと馬鹿にするだろう。だがそれは理性に訴えかけ、現在のような、憎悪のエスカレーションになりかねない事態を回避するうえで役に立つ可能性がある。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)

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