July 26, 2018 / 6:57 AM / 5 months ago

コラム:自由主義世界の敵に回ったトランプ大統領

[20日 ロイター] - 米ホワイトハウスのオーバルオフィス(大統領執務室)の主たちは、第2次世界大戦以来、自由主義世界のリーダーとしての責任を担ってきた。だが、トランプ氏にはその役割は無理だし、恐らく彼は、そうなりたいと願ったことも決してないだろう。

 7月20日、歴代米大統領は、第2次世界大戦以来、自由主義世界のリーダーとしての責任を担ってきた。だが、トランプ氏(写真)にはその役割は無理だし、恐らく彼は、そうなりたいと願ったことも決してないだろう。ホワイトハウスで25日撮影(2018年 ロイター/Joshua Roberts)

「アメリカファースト(米国第一主義)」は「米国の撤退」を意味している。

だがそれでも、1987年の自著「Trump: The Art of the Deal」(邦題「トランプ自伝:不動産王にビジネスを学ぶ」)に倣えば、トランプ大統領が自由主義世界における交渉役を担い、あらゆる交渉で成果を得るための教訓を、国際問題に応用する可能性はあった。

トランプ大統領がそのような役割を担い、米国だけでなく、少なくとも西側諸国の利益に目配りをしていれば、それは私たちに恩恵をもたらしただろう。

だがトランプ氏は、自由主義世界の交渉役になりたいとも思っていないようだ。

ヘルシンキで16日に行われた米ロ首脳会談の後、勝ち誇るプーチン大統領の傍らに立ったトランプ大統領のパフォーマンスは、すべての民主主義者にとって恥知らずなものだった。

隣国ウクライナでは領土の一部を奪い、他の地域でも反乱を煽り、シリア内戦ではアサド独裁政権の勝利を助け、自国においては最も独立性の高い市民団体を閉鎖に追い込み、自身のでっち上げたハリボテ「民主主義」に対するあらゆる挑戦を無視しているプーチン大統領の前で、トランプ大統領は自らの面目を潰してしまったのである。

本来は綿密に準備を整え、価値観と相互の差異を示すようなパフォーマンスを披露し、原則を守れる場合にのみ妥協を追求する場となるはずの首脳会談を、プーチン大統領は無意味な保証とお世辞にあふれた生温い身内の馴れ合いとして扱っている。

そのような人物を米国大統領が称賛してしまったら、巨大なリスクにさらされるのは米国という共和制国家だけにとどまらない。

さらに悪いことに、これに先立って行われた欧州訪問では、「西側諸国の指導者たちを侮辱し始め、彼らを『敵』と決めつけた。軍事・経済・政治面での長年にわたる同盟を破壊し、2016年の選挙を台無しにしようとしたロシアの企てを免罪した。トランプ氏はこのような振る舞いを、あからさまに、繰り返し、強い信念をもって行っている」

トランプ大統領は短期間の欧州訪問で、米国が主要同盟国と築いてきた共通理解のすべてを無意味にしようとしているかのような「強い信念」を驚くほどの明瞭さで示した。北大西洋条約機構(NATO)に対する懐疑的な態度や、欧州、特にドイツを軽視する姿勢は、彼の一時的な気まぐれに過ぎないと考える余地さえなくなってしまった。

米国にとって最も親密な同盟国であり、いわゆる「アングロスフィア(英語圏諸国)」の柱である英国、カナダ、オーストラリアは、米大統領との「特別な関係」を何とか維持しようと、報われない努力を続けている。だが当の大統領は、これらを愚弄することを楽しんでいる。

先月カナダで行われた先進7カ国(G7)首脳会議では共同声明への署名を拒み、カナダのトルドー首相に恥をかかせた。英国訪問時にはメイ首相に対して、欧州連合(EU)離脱に向けた自分のアドバイスを聞かなかったと非難し、メイ首相批判の先鋒に立つジョンソン前外相を次期首相として推奨するという振る舞いに出ている。

トルドー、メイ両首相は米国を頼りにしている。カナダは、国内総生産(GDP)の約25%を対米貿易で稼いでいる。メイ首相としても、英国の対EU貿易が急激に減少する可能性が高く、ブレグジット後のパートナーを切実に求めている。

トランプ大統領が帰国し、共和党内部からの批判があまりにも大きく、無視できないと分かると実にお笑い種の「発言修正」が行われた。

トランプ氏は、米ロ首脳会談後の共同記者会見で「wouldn't」の代わりに「would」と言ってしまい誤解を与えたと述べ、2016年の米大統領選に介入したのがロシアではなかったと信じない理由はないと言いたかったと発言を撤回した。

だとすれば、私たちは単に、言葉があらゆる意味を失う世界で生きているというだけではなく、「不思議の国のアリス」の世界に生きているのだ。そこではトランプティ・ダンプティがこう語る。「私がある言葉を使うとき、その言葉は私が選んだ意味を持つ。それ以上でもそれ以下でもない。問題は誰が主人なのかということ、それだけだ」

戦後の時期を通じて、何よりもまずリベラルな価値観を守るために選ばれてきた米国大統領その人によって、その価値観の体系が続けさまに攻撃を受けるのを、われわれは目の当たりにしている。

米国の国防戦略は、中国を筆頭とするライバル国家が、西側諸国の世界覇権を弱めようと試みつつあるという正しい世界認識を持っている。その世界は、国際法による支配が尊重され貿易が安全に進められるという、ある種のリベラルな秩序が、どこよりもまず米国によって保護されている。

現在、最も重要な問題は、西側諸国がリベラルで民主主義的な価値観をどこまで擁護して、それを提示し続けられるかという点だ。

政治学者のヤーシャ・ムンク氏、ロベルト・フォア氏が行った調査によれば、ほぼどこの国でも、若者は政治体制としての民主主義の価値に対して懐疑的になっており、自らの行動によって公共政策に影響を与えられるという希望を抱かなくなっている。

だが、リチャード・フォンテイン、ダニエル・トワイニング両氏によるフォーリン・アフェアーズ誌への寄稿によれば、米国政府は、中国とロシア両政府からの攻勢に対して「ほとんど防御姿勢をみせていない」という。ましてや、「自由世界の保護と拡大という、力強いアジェンダを掲げる」レベルに至っていないことは言うまでもない。

こうした力強いアジェンダを自らの政策の中心目標に据えるという点で、歴代の米国大統領には優れた人物がいた。

最近ではジョージ・W・ブッシュ氏が、大統領に就任した時点では「米国第一」主義を好んでいるように見えたものの、2期目には「あらゆる国や文化において民主的な運動や制度の成長を追求し、支援する」ことを公約している。

オバマ前大統領は決して「米国第一」主義者ではなかったが、「世界の警察官」としての役割を限定したいと考え、リベラルな価値観をグローバル規模で擁護するために、特に欧州の同盟国に対し、これまでより大きな役割を演じるよう促した。どちらの大統領も、外交政策の中核的な目標として、「自由」を掲げていた。だが、45代大統領のトランプ氏は違う。

したがって、トランプ大統領が欧州訪問でみせた危うい言行からわれわれが理解しなければならないのは、同大統領の助けなしに、それどころか時には彼の抵抗を受けつつ、こうした価値観を守っていかなければならないということだ。

魚は頭から腐るという。私たちが望むことができるのは、新たな「頭」を見つけるまでに、腐敗が進行しすぎないことだけだ。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにロイターのコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below