[香港 3日 ロイター BREAKINGVIEWS] - デジタルコインによって、マカオの華やかさに陰りが出る可能性がある。マカオ特別行政区では、モバイル決済額が2020年中に5倍に増大した。また、中国は新たなデジタル通貨をこの地域で実験したいと考えている。デジタル通貨が拡大すれば、規制当局の「監視」も楽になる。ギャンブル愛好家やカジノの一部が、抵抗を感じている理由もそこにある。
規制当局がデジタル技術を活用することで最も影響を受けるのは、ウィン・リゾートやギャラクシー・エンターテイメントなど本格派のギャンブル愛好家が集まるカジノである。
中国本土からの観光客によるギャンブル支出は、マカオ経済を支える柱となっている。だが、彼らはすでに「アリペイ」などのオンライン決済アプリになじんでいる。
また、新型コロナウイルス・COVID-19により、物理的な紙幣を回避して非接触型の取引を好む消費者はさらに増えた。マカオ金融管理局によれば、昨年、マカオにおけるモバイル決済の利用額は400%以上増加して、60億パタカ(7億5000万ドル)強となった。
一方、中国人民銀行は「デジタル人民元」への取り組みを進めている。昨年8月、中国商務省は旧ポルトガル植民地であるマカオにおいて追跡可能な新通貨であるデジタル人民元の実験を行うと発表した。デジタルコインがカジノで利用できるようになれば、透明性の向上により、ギャンブルの中心地であるマカオでも、当局が資本の移動を追跡し、腐敗対策の捜査を進めやすくなる。
個人所得税の脱税は、中国では日常茶飯事となっている。「エコノミスト」誌で報じられた当局者の試算によれば、個人所得税を納めているのは、人口の2%に過ぎないという。
だからこそ、高額を投じるカジノ客や、その賭け金の原資となっている公費乱用の視察旅行にとって、当局が資金の流れを追跡できるシステムは都合が悪い。カジノ側では顧客にそういう悩みを押しつけるインセンティブはまず無いし、マカオ行政府も神経をとがらせている。昨年12月、マカオのカジノ規制当局が中国の電子通貨を試験導入するというブルームバーグの報道に対し、否定の反応は素早かった。
中国政府がデジタル通貨に勝負を賭けるのであれば、マカオとしては、中国本土からの大勢の一般観光客が、賭けた金額や収益を当局に掌握されることを承知のうえで、小額でもギャンブルに投じてくれることを期待せざるをえない。
幸いにも、小口のカジノ客を頼みにするには良い流れが来ている。マカオにとって最も収益性の高い顧客は、もはや高額のギャンブラーではない。2019年末には、カジノの売上高・純利益の双方において、史上初めて、マスマーケット、つまり小口の一般客の貢献度が高額ギャンブラーを上回った。あまり派手ではない顧客に賭ける方が、むしろ配当は高くなる可能性もある。
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‐2月1日の公式データによれば、マカオにおける1月のギャンブル関連収益は前年比63.7%低下した。世界最大のカジノ中心地であるマカオでは、主要市場である中国本土からの集客に苦労している。
‐ブルームバーグは昨年12月2日、マカオの賭博規制当局であるDICJ(博彩監察協調局)が中国のデジタル人民元を試験導入するという関係者の談話を報じた、DICJはデジタル通貨をチップ購入に使うことが可能かカジノ事業者に打診したことを否定している。
‐昨年8月、中国商務省はデジタル人民元の試験導入計画をマカオ及び国内の他地域で行う意向を明らかにした。
(翻訳:エァクレーレン)
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