December 15, 2017 / 10:21 AM / 6 months ago

焦点:マグネシウム電池開発に補助、福島で非常用電源を実用化へ

[東京/福島 15日 ロイター] - 次世代エネルギーとして期待されているマグネシウム電池開発事業が、政府と福島県による国家プロジェクトの対象に採択されることが決まった。来年春をめどに、県内の福祉施設において非常用電池の実証実験が始まる。同県では、将来の商用化に向けて同電池を生産する企業の誘致を考えており、開発者の矢部孝・東京工業大学名誉教授らプロジェクト推進側は複数のメーカ―と本格的な事業化に向けた交渉を進めているという。

 12月15日、次世代エネルギーとして期待されているマグネシウム電池開発事業が、政府と福島県による国家プロジェクトの対象に採択されることが決まった。マグネシウム電池からLED電球を発電、12日に都内で撮影、映像から(2017年 ロイター)

<基礎研究から実用段階へ>

矢部名誉教授が開発したマグネシウム電池は、電気化学反応によって電気を取り出す燃料電池の一種。負極にマグネシウム、正極に炭素系材料を用い食塩水に浸して化学反応させ発電させる。充電によって電気を蓄える2次電池とは異なるタイプだ。

同電池の開発支援は東日本大震災と福島第1原発事故による複合災害からの復興に向け、政府と福島県が共同で、廃炉やロボット開発、次世代エネルギーの導入などの事業を推進する国家プロジェクト「福島イノベーション・コースト構想」の一環。福島復興再生特別措置法に基づき2017年度は様々な補助プロジェクトに合わせて約70億円の国費が投入される予定。マグネシウム電池開発には3年間の支援を想定しており、初年度に約3000万円の補助金が拠出される。

電池の設置や実証実験は、矢部氏が設立したベンチャー企業と同県の福祉施設事業者シンエイ(本社、南相馬市)が実施する。両社は福島県が実施する「地域復興実用化開発等促進事業費補助金」に応募。技術の知見を持つ専門家による審査を経て、今月初めに国家支援の対象事業として採択されることが正式に決まった。

マグネシウム電池は数ワット程度の出力で発電する製品がすでに市販されているが、南相馬での実証実験では数百ワットで数日間稼働可能という、これまでにない高い性能を目指している。

今回の支援決定について、福島県庁産業創出課の市川新吾主幹は「基礎研究のステップは超えた段階での、もう一歩で事業化に結びつく最後のステップを支援するもの」と説明。矢部氏らの取り組みに協力するメーカーの誘致について、「当然、視野に入れている」と述べ、今回の実証実験が順調に進めば、県の企業立地補助金制度を活用し、将来的なマグネシウム電池生産の拠点化を後押しする考えだ。

<資源量の豊富さなど利点>

マグネシウム電池は、資源量が豊富なうえ、既存のリチウムイオン電池に比べ、体積や重量当たりの取り出し可能なエネルギー量が多いなど利点が多い。海水に無尽蔵ともいえる量が存在するが、矢部氏は海水からマグネシウムを取り出す装置も開発済みだ。

従来は、マグネシウムを電池に用いると、表面が酸化し残りの部分の反応が進まず発電効率に問題があった。また、反応によって生じる絶縁性物質が電解質に溶けるため、多量の電解液が必要になり、その分、電気抵抗が増大して出力を上げられない、など課題があった。このため、電池研究者の間では長年、大出力タイプの電池の実用化は難しいと考えられてきた。

矢部氏が開発したマグネシウム電池は、マグネシウムを薄いシート状にすることで反応効率を高めたほか、同シートを不織布で包むことで電解液が汚れず、出力が小さくなる課題を解決した。同氏はすでに日本、米国、欧州を中心に約30件の関連特許を取得している。

同電池の性能について、矢部氏は「理論的には、乗用車のトランクに入るサイズで数百ワットを出力し3日間もしくは、数十キロワットで1、2時間発電することも可能だ。そのような電池はまだない」と指摘。矢部氏は将来は電気自動車の動力源として利用することも可能だとしている。

今後、同電池の開発を本格化させるには、ヒト、モノ、カネの経営資源を持つメーカーの参加が不可欠。矢部氏は複数のメーカ―と交渉していることも明らかにした。

開発事業を支援している東北再生可能エネルギー協会の藤沢孝仁氏は、「100ワットの電球が点灯したことには驚いた」と話す。同氏は国内有数の半導体工場に設置された無停電電源装置の診断や保守などを手掛けた実績を持つ電池の専門家。今回のマグネシウム電池事業について、藤沢氏は「矢部氏が試作した1台だけでなく、今後、N値(電池の台数)を増やして使えるかどうかを実証することが、助成金の目的になるだろう」と述べている。

<原発事故が契機に> 

福島県が復興関連事業として同電池の開発を取り上げたのは、いまから6年9カ月前に発生した福島第1原発事故で非常用電源の重要性が浮き彫りになったためだ。福島第1原発では、送電線を経由する外部電源、所内に設置された非常用のディーゼル発電機、バッテリーのいずれも失われたことにより原子炉の冷却ができなくなり重大事故に至った。

電気の供給が失われた影響は原発所内に止まらない。東北電力(9506.T)によると、東日本大震災に伴い、福島県内では延べで約38万戸が停電。内閣府が2年前に発表した、原発事故に伴う避難に関する実態調査(福島県22市町村対象、約2万人回答)では、事故発生の11年3月11日から翌12日までに、原発事故に伴う避難指示や屋内退避指示を知った住民は2割未満であることがわかった。

さらに、内閣府が昨年8月にまとめた関連のリポートは、「地震や津波による倒壊、電源喪失等で防災行政無線が使えない事例もあった」と指摘。電力供給が途絶したことで避難指示が十分に浸透しなかった可能性を示唆している。

矢部氏と共同で実証実験に取り組むシンエイの岡崎郁夫総務部長は、東日本大震災と福島原発事故を経験したことで、非常用電源の重要性を痛感したと話す。当時の状況について、同氏は「一番の不安は食料とエネルギーだった」と指摘。施設では、利用者の服薬の管理や、酸素吸入や痰(たん)の吸引などで電気は不可欠で停電は大きなリスクだったという。

対策として震災後に太陽光発電パネルとリチウムイオン電池による蓄電設備を入れたものの、「電気を取り出す場所が限られ、使い勝手が悪い」(岡崎氏)ことから、もっと良い方法はないのかと探していたところ、電気設備工事関連の経営者から矢部氏のマグネシウム電池を紹介されたという。「(福島県の)浜通りの会社が補助の対象だということで、少しでも社会貢献したいという考えから(矢部氏と)一緒に事業に取り組むことになった」と話している。

*デートラインを修正しました。

浜田健太郎 編集:北松克朗

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