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アングル:温暖化で短くなる冬、米北部のヘラジカにダニの脅威

[ピッツトン・アカデミー・グラント(米メーン州) 28日 ロイター] - 米北東部メーン州の森では、訪れる冬が年々短くなり、同州にとって象徴的な存在であるヘラジカに深刻な問題が起きている。より暖かい気候で活発になる吸血ダニの影響で、昨年は同州に生息するヘラジカの子どもの90%近くが命を落としたという。

 10月28日、米北東部メーン州の森では、訪れる冬が年々短くなり、同州にとって象徴的な存在であるヘラジカに深刻な問題が起きている。写真は狩猟検問所で逆さに吊るされ、体重を測られるメスのヘラジカ。10月、ピッツトン・アカデミー・グラントで撮影(2022年 ロイター/Lauren Owens Lambert)

同州では現在、気候変動が引き起こすこの問題について、一見常識に反するような対応策が研究されている。毎年秋にある程度の個体数を猟師たちの手で減らしておくことで、ヘラジカの生息数を維持できるのではないか、というものだ。

研究を主導するヘラジカの生態専門家リー・カンター氏はこう分析する。「生息密度が低い地域の方がダニも少なく、より健康なヘラジカがいることがわかっている。ダニは宿主なしでは生きられない」

気候変動によって寄生虫の生息域が北部へ拡大していることが、同州が抱えるジレンマの背景にある。もし駆除数を増やすというメーン州の打開策が効果を上げれば、似たような問題を抱える地域にとってモデルケースになる可能性もある。

ダニは霜が発生し始めると死滅するが、気候温暖化により、その前に体温のある宿主を探せる時間が長期化している。これにより、メーン州をはじめとする米北部の州やカナダで冬季にダニが活発になる問題が起きている。

メーン大学気候変動研究所および外部協同組合で助教授を務める気候学者、ショーン・バーケル氏は、同州の冬は温暖化の影響で1世紀前と比べて1、2週間ほど短くなっていると分析する。

こうして霜が降りない時期が長引けば、森の茂みを移動するヘラジカは毛皮に何万匹ものダニを余分に抱えることになる。ダニは冬の間、雪深く冷たい、食料も少ない環境を耐えしのぐヘラジカの血液を大量に吸い出してしまう。

カンター氏によれば、シカやカンジキウサギといった森に生息する他の動物は、かいたり、木に体をこすりつけたりすることでダニをうまく取り除くことができる。森の中で一番体の大きいヘラジカだけが、小さな捕食者の標的になって苦しんでいるという。

「どういうわけか、ヘラジカはダニ駆除をすることが苦手なのだ」

<窮地に直面>

ダニに寄生されても、成体のヘラジカは大きく体力もあることから生き延びられることが多いが、若いヘラジカは苦しむ傾向にある。過去7年のうち6年で、州の観察下にあったヘラジカの子どもの半数が、1歳に満たないうちに死んだという。昨年のメーン州北部での死亡率は87%だった。

「(こんな数字は)これまで一度も見たことがない」とカンター氏は話す。

ダニは、メスのヘラジカの健康的な妊娠・出産をも脅かしているという。

メーン州の統計によると、州内で生息するヘラジカは現在6万頭以上。整った生息環境に加え、毎年の猟の許可が慎重に行われてこともあり、生息数はアラスカ・ハワイを除いた米国の州の中で最も多い。それでも生息数は減少傾向にあり、ダニの脅威がさらに拍車をかけている。

カンター氏は現在、駆除数を増やすことでヘラジカの生息数の減少を抑えることができないかと研究を進めている。州内の一地域で駆除の規模を拡大させ、生き残ったヘラジカに寄生するダニの数が少なくなるかどうかを調べるものだ。

メーン州にとって理想的なヘラジカの頭数はまだわかっていないが、カンター氏はこの研究がその答えを見つける助けになれば、と願っている。

彼の研究室には、手段を疑問視する声や、駆除数を増やすのは本末転倒ではないかと非難する意見が寄せられたという。

「駆除数を増やすことは、一見逆効果に見える。それについては理解している。残念ながら、こうして実験的に減少させることしか有効な解決策が出てきていないため、苦しい状況だ。喜ばしい解決策とはいえない」

メーン州のヘラジカ猟では毎年、2000ー3000件発行される許可の抽選をめがけて、約5万人の応募が集まる。申請や許可にかかる手数料、観光業からの税収など、数百万ドルの収入が見込める。  

今秋出されたヘラジカの狩猟許可数は4000件以上だといい、この数字はカンター氏の研究室が科学的に算出して提言した数字に基づいているという。「ここでやっていることは、経済やお金の話とは全く関係ない」

カンター氏は、森に殺虫剤をまいたり、注射やカラーを装着させてヘラジカを治療したりするといった対応策は、広大な生息地域と、発見し捕獲する難しさを考慮すると現実的ではないと考えている。

「(ヘラジカは)家庭で飼われる犬ではないのだから」

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