[ワシントン 7日 ロイター] 米連邦準備理事会(FRB)のバーナンキ議長は7日、上下両院合同経済委員会で証言を行った。証言内容は以下の通り。
◎証言原稿
<米FRBが行動を起こす用意について>
欧州の政策担当者はこれまで数々の危機対策を実施してきたが、ユーロ圏の銀行の安定化、国家財政に対する市場の不安払しょく、実現可能なユーロ圏の財政的枠組みの達成、長期的な経済成長のための足場固めに向け、さらなる措置が必要になるとみられる。
先にも述べたように、米国の銀行は近年、財政基盤を格段に改善させてきた。とはいえ、欧州情勢が米国の金融システム、および経済に対する大幅なリスクとなっており、緊密な注視が必要だ。
これまで通り、金融上のストレスが増大した場合、米国の金融システムと経済を守るために、FRBには引き続き必要に応じて行動を起こす用意がある。
<労働市場の状況>
昨年の終わりごろから今年初めに確認された雇用の強い伸びは、リセッション(景気後退)のさなかとその後に実施された大幅な人員削減の反動が一因である可能性がある。
そうであれば、ここ数カ月に見られる雇用の伸び鈍化は、この反動局面がほぼ完了しつつあることを示している可能性がある。そのため、労働市場の著しい一段の改善には、経済活動のさらなる加速が求められる。
<経済見通し>
景気回復を阻害してきた一部の要因が依然根強く存在する。消費者や企業は引き続き、経済動向に対し慎重な見方を示している。例えば、複数の調査によると、消費者は依然、所得が比較的弱い伸びにとどまると予想し、経済状況の著しい改善は見込んでいない。同様に、欧州での動向や米財政政策、回復の強さと持続性をめぐる懸念によって、企業は拡張に消極的となっている。
<財政の崖>
いわゆる財政の崖と呼ばれる、現在の法律に盛り込まれている来年初めの急激な財政支出の削減は、実施された場合、(景気)回復に対する大きな脅威となる。
<消費>
個人消費の拡大は、比較的良好に維持されてきた。所得の伸びはかなり穏やかな状態が続いているものの、このところのエネルギー価格の下落により一部が相殺され、実質購買力が底上げされるとみられる。
◎質疑応答
<財政の崖が経済に及ぼす影響>
財政政策に関するわれわれの理解のすべてに基づくと、(成長に対し)非常に大きな短期的影響を及ぼすことが示唆されている。
経済への短期的な重荷にならないよう、分散させる努力を行い、財政支出の大幅な削減と増税が同時に行われる事態を避けるよう提言する。
<中国の経済成長鈍化>
一定の鈍化が見られている。緊密に注視したい。
<世界的な景気減速とデフレリスク>
明らかに欧州で(減速の)一定の兆しが表れている。中国はきょう利下げを決定し、一部の新興国でも幾分景気減速が見られる。このため世界的な景気減速の一定の兆候が確実に存在する。われわれはこれらの事象が米国にとりどの程度重要で、どのような影響が及ぶのか、検証しようとしている。
デフレリスクは、現時点ではかなり低いとみている。
現在、インフレ率は2%近辺で安定的に推移しているもようだ。特に商品(コモディティ)以外の価格、もしくはインフレ期待に着目すると、物価上昇率が低下しているとの兆候はそれほど出ていない。(デフレは)現時点では、われわれの懸念の重要事項とはなっていない。
<バランスの取れた財政赤字削減計画が必要>
短期的な措置のみを講じて長期的な取り組みを軽視したり、長期的な措置のみに取り組み短期的な問題を無視したりすることは望ましくなく、バランスの取れたプログラムが必要だ。
少なくとも短期的に回復腰折れを回避し、中期的に赤字を削減する信頼の置ける確固とした計画が必要で、これが最適な政策と考える。達成は極めて困難となるかもしれないが、基本的には最良の策となり得る。
<労働市場の見通し>
経済活動全般における成長が比較的精彩に欠いていることを踏まえると、昨夏から3月までの労働市場の改善ペースは実際、驚くほど力強いと言える。
リセッション期に過度の人員削減が行われ、その反動で雇用が大幅に増加した可能性がある。これが事実であれば、成長率が2─2.50%の潜在成長率付近にとどまれば、この先の失業率改善は限定的となる可能性がある。
<債務上限引き上げめぐる昨夏の混乱>
昨夏の債務上限引き上げをめぐる土壇場の混乱は金融市場と米経済に極めて大きな悪影響をもたらし、信頼感を著しく低下させた。
ぎりぎりまでもつれ込むことがないよう、十分余裕を持って合意するよう議会に求める。米国の財政を持続可能な基盤に乗せることは、議会の取り組みの中でおそらく最も重要な課題の一つだ。
<住宅市場>
住宅市場は安定しつつあるようだ。これが事実なら好ましいことで、今後は、回復に寄与すると思われる。
<住宅ローンの元本削減>
元本削減など住宅ローンの変更やその他差し押さえを回避する手段について、FRBに公式の見解はない。実際的な問題として、利用可能な財源に限りがあるならば、例えば、元本の削減よりも返済額を減らす方が効果的なケースがないか、検討するとよいのではないか。
検討するにあたり重要な問題が幾つかあると思われる。われわれは皆、不要な差し押さえの回避が住宅保有者を支援することに焦点を当てがちだが、こういった差し押さえの回避は、金融機関の損失を軽減し、住宅市場、ひいては経済全体を支援する。
<欧州に起因するリスク>
リスクは増大したり、低減したりした。危機はすでに2年以上継続しており、その間、危機の度合いが高い時期と低い時期が混在した。問題の収束に向け、欧州首脳が追加措置を導入することが重要となっている時期に、明らかにさしかかっている。
<これまでに実施された量的緩和策>
われわれの分析によると、これまでに実施された量的緩和プログラムは、金融状況の要件の緩和、金利低下、民間部門と公的部門の金利の差の縮小に効果があった。住宅ローン金利も低下したほか、株価が上昇し資産効果が高まった
こうしたことは、例えば2009年時点と比べるとそれほど影響力を持たないとの見方も一部では出ているが、われわれは、こうした措置は依然としてある程度の追加緩和と景気支援をもたらすと考えている。
<FRBは選択肢有する、議会の行動を要請>
金利が極めて低いことを認識しているが、FRBが追加緩和や景気下支えに向けた方策や手段を有していると考える。
仮に米経済が直面する主要な問題が金融緩和の欠如ではなく、他の要因に起因するとしても、FRBは有している手段を使い、支援を実施していく可能性がある。
これまでにも述べているが、金融政策は万能薬ではないと言明したい。多岐にわたる問題に対処する包括的な政策による対応がより望ましく、議会がFRBの負担を一部引き受け、問題に対処すれば、私は一段と安心できるだろう。
<次回のFOMC会合で緩和策が決定されるかとの質問に対して>
ここ数カ月で確認されている労働市場の弱さは、リセッション後に実施された大幅な人員削減の反動が終わりつつあることを反映している可能性がある。この分析が正しければ、今後失業率が改善を続けるには、経済成長率がトレンド、もしくはそれを上回る水準で推移する必要がある。そのため、失業率(の低下)で大きな成果を上げるのに十分な経済成長があるかどうかが最大の焦点となる。
われわれは引き続き、経済見通しに関する評価を行っており、次回会合後までに新たな経済見通しの用意が整う。
われわれが直面する主要な疑問は、労働市場における継続的な進展を維持するために十分な経済成長が得られるかということになる。
<ブッシュ減税と財政の崖について>
いわゆるブッシュ減税の期限切れは、「財政の崖」の最大の要因であり、その他の事項が一定と仮定すると、消費と経済成長に対し著しいマイナスの影響が及ぶ。