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〔焦点〕設備投資に慎重な日本の製造業、アベノミクスの期待に応えず

[草津市 8日 ロイター] - 稼働開始から45年という古い工場で、生産能力の20%アップをどう実現するか――。エアコン大手、ダイキン工業 滋賀製作所(滋賀県草津市)の小倉博敏・滋賀製造部長(53)は、そうした難題をさばく「工場オタク」を自認する。

今年度のエアコン生産は約120万台と前年度より2割ほど増やす計画。「お金を使わなくても、できることはたくさんある。必要なものは何でも、まず自分たちで作ってみる」。勤続33年、製造現場を熟知する小倉氏の持論だ。   同氏が取り組んできたのは、コストを切り詰め、生産能力を高める製造プロセスの徹底した効率化戦略。多くの作業工程を徐々に減らし、需要ピーク時に期間従業員を活用するなどという対策だけではない。生産ラインに自動で部品を供給する装置として、コストのかかる電動ではなく、重力で動く「からくり」ロボットも自社で作り上げてきた。   今年度は20%の増産に加え、エアコン1台当たりの生産時間を2013年度の5.6時間から1.63時間短縮する目標も掲げている。リーマンショック直後の2009年、生産が年80万台まで落ち込み、激しい円高で利益が出ない難局を乗り越えてきた小倉氏にとって、コストをかけない生産効率の改善は、日本の製造業が国際競争力を維持するための原点と映る。

<不透明な事業環境、大胆になれず>   ダイキン滋賀製作所が推進する「大型投資なき生産増強」。それが今、日本企業の中で大きな流れになりつつある。設備投資の拡大は安倍政権が押し進めるアベノミクス成長戦略の目標の一つ。しかし、政権側の期待とは裏腹に、企業側は不透明な事業環境を理由に工場への新規投資には慎重だ。   財務省の法人企業統計によると、日本企業の経常利益はリーマンショック前の07年度から直近の13年度にかけて11.1%増え、過去最大の59.6兆円に達した。アベノミクスによる円安や景気拡大の恩恵を受け、株価も反発し、日本の企業(3月期決算の上場企業)の手元資金は87兆円と豊富な投資余力が蓄えられている。   しかし、企業の資金力増大が日本国内での生産拡大などの積極的な設備投資につながる気配は見えていない。とりわけ、中小企業は消極姿勢だ。   日銀が1日発表した3月短観(企業短期経済観測調査)によると、中小製造業による設備投資は、14年度の前年度比6.2%増から一転、15年度は14.3%減になる見通し。ダイキンのような大企業製造業は5.0%増を計画しているものの、日本企業全体での設備投資はリーマンショック前の07年の水準を10%下回っている。   ダイキンの場合、株価はリーマンショックが起きた08年の低水準から4倍以上に伸びたが、大規模な設備投資を行う環境にはないという。09年のような円高と需要減少が今後また起こる懸念があるためだ。需要が少ない年ほど国内4工場の効率化が必要になる、と同社幹部は話す。   日本の製造業各社は、円安メリットを享受するため、中国などの海外拠点から国内に生産を回帰させているが、そうした動きも設備投資の拡大につながっているとは言い難い。例えば、キヤノン はカメラや事務機などの国内生産を増やす方針だが、もともと空いていた設備を使うため、新増設は伴わない。パナソニック も海外で生産するエアコンなどの国内生産をどこまで増やすかを検討中だが、あくまでも一時的な対応であり、積極的に設備投資をする計画はないという。

<政権の要請に事実上の拒否>   安倍晋三首相が推し進める日本再生策が機能するためには、国内経済が停滞とデフレの数十年から抜け出し、企業が進んで新規投資を続ける必要がある。しかし、多くのエコノミストは、安倍首相の就任から2年以上が経った今も、企業側は政権の要請を拒否し続けていると指摘する。   「政府や日銀は金融緩和をすれば設備投資はかなり押し上げられるという見込みを持っていたのだろうが、(その読みは)狂ったと思う」とニッセイ基礎研究所の斎藤太郎経済調査室長は話す。金利に加え、設備投資を決めるもう一つの要素である期待成長率が抑制の要因として強く効いているからだ。   「実質金利自体は金融緩和で下げられたが、それによる押し上げ効果は当初考えられたほどでなく、期待成長率が上がっていないということの方が大きい」と斎藤氏はみる。   日本製造業の生産戦略に大きな影響を与えるトヨタ自動車 。ダイキンにも生産指導を行っている同社は今年3月下旬、5年をかけて自動車の生産工程を抜本的に見直し、その成果や新しい生産技術を報道陣に披露した。   リーマンショック後に赤字転落した反省から、トヨタは13年度から3年にわたり工場新設を凍結し、既存工場の生産能力を最大限使い切るなど生産性向上を進めてきた。その結果、すでに工場稼働率は世界全体で90%超に達している。同社はさらに生産設備の小型化などを推進しており、その結果、今年は新車生産時の設備投資が08年当時に比べて約半分になるほか、18年以降に中国とメキシコで建設を予定している新工場の初期投資も08年度比で4割減らせるめどがつきつつある。   トヨタでは小規模で効率的な塗装工程、フレキシブルなロボット溶接システムなどが国内工場に導入されつつある。コストをかけずに生産力の質と規模を高めるという取り組みは世界の自動車業界の大きな潮流にもなっており、トヨタがめざす方向も、巨大投資による生産能力の拡大という過去の経営戦略からは一段と遠ざかっている。   日本企業が設備投資の拡大に慎重な姿勢を取り続ける中で、安倍政権がその流れを崩すことはかなり難しい、と伊藤忠経済研究所の武田淳主任研究員は話す。安倍政権では規制緩和や産業振興策を進めているが、そのペースは遅い。ほとんどの日本企業は国外に成長を見い出しており、基本的に需要地に近いところでの現地生産を進めている。   企業がいったん行った投資を回収するまでには5年、10年が必要だ。武田氏は「今後5年、10年先でも円高には戻らないという確信が持てないと、なかなか(設備投資は)やりづらい」と指摘する。「日本企業はリーマンショック後の円高で相当にダメージを受けてきた。それを考えると、思い切った投資に踏み切るのは簡単ではないだろう」。 (Kevin Krolicki、梶本哲史 取材協力:白木真紀 編集:北松克朗)

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