*企業側の申し出により、17日配信の記事中、世界の主要先進国で小売業に従事している労働者の割合を「10%以下」、日本を「12%」に訂正します。
[東京 17日 ロイター] 企業再生や合併・買収(M&A)のコンサルティングなどを手掛けるフロンティア・マネジメント(東京都千代田区)の松岡真宏代表は、日銀が目指す2年で2%の物価上昇について、達成時期はともかく、2%の物価上昇は十分に起こり得るとの見方を示した。小売業を中心とした証券アナリストから2003年に産業再生機構に転じ、カネボウやダイエーの再生支援を手掛けた同代表は、流通業界では仕入れコストや人件費、家賃などが上昇し、過剰な店舗や人員の解消につながると指摘。競争環境が緩和し、価格転嫁が進みやすくなるという。小売業は再編・淘汰によって大手に集約されることはなく、変化に対応できた企業が生き残るとみている。
インタビューの概要は以下の通り。
──日銀は2年で物価上昇率2%の達成を目指しているが、達成できるとみているか。
「物価上昇2%はできると思う。仕入れ価格が上昇し、販売などに必要な人件費も上がる。金利や家賃も上がり、この20年間で生まれた過剰な売り場面積が解消される過程が始まってくる。そうすると物価は上昇すると思う」
「2%上昇が2年でできるかどうかは分からない。正社員の人件費は1年に1回しか昇給しないため、ゆっくりにしか上がらない。家賃についても3年契約や5年契約をしており、急には上がらない。小売り業者にとってのコスト上昇は時間がかかる。ただ、3年や5年というタームで考えると、そういうコスト上昇は出てくるため、2%程度の物価上昇は起こると思う」
──スーパーなどを中心に、仕入れコストが上昇しても価格転嫁は難しいという声が多い。
「オイルなど加工度の低いものの仕入れ価格の上昇は、すでに始まっている。次は加工度の低いものを使った、加工度の高いものの仕入れ価格が上がってくるため、小売業者にとっての仕入れ価格上昇は続く。小売業者は価格転嫁できないと言うが、それは競争環境が変わらないことを前提にしているだけ。最低賃金の上昇も含め、生産コストや販売コストが上がってくると、維持できない売り場が閉鎖されていく。そうなると競争がなくなり、値上げが可能になる。20年間のデフレ下で、粗利益率が下がったGMS(総合スーパー)はない。粗利益を削って、価格を転嫁しないという選択はしないだろう」
「マクロでの論争は、産業での競争条件が変わることをあまり考えず、極めて貨幣的な話をしている。マネタリーポリシーが大事だと思っている人はインフレになると言うし、そうではないと思っている人は、資金供給を増やしても意味がないと言う。ただ、産業を見ている側からすると、必ず動きはあると思う」
──小売業で起こり得ることは、過剰な売り場の閉鎖ということか。
「世界の主要先進国で小売業に従事しているのは、全体の労働者の10%以下(訂正)。日本は12%(訂正)と高い。これだけの人員がなぜ商業に携われているかというと、1992年から始まった大店法緩和と超低金利で売り場が野放図に拡大してしまったから。この20年間で大型店の売り上げは20%しか増えていないが、売り場面積は2倍になっている。現状、3分の1の売り場は過剰だ。過剰な売り場の上に過剰な従業員がいるのが今の小売業だ。これが解消されると、モノの値段は上がると思う」
「(小売業者の間で)M&Aがあれば、隣接する両社の店舗のうち、どちらか良い方を残せばいい。そこに新しいスーパーが出てくると言う人がいるが、それは金利が低い時代のこと。金利が上がれば出店にも制約がかかる」
「2013年3月末に日経平均が1万2000円台で終わったことも大きい。銀行にとって、不良債権処理の原資ができた。この1年間でこのくらい不良債権処理で損が出せるという判断になり、低迷する企業の淘汰につながる。マネーが動いているという貨幣的な現象、マクロ経済的なものだけでなく、円安・株高で金融機関の行動パターンが変わり、流通業の行動パターンが変わるというダイナミクスを考えると、物価は上がり得る」
──こうした中で生き残るために、小売業にとって必要なことは何か。
「デフレ時には店舗を持っていると含み損を抱えたが、インフレ時には、店舗を持っている小売りが有利になる。含み益は本業に直接影響しないが、出店や人員削減には資金が必要になる。含み益で担保余力は増す。金融機関からどのように借り入れをできるかは、小売業にとって大きなことだ」
「大手が有利ということはない。大手でなくても、地方スーパーで利益率の高い企業はある。鉄鋼や化学のように、産業再編が起きて、大手に集約されるということにはならない。小売業にとっては、大きなことは良いことではない。大手になって仕入れ量を増やすと粗利益率は上がるが、大きな組織を運営するためのコストはかかるため、営業利益率は低下してくる。デフレもインフレもマーケットの変化はすべての小売業に平等だ。マーケットの変化に対応したところが強くなって残る」
──1980年代のバブル時のような消費につながるか。
「この20年間、物価を含めて下落することに慣れており、多少上がると違和感を持つが、先進国はこんなものだろう。マンションやゴルフ会員権の値段は上がるだろう。バブルと言えばそうだが、それが好景気。バブルやインフレがいけないと言っているのは、デフレで困らない人だけ。多くの人は、デフレ継続よりもバブルでも生活が潤ったほうが良いと思っているはずだ」
「これまでは、景気が悪くてデフレだったから高額品を買う余裕がなかった状態だが、これからは高額品を買う余裕も出てきますということ。だからと言って、低価格業態が悪くなるという話ではない。景気が良くなっても、全員が高級店に走るわけではない。余裕のある高齢者はある程度使うようになるかもしれないが、若者がそれほど高額消費に走るかといううと疑問だ」
(ロイターニュース 清水律子;編集 久保信博)