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再送:〔焦点〕UPREIT制度、米国で不動産活性化に実績 日本では利用促進の制度不可欠

*この記事は2日午後5時00分に配信しました。

 [東京 2日 ロイター] 国内の不動産市場活性化の一方策として、UPREIT(アップリート)と呼ばれる制度の導入に注目が集まっている。REIT(不動産投資信託)に不動産を現物出資する際、不動産譲渡益に対する課税を将来に繰り延べることを可能とする仕組みで、米国では導入をきっかけにREIT市場は40倍に拡大した。ただ日本では市場環境が異なるほか、事業会社など不動産所有者にはインセンティブが働きにくいとされることから、利用促進のための制度が不可欠と指摘されている。

 <J─REIT市場が6倍に拡大との試算も>

 バブルの後遺症が長引く日本の不動産市場を活性化させようと2001年に導入された日本版不動産投資信託、J─REITは徐々に規模を拡大させてきているが、時価総額は3.3兆円と依然として米国の10分の1以下だ。不動産投資市場全体では、日本は全世界の約10%と米国の約27%に次ぐ2番目であり、J─REITの低迷ぶりが目立っている。国土交通省が発表した7月1日時点の基準地価は全用途平均で前年比2.7%下落し、21年連続で前年割れ。東京、大阪、名古屋の3大都市圏では下落幅が縮小するなど不動産市況は底入れの兆しが見え始めているものの、資産デフレ脱却までの道のりは遠い。

 J─REIT市場の活性化策の一つとして注目されているのがUPREIT制度の導入だ。UPREITとは不動産所有者が所有する不動産を現物出資する際、不動産譲渡益に対する課税を将来に繰り延べることを可能とする仕組み。米国では、1992年に投資銀行がUPREITのスキームを創設したことをきっかけに、REIT市場の時価総額や流動性が飛躍的に向上した。米REIT市場の時価総額は1991年の129億ドルから現在では5000億ドル超と導入前に比べ40倍近くに拡大している。

 米国ではREITに現物出資した場合に課税されてしまうが、組合に現物出資すれば課税されないため、不動産所有者が組合に現物出資し、REITがその組合の持ち分を保有することで間接的に不動産をREIT化するというスキームを作り出した。2つの税制を一つの傘のもとに組み入れることがUPREIT(Umbrella Partnership REIT)の名前の由来となっている。

 現在、日本では任意組合への現物出資時に原則としてキャピタルゲイン課税が発生するうえ、REIT自体への現物出資も制度上できず、REIT市場に大型の優良物件が多数供給されない一因となっている。UPREIT制度を用いて現物出資が可能となり、課税が繰り延べられるといった税制上のメリットが生まれれば、大手不動産会社が保有する丸の内や大手町などに並ぶ優良物件をREITに現物出資するインセンティブにつながりやすいとの期待が大きい。

 流動性が向上すれば、個人投資家だけでなく、従来、不動産への投資を行っていなかった年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)など新たな大口投資家も参加しやすくなる。ゴールドマン・サックス証券・不動産アナリストの岡田さちこ氏によると、預かり資産で世界トップ20の年金基金の不動産への平均投資比率は3%強とされ、GPIFに当てはめれば、不動産およびJリート市場への投資金額は3─4兆円となる。

 日本の上場企業が保有する賃貸等不動産の時価は約36兆円。これらがUPREIT制度を通じてREITに組み込まれれば、REIT市場の時価総額が現在の3.3兆円から2020年には21兆円に拡大し、米国に次ぐ世界第2位のREIT市場になると岡田氏は話す。

 UPREIT制度の創設はREIT側にもメリットがある。現状のREITは、市場から調達した資金を基に不動産を購入・運用し、その収益を投資家に還元するというスキームが主体だが、UPREIT制度を活用すれば、REITは不動産を取得するために資金を用意することなく、現物出資した不動産所有者に対し投資証券を発行するだけで不動産を取得することが可能となる。既存投資家にとっては現値水準を下回る発行価格で投資証券が不動産所有者に発行されれば1株あたり価値が希薄化する可能性はあるが、取得する不動産が高収益物件であれば、将来的にはプラス寄与も期待できる。

 <不動産所有者への動機付け制度が不可欠>

 ただUPREIT制度を創設したとしても不動産所有者が現物出資しなければ「絵に描いた餅」となりかねない。米国との大きな違いは、日本は大手不動産会社が優良不動産を多く抱えること。国内の大手不動産会社が、自社に抱える優良不動産を現物出資するためのインセンティブが欠かせない。

 もともと未公開が多い米国の不動産会社に対し、国内の大手不動産会社はほとんどが上場を果たしており、エクイティ市場を用いた資金調達が可能なため、90年初頭の米国のように資金調達手段の多様化は特段必要ではない。また、大手不動産会社は保有する優良物件を担保に低金利の資金を調達しており、「UPREITを用いて保有不動産をREITに現物出資すると不動産担保としての資金借り入れが出来なくなる」(SMBC日興証券シニアアナリストの鳥井裕史氏)ことも阻害要因とみられている。

 不動産業界からは「UPREIT制度はあくまで譲渡益課税の繰り延べであり、免税ではない。不動産所有者からみれば、現物出資の対価として得られる出資持ち分を段階的に売却することで利益計上や課税のタイミングをコントロールする程度しかメリットがない」(三菱地所)との声が出ている。バブル崩壊後、事業会社が保有する不動産のオフバランス化が進んでいることから、含み益のある不動産がどの程度あるか不明なため、UPREIT制度が創設されてもそれほど利用が進まないとの指摘もある。

 現在、国土交通省、経済産業省、金融庁などで不動産市場の活性化に向けた新たな検討会の立ち上げを進めている。「2012年度中にも何かしらの結論を出したい」(国土交通省・土地・建設産業局の池田真氏)という。REITの自己投資口取得やライツ・オファリング、インサイダー取引規制の導入などとともにUPREIT制度の採用についても検討される見通しだ。資産デフレ脱却に向け前進できるような制度づくりが求められている。

 (ロイターニュース 杉山容俊 編集:伊賀大記)

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