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COLUMN-〔インサイト〕成長目標を7%に抑える中国の新5カ年計画=野村資本市場研 関氏

 3月5日に開幕した中国の全国人民代表大会(全人代)では、温家宝首相の「政府活動報告」において、第12次5カ年計画の詳細が発表された。その中で、今後5年の中国の経済成長の目標は7%と定められている。これは、前回の第11次5カ年計画(2006年─2010年)の当初目標である7.5%と実績である11.2%のいずれをも下回っている。成長目標が控え目の水準に設定される背景には、経済の量的拡大から質の改善を目指すという政府の発展戦略の転換に加え、人口の高齢化が進み、労働力が過剰から不足に向かう中で潜在成長率が低下すると予想されることがある。

  <経済の量的拡大よりも質の向上を追求>

 これまで中国では、経済が高成長を遂げてきた半面、所得の格差が拡大し、環境問題が深刻化してきた。「調和の取れた社会」を目指す政府にとって、格差の是正と環境の改善は最優先課題となってきた。これらの目標を達成するために、ある程度の成長率の低下は容認せざるを得ない。

 格差の是正に向けて、第12次5カ年計画において、所得を経済成長率以上のペースで増加させ、国民所得の分配における住民所得のウエートを高めることに加えて、医療保険基金の支給水準を70%以上まで引き上げることや、低・中所得者向け住宅の都市部における普及率を20%程度とすることなどが目標として掲げられている。そのために、より多くの財政資金を貧困救済や、国民生活向上を目的とする公共サービスに割り当てなければならず、経済成長に直接寄与するインフラといった産業の発展のための公共投資を抑えざるを得ない。

 その上、所得格差の是正は、短期的には消費を拡大させる効果があるが、中長期の成長性にはむしろマイナスである。これまで、格差の拡大は、需要の面では消費を抑える一方、供給の面では貯蓄、ひいては投資の拡大を通じて成長率を押し上げてきた。なぜなら、消費性向(所得に占める消費の割合)は、高所得層(たとえば、資本家)ほど低く、低所得層(たとえば、労働者)ほど高くなるのに対して、貯蓄性向(所得に占める貯蓄の割合)は、逆だからである。所得が高所得層に集中することは、全体の消費性向を低下させる一方で、貯蓄率を高めることを通じて投資のために豊富な資金を提供している。しかし、格差が縮小に転じれば、国全体の消費性向が上昇するが、貯蓄率が逆に低下し、投資の伸びが抑えられる形で成長率は低下すると予想される。

 一方、第11次5カ年計画に続き、第12次5カ年計画においても、省エネ・環境保護は、重要課題と位置づけられている。具体的に、2015年までに単位GDP当たりのエネルギー消費量と二酸化炭素(CO2)排出量をそれぞれ16%と17%削減することなどが目標として示された。これらを達成するためには、企業は、投資資金を生産規模の拡大よりも、省エネ・環境保護対策に回さなければならず、その結果、投資効率の低下は避けられない。

  <労働市場の変化で低下する潜在成長率>

 発展戦略の転換に加え、労働市場の変化も、中国の潜在成長率の低下をもたらすだろう。

 中国は、人口が多く耕地が少ないため、食糧問題を解決するために、1970年代以降に、人口抑制政策を採るようになった。その一環として、1980年には一人っ子政策が導入された。当初、少子化が高齢化より先行する形で、生産年齢人口の比重が上昇することにより、経済成長に有利に働く「人口ボーナス」が発生した。しかし、ここにきて、高齢化の足音も聞こえ始めており、生産年齢人口の比重が低下に転じる時期が迫ってきている。

 国連の予測では、60歳以上の人口の比重が2010年の12.3%から、2020年には16.7%、2030年には23.4%に上昇するとされている。反対に、年少人口の比重の低下が鈍ってくることから、生産年齢人口の比重は2010年頃にピークを迎えた後、低下傾向に転換し始める。また、中国の総人口は2030年頃から減少に転じると予測されるが、生産年齢人口の伸びは、それよりも早い2015年頃からマイナスに転じると予想される。

 その上、農村部門における過剰労働力が解消されつつあり、労働者を募集してもなかなか集まらない「民工荒」(出稼ぎ労働者不足)という現象は、2004年頃からすでに表面化し始めた。これは、2008年9月のリーマン・ショックを受けて一時緩和されたものの、2009年夏以降、景気回復とともに、再び顕著になっており、これを背景に、賃金の上昇も加速している。

 このような人口構造と労働市場の変化は、中国が発展過程における完全雇用の達成を意味する「ルイス転換点」にさしかかっていることを示唆している。これにより、今後の経済成長は次の2つの面において制約を受けることになる。まず、生産年齢人口の減少と過剰労働力の解消は、労働人口、ひいては労働投入量の減少を意味する。そのうえ、人口の高齢化は、貯蓄率の低下に結びつく可能性が高い。貯蓄率の低下は投資に向ける資金の減少につながるため、間接的に経済成長率を押し下げる要因として働くだろう。その結果、中国経済がこれまで享受してきた年率10%の高成長を維持していくことは、極めて困難になってきた。

  <今後も続く先進国を大幅に上回る高成長>

 もっとも、中国は、一人当たりGDPがまだ中所得国の水準にとどまっており、後発性のメリットが発揮できれば、今後も長期にわたって、先進国を大幅に上回る成長率が達成できる。具体的に、海外から安いコストで技術を導入できる上、資源を生産性の低い部門(例えば、農業部門)から生産性の高い部門(例えば、工業部門)に移していくこと(産業の高度化)を通じて生産性を高めることもできる。これを考慮すると、中国経済の今後5年間の成長率は、これまでの実績には及ばないものの、政府の目標を上回る9%程度に達すると予想される。

 関志雄 野村資本市場研究所 シニアフェロー

 (9日 東京)

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