G7各国が協調して為替介入に踏み切ったのは、日本発で世界同時株安を引き起こしかねない状況に、歯止めをかけるのが最大の狙いだった。中国など新興国の台頭で世界のパワーバランスが大きく変化する中、久しぶりに表舞台に立ったG7会合では、18日朝の電話会談直前まで意見の集約が難航。しかし、歴史的な大震災や原発事故にあえぐ日本の苦境に対し、G7が危機を共有して事態打開に取り組む姿勢を明確にした意味は小さくない。10年半ぶりに足並みが揃ったのは、円高・株安の連鎖に対する強い危機感の現れといえる。
東日本大震災の発生から4日後の15日。各国当局者が目を疑ったのは日経平均の大幅な下落だった。日中に値を戻す場面もあったが、引けてみれば1000円超の下げ幅で、下落率も過去3番目。株安の波は海外にも連鎖し、欧州市場ではFTSEユーロファースト300種指数が5カ月ぶり安値へ急落した。翌16日も日経平均こそ反発したものの、米国ではダウ工業株30種が7カ月ぶりの下落率を記録。ある財務省幹部は、こうした世界的な株価の大幅下落がG7協調のきっかけになったと認めている。
しかし、10年半ぶりの協調合意はスムーズに進んだわけではなかった。電話会議前日の17日、財務省には深夜まで幹部が居残り、水面下で各国とぎりぎりの折衝を続けた。五十嵐文彦財務副大臣もG7の協調行動を声明で明確に打ち出せるか、電話会議直前まで明確ではなかったと明かす。事態を打開したのは「野田佳彦財務相の強いイニシアティブ」で、結束のキーワードになったのは「投機」だ。
世界的に株価が不安定な動きを続ける中、市場の揺らぎは為替市場を直撃。17日早朝の取引でドルは一時76円台まで急落し、円は史上最高値を一気に3円更新した。「為替と株を組み合わせた商品を保有する投資家が日経平均の急落で手仕舞いを迫られ、円を相次ぎ買い戻した」(外銀関係者)ことなどに加え、円売り/外貨買いを仕掛けることの多い個人投資家が損失確定の円買い戻しを迫られるポイントを狙い、投機筋がいっせいに円を買い仕掛けたことが主因になったという。
「災害、原発事故の後で先行き見通しが不安定になり、とりあえず売っておこうとの動きが出るのは、市場として普通のこと」(与謝野馨経済財政担当相)ではあるものの、急速に進む円高と株安の実体は「投機」ではないか――。政府は、市場で円高の背景と指摘されていた国内投資家のリパトリエーション(資金の本国還流)の実体を調べるため、同日に国内主要企業に異例の緊急調査を実施。「日本企業が円資産を買い戻していることはない」(池田元久・経済産業副大臣)姿も次第に浮かび上がった。
五十嵐財務副大臣は18日夕方、ロイターとのインタビューで、76円台まで急激に進行した円高は「投機だ」として「人の不幸につけ込んで投機を仕掛けることに屈したのでは、日本経済ばかりでなく世界経済全体にとっても害悪になると、日本も各国も判断した」と、G7緊急会合の裏側を披露した。
G7電話会談の終了後、会見に臨んだ野田財務相の声は高揚感からか、いつになく上ずった。取りまとめまでの曲折やG7の結束を公表できた安堵感、あるいはG7各国の「友情」に対する思いが込み上げたのではないか。財務相周辺はそう察した。野田財務相はその後の会見で10年半ぶりのG7協調介入を「友情ある協調」と呼び、G7各国に感謝を伝えた。
(東京 18日 ロイター)
(ロイターニュース 基太村真司、吉川裕子 編集:伊藤純夫)