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再送:〔アングル〕消費増税に「経済」「政局」など3つの壁、年内とりまとめへ正念場

*この記事は28日午後8時43分に配信しました。

 [東京 28日 ロイター] 消費税引き上げ論議が本格化している。野田佳彦首相は年内に税率と増税時期などの具体案を大綱にまとめ、来年3月までに関係法案を国会に提出する段取りを描くが、年内の大綱とりまとめにこだわらないとの声が閣内からも飛び出すなど、政府・与党内に方針の揺らぎがみえる。消費税引き上げの前提となる経済情勢は欧州債務問題を契機に先行き不透明感が増しており、国と地方の配分をめぐる協議も難航が予想される。経済、政局、そして国と地方の配分という3つのハードルは高く、野田政権は正念場を迎えている。

  <デフレの壁>

 消費税率引き上げの幅と時期をめぐっては、五十嵐文彦財務副大臣が、衆議院議員任期満了後の2013年10月以降に2段階の引き上げを指摘。7、8%に引き上げた後、2015年4月か10月に10%まで引き上げるシナリオを示した。任期中は消費税を上げないとする民主党公約にも沿う現実的なシナリオだが、政府が描くこのシナリオに逆風が吹いている。

 政府・与党が6月に一体改革案を決めた後の日本経済は、欧州債務問題を契機に先行き不透明感が強まっている。日銀が10月27日に発表した「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)では、2013年度の実質国内総生産(GDP)の成長率見通しの中央値はプラス1.5%となり、12年度のプラス2.2%から鈍化すると見通した。

 一体改革案では消費増税の条件に「デフレ脱却と経済活性化に向けた取り組みを通じて経済状況を好転させること」を挙げており、「経済状況の好転」をめぐって論争が再燃するのは必至の情勢だ。

 とりわけ、デフレ下での消費税上げを問題視する議員は、13年10月以降の消費税上げの議論に批判的だ。政府は新成長戦略で「2011年度中に消費者物価上昇率をプラスにするとともに、速やかに安定的な物価上昇を実現し、デフレを終結させることを目指す」ことを閣議決定した。にもかかわらず、足元の情勢はデフレ脱却とはほど遠い。

 金子洋一・参議院議員(デフレ脱却議連事務局長)は政府の消費税上げの議論は拙速で「納得いかない」と反論。「経済の立て直しが先決だ」と主張する。「経済状況の好転」を示す明確な指標として、「消費者物価上昇率が安定的に2%で推移すること」など、具体的な数値目標の盛り込みを求めている。

 これに対して政府は、数値目標化することで判断が硬直化することに難色を示している。景気情勢に配慮した「弾力条項」を盛り込み、増税慎重派への配慮を示す方向だが、欧州危機の高まりとともに調整は難航しそうだ。

  <国・地方の配分の壁>

 2つめの課題が国と地方の配分をめぐる問題。11月に開かれた「国と地方の協議の場」でも、地方側は、地方独自の社会保障事業費総額が6.2兆円にのぼるとの試算を紹介し、増税する際には国の社会保障制度を補完するこれらの費用をまかなうために、地方に一定の配分をするよう求めた。政府側は、既に地方交付税の財源の一部として消費税増収を充てており、増税時の配分拡大には難色を示しているが、国と地方の配分をめぐる熱い論争は既に始まっている。

 消費税5%のうち、現在は1%分が地方消費税として地方に配分されている。国の税収のうち交付税で地方に回す分も加えると、実際は消費税収の56%が国分で、44%が地方財源となっている。6月の一体改革案で増税分の税収配分について判断を先送りしたツケが、大きな課題として残されている。

  <政局の壁>

 3つめの壁が与党内の根強い反対論。連立を組む国民新党は新党構想も視野に、民主党執行部をけん制。民主党最大勢力を率いる小沢一郎元代表が反対を明言していることも、増税反対派を勢いづかせている。安住淳財務相が「次の選挙がおっかないのか、本当に別の理由なのか、それぞれの議員が問われる」とけん制するほどだ。

 しかし、社会保障制度の維持・機能強化のために「2010年代半ばまでに消費税率を段階的に10%に引き上げる」ことは、政府・与党の合意事項。議論を逆戻りさせる動きには、野党側からは不信の声が出ており、与野党協議の行方にも影を落としている。自民党の谷垣禎一総裁は24日の記者会見で、消費税の与野党対立の中から政界再編が進む可能性について「民主党が割れるということはあり得るかも知れない。現状を見るとあってしかるべきではないかとも思わないではない」と踏み込んだ。

 こうした与党内事情を優先し、野田政権は、早々と、大綱の閣議決定を来年に見送る方針を固めた。閣内からは、社会保障・税一体改革担当を兼務する古川元久経済財政担当相が、消費税引き上げの幅や時期の決定は、年内にこだわるものでない、と述べるなど、弱気の発言も目立つ。

 政府・民主党は12月9日までに来年度の税制改正をまとめ、消費税を含む抜本税制改革の検討を本格化させる予定だ。前提となる社会保障制度の制度設計も遅れており、検討作業は容易ではない。

 安住財務相は25日の会見で「無駄削減はもちろんやるが、消費税を上げさせていただかない限り年金・医療・介護の安定性は担保できない。これに答えなければ、逆に経済成長や国民生活の安定の土台を崩しかねないとの危機感をもっている」と警鐘を鳴らすが、消費税引き上げに向けた3つの壁をクリアする展望は開けていない。

 経済協力開発機構(OECD)は28日に公表したエコノミックアウトルックで、日本に対して、財政健全化の遅れと公的債務残高比率の継続的な上昇が長期金利高騰のリスクを高めると警告。財政健全化目標達成のために「詳細かつ信認のおける」財政健全化計画の策定が最優先事項だとの認識を示した。

 (ロイターニュース 吉川 裕子:編集 石田仁志)

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