June 7, 2019 / 1:58 AM / 18 days ago

焦点:銀より高いバニラ、業界揺るがす価格高騰の「裏事情」

[シカゴ/アンタナナリボ(マダガスカル) 3日 ロイター] - 1キロのバニラは、1キロの銀よりも高価だ。ラン科バニラという植物を何年もかけて丁寧に栽培して収穫されるバニラは、サフランに次ぐ世界で2番目に高価なスパイスだ。

6月3日、1キロのバニラは、1キロの銀よりも高価だ。写真は収穫されたバニラのさや。マダガスカル・サバ地区の農園で2018年7月撮影(2019年 ロイター/Clarel Faniry Rasoanaivo)

この5年足らずで、バニラの卸売価格は500%近く上昇している。世界的に高まる健康的な天然原料への需要が背景にある。

だが、供給面で問題もある。産地マダガスカルは近年、サイクロンや干ばつ、さらには盗難の被害に見舞われており、バニラの質や生産量が落ちているのだ。アフリカ大陸沖のインド洋に位置するマダガスカルは、世界のバニラの約8割を生産している。

調味料の世界最大手マコーミック(MKC.N)にとって、バニラ不足は無視するには大きすぎるリスクであり、インドネシアのパプア州北部を代替の生産地に育てようと栽培に取り組み始めた。小売業者や飲食店、メーカーにバニラを販売しているマコーミックは、コスト上昇分をバイヤーに転嫁していると語る。

基準となるマダガスカル産の黒バニラビーンズVAN-MG-BNS1キロの価格は、520ドル(約5万6000円)程度だ。サイクロン被害を受けた2017年の過去最高価格1キロ635ドルには及ばないが、2015年初めに記録した同87.50ドルから急上昇している。

2017年と18年に連続して受けたサイクロン被害で、「確実にコストを圧迫した」と、スイスの食品大手ネスレ(NESN.S)米法人のスティーブ・プレスリー最高経営責任者(CEO)はロイターに語った。

同CEOによると、ネスレは2017年、バニラの価格高騰もあって、米国で販売しているアイスクリーム製品を値上げした。ネスレが製造する「ハーゲンダッツ」や「エディーズ」、「スキニーカウ」などのブランドのアイスクリームは、天然のバニラ香料やバニラビーンズを使用とパッケージに書いてある。

米国外でのハーゲンダッツ販売や、同ブランド店舗を世界で手掛ける米食品大手ゼネラル・ミルズ(GIS.N)は、バニラ価格上昇で製品価格も上昇していると話す。

マコーミックの調達部門のディレクターを務めるドナルド・プラット氏は、供給問題への取り組みとしてインドネシアに注目していると話す。

とはいえ、それを成功させるのは、簡単ではなさそうだ。インドネシアの年間バニラビーンズの生産量は約100トン程度にすぎず、マダガスカルの2000トンには遠く及ばない、とプラット氏は言う。

他社もマダガスカルに次ぐ生産地を開発しようと試みたが、成功していない。「ベン&ジェリーズ」ブランドのアイスクリームを製造する英蘭日用品大手のユニリーバ(ULVR.L)は、ウガンダでのバニラ栽培に多額の資金を投じたが、失敗に終わった。

<バニラの「ダークサイド」>

「グリーン・ゴールド(緑の金)」と呼ばれることもあるバニラの需要は極めて高く、盗難や殺人事件も起きている。

「バニラのダークな側面だ。スイートなものなので、あまり知られていないけれど」と、ベン&ジェリーズ事業に携わるシェリル・ピント氏は言う。同社はほとんどのアイスクリームに加え、クッキー生地などにもバニラを使っているという。

ピント氏は、「社会的使命」を持って同社のサプライチェーンを任されているという。

ウガンダではバニラの収穫を守るため、「農夫は夜、畑で眠る。殺人や暴力事件が起きたこともある。ひどいものだ」と、彼女は言う。

バニラを窃盗から守るための手製の銃を手にするマダガスカルの農家の男性。2018年7月撮影(2019年 ロイター/Clarel Faniry Rasoanaivo)

ウガンダ政府は今月、収穫期日を設定した際に、価格高騰で「盗難や人命の損失」が起きていると訴えた。

暴力は双方向で発生している。ロイターは昨年、マダガスカルの生産者が、取り押さえた窃盗容疑者に暴行して死亡させた事件を報じている。

バニラが貴重なのは、生産に多大な手間がかかるからだ。

新芽が花をつけるまでに3─4年かかるほか、受粉できるのは年間数日だけで、夜明け前の4時間に手で行わなければならない。開花から出荷までは平均して16─18カ月必要で、600輪の花を手作業で受粉しても、乾燥バニラビーンズは1キロしか取れない。

芽が花を付けるには、土台となり日陰を提供してくれる木に根を絡ませなければならない。また生産地は、赤道付近に限られる。

マコーミックが扱う「バーボンバニラ」が、世界で最も人気があるという。古くはメキシコで栽培されたが、この100年余りで、マダガスカルにおいて、そのほとんどが生産されるようになった。他所の農家は、時間がかかりデリケートなバニラ栽培は、不確実性や価格変動を考えれば割に合わないと考えたからだ。

プラット氏は、インドネシアでどの程度生産すれば市場価格が鎮静に向かうのか分からないという。

マダガスカルでバニラ輸出を手掛けるタムフンマン・トンボ氏は、他の産地では十分な生産はできないとみている。

「30年以上バニラの仕事をしているが、これまでもバイヤーが他の産地を探している、他国の生産者と協力を始める、などと聞かされてきた」とトンボ氏は語る。「その手の揺さぶりには慣れているので、あまり怖くない。インドネシアでは、マダガスカルほど良質のバニラは取れないだろう」と付け加えた。

短期間で生産量を増やそうと、マコーミックはパプア州の農業コミュニティで研修を強化している。消費者が慣れ親しんだマダガスカル産に匹敵する品質のバニラを生産するために、マコーミックは、土壌や水の管理方法を一部変更した。

マコーミックは、2017年にマダガスカルにおけるバニラ収穫の約3割がサイクロン被害を受けた後、市場の復旧に尽力した非政府組織CAREと協力している。同組織は、マダガスカルのほかインドネシアで生産者向けの栽培や管理方法のほか、金融知識を教える研修を行う組織を設立。生産は、女性が担っていることも多い。

CAREは、インドネシアのほかウガンダやタンザニアなども代替生産地として提言したと、CARE農業市場システム部門の副ディレクターを務めるエリー・カガンジ氏は言う。

ベン&ジェリーズのウガンダでの取り組みが失敗に終わった理由は、政府が決めた収穫日の前に、主に中国のバイヤーが「村に大量の現金を持って現れた」からだ、と前出のピント氏は指摘する。

「ウガンダからは、全くバニラを得ることができなかった」と同氏は話した。

ベン&ジェリーズでは、バニラ価格の上昇分は価格に転嫁しておらず、コストを吸収することで競争力を維持することを選んだとしている。だが、他メーカーのバニラ含有製品は、コーヒー用甘味料やヨーグルトからエッセンスに至るまで、小売価格が上昇を続けている。

コンサルティング会社グローバルデータによると、マコーミック製の約60ミリリットルの瓶入りバニラエッセンスの価格は、5月30日時点で、米小売り大手ウォルマートのサイトで8ドル12セント。2015年5月時点の5ドル94セントから上昇しているという。

「バニラはこれまでずっと、店頭には必ずあるありふれた商品だった」と、グローバルデータを率いるニール・サンダース氏は言う。

「消費者は価格上昇に驚くだろうが、アマゾンからウォルマートまですべてが価格を引き上げている時に、何ができるだろうか」

(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)

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