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アングル:牛のメタンガス排出削減へ、アイルランド「海藻作戦」

[アセンリー(アイルランド) 17日 ロイター] - アイルランドの西海岸に、海藻を求める科学者らが訪れている。海藻を牛の飼料に混ぜることで、牛が温室効果ガスの1つであるメタンを吐き出す量を抑えられる、との研究結果が示されたからだ。

 11月17日、アイルランドの西海岸に、海藻を求める科学者らが訪れている。写真はメタン量の測定装置から牛を出す研究者。アイルランド・アセンリーで9月撮影(2021年 ロイター/Clodagh Kilcoyne)

プロジェクトの音頭を取るのは、国の農業組織。同国では数百年の歴史を持つ海藻収穫産業が復活、拡大して新たな市場を求めており、手を組もうというわけだ。

しかし、こうした技術が進めば畜牛数を減らす取り組みが棚上げにされかねない、との懸念も出ている。アイルランドは人口1人当たりのメタン排出量が欧州最大で、約束した2030年までの削減を果たすためには畜牛数の縮小も必要だ。

これまでに約20種類の海藻が科学者らによって試されており、その大半が、風の強いアイルランドの大西洋岸で収穫された。プロジェクトのパートナーであるノルウェー、カナダ、スウェーデン、ドイツ、英国でも数十種類が採取されている。

米国とオーストラリアの研究では、既に「カギケノリ」という紅藻を飼料に少量混ぜるとメタン排出を劇的に減らせる成果が示された。ただ、この海藻はまだ生産拡大に成功していない上、欧州北西部では育ちにくい。

アイルランドのプロジェクトは、地元で豊富に自生する海藻の中から、カギケノリに代わるものを見つけるのが狙いだ。ただ、研究者らは、カギケノリで示された80%超のメタン削減効果には及びそうにない、と認めている。

このシーソリューションズ・プロジェクトの代表者、マリア・ヘイズ氏は「非常に有望な褐藻を見つけ、成果が出ている」とし、初期の試験で11─20%のメタン削減効果が示されたと説明した。「特効薬とはいかないが、排出量を大幅に減らせる」という。

アイルランドの畜産システムは牧草飼育が圧倒的に主流であり、そこに飼料添加物をどう組み込むかも研究課題だ。

ベルファスト南西部のヒルズバラ農場では、研究者らが餌を使って牛をおびき寄せ、息に含まれるメタン量の測定装置に頭を突っ込むよう導く光景が見られる。次に海藻由来の添加物を使い、同じ試験を繰り返すのだという。

<政治家は前のめり>

こうした技術は、農業団体や政治家の心をつかんでいる。温室効果ガス削減の目標を達成するために、必ずしもアイルランドの農業セクターを縮小する必要はないと、彼らは訴える。

アイルランドの畜牛数は過去10年間で10%以上増えて740万頭となり、牛肉と乳製品の輸出は欧州最大級。クライメート・ウォッチのデータベースによると、人口1人当たりのメタン排出量は欧州連合(EU)最大だ。

メタンは無色無臭で、集積された廃棄物や石油・天然ガス施設のほか、牛や羊の消化器系から排出され、二酸化炭素(CO2)よりも温室効果が高い。

アイルランドは今月開かれた国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)で、世界のメタン排出量を2020年から2030年にかけて30%削減する約束に署名した。

だが、政府閣僚らは、農業部門での2030年までのメタン排出削減は10%にとどめ、非農業部門での50%削減を軸に目標を達成すると主張している。

家畜数を減らさずに排出を抑制する方法として、閣僚らが指摘するのが海藻由来の飼料添加物だ。この他、畜牛の平均とさつ年齢引き下げや遺伝子研究も解決策に挙げている。

メタン排出効果のある海藻以外の飼料添加物を提供している化学メーカーもある。

しかし、こうした技術によって目標を達成できることに、だれもが納得しているわけではない。

ダブリン市大学の気候政策・環境政治講師、サダブ・オニール氏は「解決手段の規模拡大には時間がかかる。われわれには時間がない」と言う。同氏は、業界がアイルランドの農業モデルを持続可能なものにするのではなく、技術に頼っていると声高に批判している。

<海藻産業の未来>

アイルランドでは海藻収穫者らのネットワークが、古く5世紀の修道院文書にも記載がある伝統の復活に取り組んでいる。研究者らはこのネットワークの協力を得てきた。

とは言え、研究が成功したとしても、収穫を拡大する計画はない。

一部の収穫者は既にオーガニック食品や化粧品市場に海藻を提供して利益を得ており、飼料添加物向けの供給でそれに見合うだけの実入りがあるかを疑問視している。

ワイルド・アイリッシュ・シーウィーズのエバン・タルティ社長は「既に巨大な市場になっている。海藻は絶好調だ」とし、飼料添加物市場は「わが社のレーダーにひっかかっていない」と語る。タルティ氏は祖父の海藻収穫技術を復活させ、食品や化粧品向けの供給に特化している。

一方、飼料添加物市場に期待を抱く関係者もいる。

小規模な海藻手摘みを手掛けるジェニー・オハロラン氏は「だれもが注目している。海藻の養殖こそが、この産業の未来かもしれない。養殖の話抜きにアイルランドの海藻の未来は語れないと思う」と話した。

(Clodagh Kilcoyne記者、Conor Humphries記者)

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