for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up

フォトログ:マヤ観光鉄道建設、格差是正と環境保護でジレンマ

[メキシコ市 4日 ロイター] - メキシコ南部、人里離れた密林には、古代マヤ文明の時代からほぼ変わらぬ一角が残っている。

新設されるマヤ観光鉄道の第4工区で樹木を伐採する労働者。チェマクス、ヌエボ・スカン近郊。2022年3月3日撮影(2023年 ロイター/Jose Luis Gonzalez)

ロペスオブラドール大統領の政権が建設を進めている鉄道「マヤ観光鉄道(マヤ・トレイン)」によって、これまで何世代にもわたって大きな経済的利益を得られずにいた地域が、ようやく現代社会に結びつけられる――これが同大統領の思惑だ。

だが、多くの科学者や環境保護活動家は、この鉄道路線が性急に建設されることで、手つかずの自然や密林の地底に太古からひそむ洞窟群が深刻な危機にさらされると指摘している。

新設されるマヤ観光鉄道の第4工区で樹木を伐採する労働者。チェマクス、ヌエボ・スカン近郊。2022年3月3日撮影(2023年 ロイター/Jose Luis Gonzalez)

カラクムル生物圏保護区に近い何百万羽ものコウモリが生息する洞窟で観光ガイドを務めるイスマエル・ララ氏は、「(鉄道は)密林を真っ二つに分断してしまう」と語る。ララ氏は、この近くを通過する予定のマヤ観光鉄道により、野生動物の行動経路が乱され、脆弱な生態系のもとで過剰な開発が行われるようになるのではないかと懸念する。

ロイターはほぼ1年にわたり、建設予定路線全体にわたる複数の地点で建設状況を写真に収め、ロペスオブラドール政権が2023年末までに完成させると公約している看板プロジェクトの進捗を記録した。

キンタナロー州ソリダリダードで、マヤ観光鉄道第5工区建設のために切り開かれた森林の縁に建つ家。2022年11月6日撮影(2023年 ロイター/Jose Luis Gonzalez)

路線の全長は1470キロ。ユカタン半島を横断してディーゼル機関車や電車が牽引する列車を走らせ、メキシコ随一の観光地であるカンクンと古代マヤ文明の遺跡チチェン・イッツァやパレンケを結ぶ。

この建設計画をめぐる議論は、世界各地の開発途上国が直面する「経済発展と環境に対する責任のバランス」という難問の好例となっている。

カンペチェ州カラクムルで、カラクムル生物圏保護区にあるコウモリが生息する洞窟を訪れる前に、観光客にエリアマップを示すイスマエル・ララ氏。2022年11月8日撮影(2023年 ロイター/Jose Luis Gonzalez)

プロジェクトを主管しているメキシコの国家観光振興基金(FONATUR)は、この路線によって2030年までに100万人以上が貧困から脱出し、最大71万5000人の雇用が創出されると述べている。ロペスオブラドール大統領は7月、建設コストは最大200億ドル(約2兆6000万円)になるとの予想を示した。

だが、同プロジェクトはすでに数十億ドルも予算を超過し、スケジュールも遅れているため、科学者や環境保護活動家は、政府がロペスオブラドール大統領の在任中に工事を完了させようとして環境影響調査を簡略化していると指摘する。

カンペチェ州テナボで、未完成の自宅の脇を歩くグメルシンド・マルチネスさん(68)。これまで暮らしていた家は、マヤ観光鉄道第2工区建設のために取り壊された。2022年5月14日撮影。(2023年 ロイター/Jose Luis Gonzalez)

国連の専門家は12月、この建設計画は国家安全保障プロジェクトとして認定されているために、政府が通常の環境保護措置を省略できるようになっていると警告し、ロペスオブラドール政権に、グローバルスタンダードに沿った環境保護を求めた。

FONATURは、環境影響調査のペースは適切であると主張している。FONATURはロイターからの質問に対し、「調査に何年もかける必要はない。必要なのは専門能力、知識、統合する能力だ」と回答した。国連の声明については回答を控えるとしている。

マヤ観光鉄道第7工区の建設現場近くにあるカラクムル生物圏保護区にある洞窟から飛び立つコウモリ。2022年11月8日撮影(2023年 ロイター/Jose Luis Gonzalez)

<危惧される「セノーテ」>

マヤ観光鉄道は世界有数の特徴ある生態系の中を14メートルの幅で貫いていくため、ジャガーやコウモリといった脆弱な生物種に現代社会が接近することになる。

またこの路線は、この地域の軟弱な石灰岩盤に形成された数千の地下洞窟群の上を通過する。

ユカタン半島には、石灰岩の地表が陥没して地下水が露出するようになった「セノーテ」と呼ばれる透明度の高い泉が散在している。洞窟群には、知られている限りで世界最長の地下河川が流れ、古代人の遺骨や、1000年以上も前のものと推定されるカヌーなどマヤ文明の遺物が発見されている。

キンタナ・ロー州プラヤ・デル・カルメンで、ヨロガナ洞窟を調査する環境保護活動家クリスティナ・ノラスコ氏(32)。この洞窟にはマヤ観光鉄道建設による影響が現れているという。2022年11月6日撮影(2023年 ロイター/Jose Luis Gonzalez)

この地域の洞窟やセノーテについて広範な調査を行っているノースウェスタン大学のメキシコ人地球化学者エミリアノ・モンロイリオス氏は、建設が適切に行われなかった場合、鉄道が脆い土壌を突き破ってしまうリスクがあり、その下にある未探査の洞窟まで破壊してしまうかもしれないと語る。

またモンロイリオス氏は、ユカタン半島において主要な上水源となっている地下の泉・河川の水系にディーゼル燃料が漏出する恐れもあると指摘する。

ロイターが取材した複数の科学者によれば、地下水系のうち位置を把握できていると思われるのは20%未満であり、こうしたダメージが生じれば、重要な地理学上の発見が制約されかねないという。

ヨロガナ洞窟の外でプラカードを持って抗議する人。2022年11月5日撮影(2023年 ロイター/Jose Luis Gonzalez)

政府による環境影響調査では、最も議論が紛糾している区間である第5工区における環境への影響は「軽微」で、適切に対策されているとしている。調査では、軌道建設作業において崩落のリスクは考慮されており、当該の地域は環境保護プログラムの観察対象になると述べている。

だが、数十人の科学者はこれに納得せず、公開書簡において、環境影響調査にはデータの古さや最近発見された洞窟の無視、地元の水文学専門家からの聴取不足などの問題が見られると指摘している。

ヨロガナ洞窟を調査する環境保護活動家クリスティナ・ノラスコ氏。2022年11月5日撮影(2023年 ロイター/Jose Luis Gonzalez)

メキシコ国立自治大学(UNAM)の科学者としてメリダで活動するフェルナンダ・ラゼス氏は、「彼らはこの土地の脆弱性から目を背けようとしている」と述べ、確認された問題は「非常に憂慮すべき」としている。

政府による環境影響調査に参加した70人の専門家の氏名は、公表された調査結果からは削除されている。

政府はその結論の根拠としてモンロイリオス氏のブログに収録された調査記事の1つを使っているが、同氏は調査報告の執筆者から連絡を受けたことは1度もないと述べている。モンロイリオス氏の調査記事では、この地域におけるインフラ整備プロジェクトについては徹底的な調査と監視が必要であると強調している。だが、それは実現していないと同氏は言う。

「結論ありきだったのではないか。工事を急ぎたがっており、それが問題の一部となっている。十分な吟味を行うだけの時間がない」

キンタナ・ロー州ブエナビスタの、木々が伐採された部分。2022年11月8日撮影(2023年 ロイター/Jose Luis Gonzalez)

政府による環境影響調査に参加した専門家の1人が匿名を条件にロイターの取材に応じ、調査は手早く行われたと語った。

「特に提出期限という点でプレッシャーがあった」とこの専門家は言う。

この専門家は、政府による環境影響調査の中で専門家らが強調したリスクについて政府が適切な対策をとらない、あるいは鉄道路線の保守管理のために必要なリソースを配分しないのではないかという懸念を口にしている。

FONATURでは、同プロジェクトにはリソースもあり、環境保護のために設けられたプログラムも含め今後のフォローアップ措置も行われると述べている。

FONATURはロイターに対し、「マヤ観光鉄道プロジェクトはもちろん安全だし、これまで同様に、環境当局による監視と規制を受ける」と述べている。

環境影響調査の報告を作成したメキシコ生態学研究所(INECOL)に繰り返しコメントを求めたが、回答は得られなかった。

ユカタン州マスカヌで積み上げられた線路。2022年5月16日撮影(2023年 ロイター/Jose Luis Gonzalez)

<忘れられた南東部>

マヤ観光鉄道については懸念がある一方で、数十年にわたり国内開発計画においてほとんど無視されてきたと感じている村落では、多くの人々がプロジェクトを支持している。

カンペチェ州を通過する第2工区にある埃っぽい小さな街スクンチェイル。ルツ・エルバ・ダマス・ヒネメスさん(69)は、線路近くで炭酸飲料やスナック菓子を売る小さな店を営んでいる。若い男性を中心に、隣人たちの多くは同プロジェクトの仕事をしていると話す。ヒメネスさんの店も利用客が増えている。

もとの家から立ち退き、引っ越したカンペチェ州アロの新居の前に立つロザリオさん。2022年5月12日撮影(2023年 ロイター/Jose Luis Gonzalez)

「政府は国のためによいことをやっている。こうした小さな街には働き口がまったくない時期もあった。今は仕事がある」とヒメネスさん。「実際のところ、私たちは鉄道路線の恩恵を受けている」

マーサ・ローザ・ロサドさんも気持ちは同じだ。以前の計画では、カンペチェ州カミノレアル地区にある彼女の自宅を鉄道が通過することになっており、政府から立ち退き料の支払いを提示された。

「これまでの政府は南東部のことなど思い出してもくれなかった。何でも北に持っていかれて、南東部は忘れられている」

450キロほど離れたプラヤ・デル・カルメン。週末になると、観光客で賑わうビーチリゾートの近くで、一群のボランティアたちがヘルメットとヘッドランプを装備し、状態を監視するために洞窟へと降りていく。

グループに参加する生物学者のロベルト・ロホ氏は、マヤ観光鉄道によって地上と地下の生態系全体がリスクに晒されるだろうと話す。

カラクムル生物圏保護区内の道路上にたたずむヒョウモンシチメンチョウ。2022年2月28日撮影(2023年 ロイター/Raquel Cunha)

マヤ観光鉄道が通過する予定地の直下にある洞窟の内部で、ロホ氏は「政府は、少なくとも4年前にやっておく必要があった調査を今になってやっている」と語る。

ロホ氏の背後では、洞窟の天井から目の粗いロープのように木の根が垂れ下がり、ロホ氏の足下に溜まった水を吸い上げようとしている。

「これは私たちの命だ。私たちは、この生態系の安定性をリスクに晒し、危うくしようとしている」とロホ氏は言う。

(翻訳:エァクレーレン)

for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up