[30日 ロイター BREAKINGVIEWS] - マネー・マーケット・ファンド(MMF)業界はこの10年ばかりの間に2度も崩壊の危機に陥った。そして3度目の危機も来るのを防ぐため、主要国・地域の金融監督機関でつくる金融安定理事会(FSB)が30日、一連のMMF改革案を提言した。これはそれなりの価値がある内容だ。
投資家の現金を流動性が高く、低リスクの資産で運用するMMFは、2008年の世界金融危機で大規模解約に直面。米政府が救済に乗り出さざるを得なくなった結果、欧州と米国双方で業界の耐性を強化する改革が策定された。ところが新型コロナウイルスのパンデミックが始まった昨年3月、再び解約が相次いで機関投資家向けプライムMMFの総資産の約30%相当が流出し、米連邦準備理事会(FRB)がまた救いの手を差し伸べることになった。
今回のFSBの提案は、現在8兆ドル規模のMMF業界がもう公的支援を当てにしないでも済むようにするのが狙いで、幾つかの適切な考えが盛り込まれている。業界のストレステスト(健全性審査)を実施することがその1つ。またMMFの流動性水準の引き上げ、つまり設定された期間には簡単に現金化が可能な資産について業者の保有量を増やすことも進言された。これはMMFを現金のように扱っているのに、運用担当者や販売元の銀行には余計なコスト負担をかけている企業の財務担当者の不安感を静めるだろう。
一方MMFに最低資本基準を課すという案は、既に銀行に同様の制度が適用されている点から魅力的に感じられる。ただMMFの運営側が品ぞろえを縮小してしまうと、投資家の選択肢を狭めるという意図せざる悪影響が発生しかねない。実際に昨年夏には、フィデリティ・インベストメンツが機関投資家向けの2つのファンドの閉鎖を決めた。
もっともこれらの提言はまだ、MMF業界の「病根」を確実に取り除く薬とまでは言えない。何らかの試行錯誤は付き物だからだ。14年には米証券取引委員会(SEC)がMMFに対し、流動性が特定水準を下回った場合、解約をできなくするか、投資家が不利になるような解約手数料を課す権利を与えた。しかし昨年の事態は、これが裏目に出たことを物語っている。なぜなら投資家は、そうした水準への到達が近いとの懸念が出た時点で、さっさと一斉に資金を引き揚げようとしたからだ。そこでFSBは、解約ペースを和らげるための手数料賦課などの解約制限をどのタイミングで導入するかは各ファンドの裁量に任せることを提案している。
結局のところMMFをどのように規制監督するかは各国・地域の当局に委ねられるし、それぞれの当局は独自の見解を持つだろう。例えばSECは今、金融危機後に米商品先物取引委員会(CFTC)トップを務めていたゲーリー・ゲンスラー氏を委員長に迎え、既にMMF改革の検討に入っている。とはいえ、運が良ければこれが最後になるであろうMMF改革作業において、FSBがうまく滑り出すきっかけを作ったことになる。
●背景となるニュース
*金融安定理事会(FSB)は30日、マネー・マーケット・ファンド(MMF)改革に関する提言を公表した。MMFは2008年に大規模解約に見舞われ、新型コロナウイルスの世界的な感染大流行が始まった昨年3月にも資金流出額が機関投資家向けプライムMMFの総資産の約3割に達したときがあった。
*FSBは(1)資本バッファー(2)ストレステスト(3)MMFの流動性が一定水準に低下した時に限定していた解約制限の規定を撤廃(4)定められた期間で現金化できる資産のファンドによる保有の拡大――などを提言した。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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