March 8, 2019 / 2:31 AM / 13 days ago

焦点:財政拡大理論「MMT」、理想の地は日本か

[東京 8日 ロイター] - MMT(Modern Monetary Theory、現代金融理論)が、注目を集めている。独自の通貨を持つ国の政府は、通貨を限度なく発行できるため、デフォルト(債務不履行)に陥ることはなく、政府債務残高がどれだけ増加しても問題はない、という考えだ。米国では、激しい論争を巻き起こしているが、財政が膨張しながら低金利にとどまる日本は理想の地なのか──。金融緩和策に限界論が出る中で支持が広がるか、市場の関心も高い。

 3月7日、MMT(Modern Monetary Theory、現代金融理論)が、注目を集めている。独自の通貨を持つ国の政府は、通貨を限度なく発行できるため、デフォルト(債務不履行)に陥ることはなく、政府債務残高がどれだけ増加しても問題はない、という考えだ。写真はスペインのセビリアで2014年11月撮影(2019年 ロイター/Marcelo Del Pozo)

<米大統領選2020の焦点にも>

アレクサンドリア・オカシオコルテス氏。昨年11月にニューヨーク州から連邦議会下院選に立候補し、29歳で当選。女性として史上最年少の米下院議員となった。将来の大統領候補との呼び声もかかる彼女が、MMTを支持したことで注目が一気に高まった。

2020年の大統領選をにらみ、野党・民主党では、財政政策の議論が活発化。民主党左派を中心に提唱されている国民皆医療保険や温暖化対策の1つである「グリーン・ニューディール」の財源を確保する手段の理論的裏付けとして、MMTが採用される可能性もある。

MMTの提唱者の1人である、ニューヨーク州立大学のステファニー・ケルトン教授によると、ユーロという共通通貨があり、独自の通貨を持たないギリシャなどは、独自の判断で無制限の流動性供給を行うことはできない。それゆえデフォルトリスクがある。

しかし、独自通貨を持つ米国のような国では、政府債務の増加がマクロ的な供給不足からインフレを起こすような場合でなければ、経済成長と雇用の増加が続いている限り、政府債務の増加自体は問題ない──。これがケルトン教授の説明するMMTのコア部分だ。

政府債務残高が22兆ドル(2200兆円)に達する米国では、債務上限問題が毎回議論となるが、この理論に基づけば、まだまだ国債を出していいことになる。

ケルトン教授は2016年の米国大統領選では、バーニー・サンダース上院議員の顧問を務めていた。サンダース氏が2020年の大統領選に出馬すると表明していることも、MMTから目が離せない理由の1つだ。

米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は、2月26日の議会証言で「自国通貨での借り入れが可能な国にとって赤字は問題でないという人もいるが、私は間違っていると思う」と明確に否定した。しかし、FRB議長が議論に参戦してきたことで、逆に注目を集めるという皮肉な結果になってしまっている。

<金融政策の限界論で脚光>

こうした理論が脚光を浴びているのは、世界的に金融政策の限界論が強まってきたことが背景だ。非伝統政策に踏み込んでも景気や物価の浮上効果は限定的で、次は財政が政策の中心になるの見方が増えてきている。

中国も5日から始まった全国人民代表大会で、大型減税や融資拡大で景気を支援する方針を示した。2019年に企業の税金や手数料を約2兆元削減するほか、地方政府の特別債発行枠を2兆1500億元に設定。単純に足し合わせれば「4兆元」規模の対策になる。

「国債を大量に発行すれば、価格は下がり、金利は上がる。投資家にとってみれば、国債の魅力は増す。現状で言えば米国などはまだまだ、国債を発行することはできるだろう。しかし、それが持続性を持つかどうかは別だ」とBNPパリバ証券・チーフエコノミスト、河野龍太郎氏は指摘する。

MMTの弱点は、金融市場の「反乱」だ。今は歴史的にみても低い水準にある金利が、政府や中央銀行への信頼が失われたときに、跳ね上がるリスクがある。

野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミスト、木内登英氏は「トランプ政権の財政拡張策によって双子の赤字、つまり財政赤字と経常赤字の同時拡大が進む現状では、財政赤字のさらなる拡大は経常赤字の一段の拡大観測を強め、それはドルの信認をも低下させる」(1日付リポート)と指摘する。

ドル安と悪い金利上昇とが、相乗的に進むリスクも高まる。米国の経常赤字は海外からのファイナンスでまかなっている。いくら金利が高くなっても、財政に不安がある国の債券は買われないだろう。米国経済が袋小路に追い詰められれば、世界のマーケットを揺らすことになる。

昨年10─12月、世界的な株安をもたらしたのは、金利の上昇が大きな要因だった。金利上昇のマイナスを上回って株価を押し上げるだけのインパクトが財政拡大策にあればいいが、そうでなければ、株安を通じた景気下押し圧力が強まりかねない。

<財政肥大でも金利ゼロの日本>

その点、MMTのような理論は、米国より日本の方が受け入れやすいかもしれない。

政府債務残高は対GDP比で200%を超え、世界でも類を見ない規模になっているにもかかわらず、金利水準はゼロ近傍と最も低いレベルだ。中央銀行が人為的に(長期)金利を低く抑える「実験」はもう済ませてあり、効果も実証済み。さらに幸か不幸か物価も上がらない。まさにMMTが主張するような状況に日本はある。

急激な景気後退や金融危機に陥らないような場合であっても、景気浮揚や物価上昇(デフレ脱却)のための、理論的支柱として使われる可能性もある。国土強靭化の名の下に、財政拡大を主張する政治家も少なくない。

日銀の金融緩和策の選択肢は、限られるとの見方も多い。マイナス金利の深掘りは地銀など金融機関に大きなダメージを与える可能性がある。銀行保有の国債は担保需要を除くとかなり減っており、かつての「バズーカ」のような民間からの大量の国債購入は難しくなっている。ETF(上場投資信託)増額も株式市場への副作用が増す。

大きな景気後退や金融危機が、新たに来たときに、金融政策の選択肢が多くないとすれば、財政に国の政策の中心がシフトする可能性がある。「財政拡大を正当化するような経済理論が、今後たくさん出てくるのではないか。その1つがMMTなのだろう」と三井住友銀行のチーフ・マーケット・エコノミスト、森谷亨氏はみる。

金融政策による財政ファイナンスは、誰もが否定するが「明示的ではないにせよ、財政を陰ながらサポートする金融政策という位置付けで、日銀による大量の国債購入が次のアベノミクスとして再開される可能性は否定できない」(国内銀行)との見方は根強い。

しかし、「財政を何に使うのかの議論が全くないまま、ばらまきに終わってしまう怖れがある」と、ニッセイ基礎研究所・チーフエコノミスト、矢嶋康次氏は警鐘を鳴らす。ばらまきでは、潜在成長率は上がらず、「借金」だけが積み上がる今の日本経済の状況が、さらに悪くなるだけだと懸念している。

(伊賀大記 編集:田巻一彦)

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