January 7, 2019 / 4:03 AM / 3 months ago

コラム:北朝鮮の非核化、トランプ氏に起死回生の一手はあるか

[3日 ロイター] - 新年を迎える伝統は、太平洋の東西で異なっている。シャンパンのボトルを空にし、頭痛と混濁した記憶を抱えて目覚めるのが米国の流儀だ。朝鮮半島では酒を慎み、元旦に家族のなかの年長者に頭を下げ、一族全体の平和と繁栄、健康を祈る祝福を受けるのが習わしである。

1月3日、新年を迎える伝統は、太平洋の東西で異なっている。写真は2018年6月、シンガポールで開かれた米朝首脳会談で握手するトランプ米大統領と北朝鮮の金恩氏(2019年 ロイター/Jonathan Ernst)

こうした文化的な差異はうわべだけのものに見えるだろうが、そこには外交政策における教訓が潜んでいるかもしれない。

1月1日、北朝鮮の指導者である金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は、政治的な意味での非常に大人数の「家族」に向けて演説し、2019年は「希望に満ちた」年になり、あらゆる朝鮮人が「南北交流の推進、平和と繁栄、祖国の再統一に向けた取組みをいっそう加速すべきである」と述べた。

史上初めて北朝鮮国民と同時に金正恩委員長による新年の演説をテレビ中継で視聴した韓国国民は、自国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領からも同じように楽観的なメッセージを受け取った。文大統領は国民向けの挨拶で「しっかりと平和を不可逆なものにする」と約束した。

確かにこれからの1年、南北の関係改善が続き、平和的共存に向けて両国が独自の道を切り開こうとする努力が行われるのは確実だ。一方で、トランプ米大統領は自己流で北朝鮮の非核化に挑んでいる。

この南北プラス米国という図式は、米韓の同盟関係にとっては幸先が悪い。米韓同盟には現在、在韓米軍駐留経費の負担に関する協定の期限切れと、対北朝鮮政策を巡る溝の拡大という暗雲が垂れ込めている。トランプ政権が新たな交渉材料を提示しない限り、状況は解消しないだろう。米国政府は、非核化への努力と並行して、和解と信頼構築措置についても韓国政府と手を携えていく必要がある。

昨年、外交上のドラマで主役を担ったのは文大統領と金委員長だった。4月から9月にかけての3度の首脳会談、非武装地帯(DMZ)付近の武装解除、両国軍の間のコミュニケーション確保、開城(北朝鮮)での共同連絡事務所の設立、鉄道・道路網接続への着手のような人目を引く直接行動は今後も続くだろう。さらに、金委員長が2018年12月30日付けで文大統領に送った親書で約束した、2019年中のソウル訪問という、新たな歴史的事件への準備もある。

対照的に、米朝両国の間の非核化交渉については、昨年6月の米朝首脳会談以来、これといった進展が見られない。

トランプ氏は会談の後、もはや北朝鮮の核兵器は脅威ではないと宣言したが、北朝鮮による核分裂物質の生産は続いており、11月には新たな「超近代的な戦術兵器」の実験を行っている。金委員長は新年の演説で米韓合同軍事演習の終了を求めたが、これについてはトランプ氏も南北首脳会談の円滑化のために一部同意している。さらに金委員長は米国政府に対し、「外部からの戦略的資産」の配備についても「中止」するよう求めた。同委員長がこの2つの要求を公言したのは初めてだが、米韓同盟の観点からすれば交渉の余地はない。

北朝鮮政府が核兵器に関する資産・情報の一部放棄に向けた準備として要求を積み増している可能性はある。他方、こうした要求は、金委員長には核開発計画を放棄する意図などまったくなく、米韓軍事同盟を弱体化する試みだという解釈もありうる。

米国政府は、2016年に北朝鮮、中国、さらには韓国政府内からの反対すら押し切って韓国内に配備したTHAAD(高高度防衛ミサイル)部隊の撤収を提案することで、非核化に向けた措置の順序をめぐる北朝鮮との意見対立を解消することができるかもしれない。こうした措置には、 核兵器・実験場の機能停止と検証、その見返りとしての制裁解除及び「平和体制」構築が含まれる。

在韓米軍とその装備は、非常に有能な韓国軍と合わせて、北朝鮮政府による通常兵器や核兵器を用いた軍事的冒険主義を抑止する基盤となっている。THAADを交渉材料にすることは、建設的な関与に向けた米国の思い切った意思表示になる。それこそ、南北を含め、世界の大部分が求めているものだ。

仮に、韓国、北朝鮮と米国がいずれも外交的な働きかけの継続と核をめぐる対立の解消を望んでいるとしても(ただし、金委員長が元旦の演説で「完全な非核化」が北朝鮮の国家方針であると初めて公言したとはいえ、依然としてかなり怪しい「仮に」だが)、建設的な戦略を折り合わせていく交渉担当者や明確な外交ビジョンがトランプ政権にそろっているかは不透明だ。

信頼構築に向けた動きがもう1つあるとすれば、米国(及び国連安全保障理事会)が、厳しい制裁の一部、特に軍事転用可能な技術や設備を対象とするものを維持しつつ、北朝鮮国内での人道支援のための資金供与と活動の再開を促すことだろう。

2018年以降、米国による北朝鮮渡航禁止措置により、多くの支援従事者が医薬や食糧などの支援提供を阻まれている。北朝鮮との取引に従事するあらゆる金融機関・商業組織に対して米国が一方的に科している制裁は、人道支援団体に言わせれば「一部の国連制裁に関する、不当に制限的な解釈」につながっており、「セーブ・ザ・チルドレン」や「グローバル・ファンド」などの団体は北朝鮮での活動を停止せざるをえなくなっている。

米国のビーガン北朝鮮担当特別代表は昨年9月、「適切な支援」の提供について協議するために人道支援団体の代表者らと2019年早々に会う予定だと述べ、何らかの措置を探り始めた。北朝鮮では、5歳以下の子どもの20%が栄養不良による発育障害に陥るなど、国民2500万人のうち約40%は栄養不良の状態にあるだけに、人道支援再開が急務であることは明らかだ。

また米国としては、停滞している人道支援資金の調達を活性化させるという選択肢もある。

北朝鮮向けの国際的な人道支援資金プランは、制裁を背景として、2012年の1億390万ドルから2018年には2640万ドル(約28億円)へと激減した。飢餓や病気に苦しむ人々には、自らの、あるいは国民全体の苦境を改善する力はない。「米国の人々からの贈り物」として食糧・医薬品パッケージを提供し、北朝鮮の診療所や学校、農場に米国民を派遣することは、米朝両国の政策に長期的な効果をもたらすだろう。そうした物資や資金が結局は軍その他の政府関係者の懐に入るという懐疑的な見方もあるが、北朝鮮での経験を有する専門家らは、そうした懸念はごくわずかであるという結論に達している。

唯一の共通体験が戦争である場合、国家指導者が互いに不信感を抱くのは当然である。韓国は、いまだ正式に終結していない朝鮮戦争(1950─53年)がもたらした悲嘆と憎悪を越え、基礎的な足場を築こうと努めている。米国と北朝鮮の間には、お互いに基本的な知識と理解が欠けている。

実質的な非核化を進める前に、米国は北朝鮮政府・国民との和解に向けた措置を講じる必要がある。非現実的な「一足飛びの信頼関係」を狙うよりも、小さな取組みを重ねた方が平和につながる確実な道を開けるのではなかろうか。

*筆者は、米ウェルズリー大学の政治学教授で、ブルッキングス研究所の上級研究員。(翻訳:エァクレーレン)

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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