[ニューヨーク 27日 ロイター BREAKINGVIEWS] - ウォール街の大御所にとって、最適な引き際はいつだろう。自社の業績が好調で、後継者の準備も整っている時ではないか。
その理屈で言うなら、在任期間が長い米金融大手トップのうち、最初に退任しそうなのはモルガン・スタンレーのジェームズ・ゴーマン最高経営責任者(CEO)になる。
2010年からモルガン・スタンレーを率いてきたオーストラリア人のゴーマン氏は、ほとんどの競合他社をしのぐ業績を達成してきた。当時、同社株に投資した1ドルは今では配当を含めて4ドル余りの価値に膨らんでいる。
このリターンはJPモルガンには及ばないものの、ゴールドマン・サックス、シティグループ、ウェルズ・ファーゴ、バンク・オブ・アメリカ(BofA)の4社を上回る実績だ。
これら競合他社のCEOはいずれも、シティのジェーン・フレーザー氏のように就任間もないか、あるいはBofAのブライアン・モイニハン氏やJPモルガンのジェイミー・ダイモン氏のように続投を計画している。
ゴーマン氏は、資産運用事業に賭けたという点でも、他社との違いが際立っている。コロナ禍中に米ネット証券大手のEトレード・フィナンシャルと資産運用会社イートン・バンスを200億ドルで買収。大規模な融資事業を抱える他の銀行と異なり、モルガン・スタンレーは消費者向け融資の焦げ付きを心配せずに済んだ。
優位に立っている時に退任すれば、ゴーマン氏はまたライバル勢と差をつけられるだろう。もっとも後継者は明確になっていない。ゴーマン氏は今年5月、後継者候補4人に新たな役割を与えた。いずれも長く同氏に仕えてきた側近らだ。
ただ、この中でモルガン・スタンレーの収益エンジンを引っ張ってきたのは資産運用部門トップのアンディー・サパースタイン氏と機関投資家向け証券業務を率いるテッド・ピック氏に絞られる。このため両者の「一騎打ち」になりそうだ。
モルガン・スタンレーの将来が資産運用事業にかかっていることを踏まえれば、サパースタイン氏の勝利が確実に見えるかもしれない。ゴーマン氏は顧客からの預かり資産を現在の6兆ドル強から10兆ドルに増やす意向を示しており、目標が達成できれば資産運用事業は同社収入の3分の2を占める可能性がある。
しかし、ピック氏には他の面で強みがある。同氏は金融危機の後に株式トレーディング部門を立て直した。同氏の管轄下、米5大トレーディング企業の収入に占める同社のシェアは10年前の13%から18%に拡大した。
今年は投資会社、アーケゴス・キャピタルの問題に絡んで10億ドルのトレーディング損失を出すなど、つまずく場面が無かったわけではない。
だが、4月の開示資料によると執行幹部の中でピック氏の報酬はゴーマン氏に次いで高い。つまりトレーディングはそもそも、他部門よりも大きなリスクを抱える事業であることが反映されている。
ピック氏の弱点は、ブローカレージ部門を率いた経験を持たないことだ。もっともゴーマン氏はおそらく前任者のジョン・マック氏に倣い、しばらく会長として事業を見守り続けるだろう。それまでに再度体制を刷新し、後継者に不足している経歴を埋めさせるだけの時間はありそうだ。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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